元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第4章 おっさん、祭りに参加する

第54話 勝利への選択


「それではチームを発表するぞ」

 全生徒分のデータを取り終え、分析した俺たち教師陣はこの日、チーム編成へと移っていた。

「じゃあまずは空術レースだが……」

 俺は次々と生徒の名前を挙げていく。
 昨日はまさに地獄の日々だった。

 数値化された生徒全員分のデータを全て解析、分類し、適正的なチームを作るのにはかなり時間がかかった。
 地道な作業が嫌いな俺にとっては苦行としか言いようがなかった。
 
 だがこれも勝つためだ。
 噂によるとこの大会のために全てをかけている講師も中にはいるとのことだ。

 まぁ当然と言えば当然だろう。
 なんたって優勝を手にした瞬間、自分の夢がいとも簡単に叶ってしまうのだから。

 俺もその内の一人だ。
 やるからには勝利以外あり得ない。というか負けたら俺のプライドが許せない。

 こんな気持ちを抱きつつ、俺は作業に没頭していた。

「最後に総合決闘のメンバーを発表する」

 俺は最後の競技のメンバーを発表し、チーム編成は終了した。

 ―――カーンカーン。

 授業終了を告げる鐘が鳴り響いた。

「次の時間からは早速魔技祭に向けての訓練に入る。各々しっかりと準備をしておけ」

 これだけ告げると俺は教室を後にした。


「はぁ……疲れた」

 慣れないことはやるもんじゃないなと思う。
 俺はリラクゼーションルームにある椅子にドスッと腰を掛ける。

「これから戦術もたてなければならんのか。先が長いな」

 深く溜息をつく。
 もう何度目か分からないほどだった。

「お疲れですね、先生」

 顔を上げるとコーヒーを片手に微笑むレーナの姿があった。

「ああ、少々気合いが入りすぎたようだ」

 レーナからコーヒーを受け取る。

「うん、美味い。疲れた身体に染みるな」
「良かったです」

 レーナが俺の隣に腰を掛ける。

「最近のレイナードは生き生きしていてとても楽しそうです」
「ん? どうしたんだいきなり」
「い、いえ。なんかいつもやる気がなくてぼーっとしているイメージが強かったので」
「そ、そうなのか」

 そういうイメージがついてしまうのも無理はない。
 なぜなら本当に怠いし、しんどいからだ。
 でもレーナが言う通り、最近はそんな感情さえも忘れていた気がする。
 ふと目標ができて熱中してしまうと他の事を忘れてしまうという現象が俺の中で起きていた。

「変か?」

 俺はレーナの表情を伺う。

「いえ、むしろ今のレイナードの方が輝いていて好きですよ」

 少し照れくさそうに話す。

 輝いている……か。本当にそうなのだろうか?
 かつての俺は本当に輝いていた。
 しかし今はどうだろうか? 輝きどころか暗闇の底で生きているような感じがする。
 
 物音一つしない暗くて静寂に満ちた世界だ。

 いや、考えるまでもないか。

 俺はレーナに一言礼を言う。

「すまんな。こんなことに付きあわせて」
「な、何を言っているんですかレイナード! 私は先生の助手です。よって先生の意向に従う義務があります!」
「それはそうだが、無理はするな。身体を壊しては元も子もない」
「それは先生も同じじゃないですか……」
「え?」

 悲しそうな顔をするレーナは続けて話す。

「知っていますよ。先生が夜遅くまでずっと作業していたの」
「見ていたのか?」
「はい、集中されていたようなので話をかけづらくて見守ることしかできませんでしたが……」

 そうだったのか。
 嫌々ながら付き合ってくれているのかと思っていた自分が恥ずかしく思えてくる。

 魔技祭と言っても講師陣は他の仕事もあるため、これだけに時間を費やすことは限りなく不可能だ。

 だがレーナやハルカは自分の仕事を早く終わらせ、申し分ないくらいに手伝ってくれている。
 それも休日までフルに使ってだ。

 普通ならそこまではしない。
 休日でも仕事をするなんて俺から言わせれば地獄の他になにもない。

 でも二人は喜んでやってくれていた。
 
 これは感謝しないと罰が当たる。
 余計に生半可な結果では終われなくなった。

「だからレイナードも無理はしないでくださいね」
「ああ、ありがとうな」

 いつの間にか自分の身体から疲れが引いていくのを感じた。
 さっきまでクタクタだったのに不思議である。

 なんだかレーナといると心地いい気分になる。
 なぜかは分からない。

「よし、次はいよいよ実戦だ。いくぞレーナ」
「はい!」

 俺は再び立ち上がり、教室へと足を運んだ。


 歩いていくと教室の前がなにやら騒がしかった。

「あの人だかりはなんでしょうか?」


 その場所は間違いなく1年A組の前だった。

「あ、レイナード先生。大変なんですよ~」

 教室の前にはハルカの姿もあった。

「どうしたんだ?」
「その……隣のB組が……」
「B組?」

 俺は教室を覗きこむ。

「すまない、ちょっとどいてくれ」

 人だかりをかき分け、中に進むと例のあの男が滑り込むように出てきた。

「お待ちしていましたよ、レイナード先生!」
「お、お前……」

 1年B組のクラス担任で俺に次ぐ人気を誇る男、ラルゴ・ノートリウムだ。
 大体騒がしくなると中心にこいつがいる。
 仕事なので仕方がないが、正直絡みたくない男だ。

「今回は何の用だ? これから授業なのだが?」
「授業? ハッハッハ! いつも自習を強いる先生が何をおっしゃりますか」

 いきなり他の教室に押しかけてきた上に盛大に煽られる。

「おい、レーナ。こいつもう殺してもいいか?」
「お、抑えてください先生!」

 怒りがこみ上げている俺をレーナが必死に止める。

「まぁまぁ落ち着いてくださいレイナード先生。今日はあなた方1年A組と魔技祭の予行演習をしようと思って頼みにきたのです」
「予行演習だと?」

 話によるとお互いの能力向上や実戦経験を積むといったことに焦点を当て、その上で魔技祭に向けて合同で練習をしようじゃないかという提案だった。

「お前たちとか?」
「ええ、きっといい練習相手になりますよ。目指しているんですよね? 優勝を」
「なぜそれを……」
「あそこまで真剣にやっていれば分かりますよ。私も同じ思いですので」

 同じ思いということはこいつも優勝を狙っているということか。
 合同で練習を行うということは相手に手の内をばらしてしまうという問題点がある。
 だがその反面、実戦を行うことで訓練では掴めない感覚や雰囲気というものを肌で感じることができる。
 リスクを伴うが、得るものも多い。

「どうしますか先生。我々と練習しませんか?」

 こいつが何を考えているかは分からない。
 だが、こういうものは知識だけじゃなく実戦がモノを言う時もある。
 それにクラス内で実戦練習をしなくてもよくなるので様々な組み合わせで競技を試すことができる。

 色々考えた挙句、俺の中で答えがまとまる。

「分かった。B組との予行演習を承諾しよう」

 俺はB組との演習を認めた。

 そしてラルゴは表情一つ変えず、

「ありがとうございます先生。お互い、いい演習にしましょう」

 彼は一言そう告げると後ろを振り返り、教室から去っていった。
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