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第4章 おっさん、祭りに参加する
第56話 予行演習2
―――ピーッ!
高らかに笛の音が鳴り響く。
瞬間。二人の生徒は勢いよく飛び出した。
今日は予行演習一日目。空術競技の練習だ。
そして今、1年A組VS1年B組の模擬戦が始まった。
「―――いけぇ! リーフちゃ~ん!」
「―――負けるなリアム!」
両クラスの声援が演習場に響き渡る。
両者とも良い滑り出しだ。
ただ少しだけリアムの方がスタートの反応速度が速いかという感じだった。
よし、スタートは申し分ないな。
この競技は一つ一つの動きの速さが勝利に求められるのでスタートからゴールまで常に意識を持って臨まないといけない。
特に出だしのスタートダッシュはかなり重要だ。それだけでコンマ何秒か変わってくるからである。
両者はスピードに乗り、最初のカーブに入りかかろうとする。
この時点で直線はリアムの方がやや優勢。ここはやはり男女での魔力量に違いがあるため致し方ないと言えよう。
だがさすがリーフだ。空術を得意とするリアムとスピードを互角まで持ってきている。
そして両者はカーブへと入っていった。
だがその時だ。リアムのスピードは止まるどころかグングン加速していっている。
「なっ! カーブなのにスピードを落とさないだと!?」
リアムは直線のスピードを保ちつつカーブを綺麗に曲がっていく。
一方でリーフはカーブ直前にややスピードを落としたためか一気に引き離される。
これは驚きだった。直線のスピードを維持しつつあの急なカーブを曲がることなど相当な高等テクニックを有しない限り不可能だ。
とてつもなく緻密な魔力操作を必要とする上に一瞬でその操作を可能にする強い精神力も必要だ。
並大抵の人間ではできたもんじゃない。
「なるほど……中々やるな」
その後もB組の快進撃は止まらなかった。
一人たりとも隙がなく完璧な動きをされ、我々A組は初戦にして惨敗した。
「勝者、B組!」
こうして予行練習一日目は幕を閉じた。
* * *
「すみませんでした先生……勝てませんでした」
競技後、教室に戻るなりリーフとその他のメンバーに謝罪された。
「いや、気にするな。相手はしっかりと研究された動きをしていた。オレの考えが浅はかだった」
落ち込む生徒たちを慰める。
今回は確実に俺の采配ミスだ。予行演習とはいえもう少し真剣に考えるべきだった。
「それで……先生」
「ん? なんだ?」
リーフがモジモジしながら問いかける。
「あの……今日のB組のレーススタイルを見て思ったんですが、全員終始スピードが落ちていなくてその上……」
「とてつもねぇスピードだったな」
「ああ、ありゃ反則級だぜ」
出場した全生徒がB組の圧倒的なスピードを感じていたようだ。
確かに凄かった。実際にあの場に立っていなくとも疾走感を感じたくらいだ。
あの場に立っていたらもっとそれが感じられたことだろう。
「空術競技の練習は二日後にもう一度ある。今日の放課後に特訓を予定しているが大丈夫か?」
「は、はい! もちろんです!」
その他の生徒もやる気十分のようだ。
「よし、じゃあ全員放課後に集合だ。いいな?」
『はい!』
俺は生徒たちにこう告げるともう一度戦術を練り直すべく講師室へと戻る。
そして講師室に戻るなりすぐに生徒たちのデータを見直す。
「ふぅ、どうしたものか……」
俺はデータの書いてある書類とにらめっこする。
B組の生徒たちは急速にカーブを曲がれる速度が頭の中に入っていた。
だからこそ一度もスピードを落とさず曲がりきることができた。よくよく考えてみれば計算され尽くされてた動きだ。
これもあの男、ラルゴの仕業なのだろうか。
一瞬の隙も無かった。まるであの競技の全てを知り尽くしているかのように。
非常に厄介な相手だ。
しかしこんな所で足踏みをしている暇はない。
相手がどうであれ俺たちは俺たちにしかできない戦い方をすればいいのだ。
下手に考えれば足元をすくわれる。
「はぁ……とりあえず他の競技の事も考えねばな……」
ぐったりと肩を落とし、手元に置いてあったコーヒー一杯をグイッと飲む。
するといきなり目の前が真っ暗になる。
「んんっ!? なんだ?」
「だーれだ?」
「ん? その声はハルカか?」
「せいかいです! さっすが先生」
「どうしたいきなり。子どもみたいだぞ」
「別にいいじゃないですかー」
ハルカはいつでも元気だった。
こいつのスタミナは底なしなのか? と思ってしまうくらいだ。
「熱中するのはいいですけどあまり無理しないようにしてくださいね」
「レーナも言っていたが……そう見えるのか?」
「そりゃ、いつもの姿を知っていれば誰だってそう見えますよ」
いつもの姿……か。
確かに自分でもなぜここまで熱中しているか未だに理解できていない。
金という目標があり、その先に俺の理想とする生活がある。
ただそれだけだ。
なんだか昔と比べて人間らしい生活をしているような気がする。
思い返せば英雄時代の俺は人間ではなかった。化け物、いや悪魔と言っても良い。
冷徹で誰も信じず、自分の力こそが全てという考え方が普通だった。
だが全てを失って不自由な物が出てきた。
だから俺はこうして魔術講師として働いている。
「変わったな。オレも……」
昔のような俺は完全とは言わないがどこかでいなくなっているようにも思える。
怠いし面倒だが心の底では今の生活を悪いとは思っていなかった。
むしろ許容している自分がいたくらいだ。
「せんせー? せんせー!」
「んわっ!?」
ぼーっとしていた所を耳元で呼ばれたことで変な声がでてしまう。
「お、おい……いきなり耳元で大声を出すな」
「それは先生がフリーズしているからですよ。何回も呼び掛けたのに」
「そ、そうなのか……悪かった」
「まぁいいですけど、そろそろいかなくていいんですか?」
「は? 何をだ?」
「特訓ですよ、特訓! 約束してたんじゃなかったんですか?」
「へ?」
俺はすぐさま時計を見ると約束の時間を大幅に越えていた。
「うわっマジか!」
俺は慌てて準備をする。
「悪いハルカ。この書類片付けておいてくれないか?」
「はーい、分かりましたよ。あと生徒たちにはしっかり謝るんですよ?」
「ああ、分かっている」
俺はそのまま引き付けられるかのように講師室を去った。
「はぁ……いつもは冷静なのにどこか抜けてるんだよなぁ……まぁそこが先生の可愛い所なんだけど……」
ハルカは深い溜息を漏らしつつも、書類でいっぱいになった俺の机を整理し始める。
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