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第4章 おっさん、祭りに参加する
第57.5話 例の秘薬(前)
しおりを挟む―――この話は1年B組との予行演習が行われる前、生徒たちのデータ分析をしている最中に起こった出来事である。
「くそっ、ずっとデスクワークだと肩が凝って仕方がない」
俺は我がクラスA組の生徒全員のデータを分析していた。
データ取りは案外時間をかけずに終えることができ、優秀な助手を持って非常に助かったわけだが本題はここからであった。
「むぅ……中々偏りがあって厳しいな」
そう都合よく競技ごとに選手を上手く当てはめられるわけもなかった。
どの生徒も偏りがあり、チーム編成をしてみたとしてもどうしてもどこかに能力の穴が開く。
もう丸二日こんな感じだ。例えるなら複数人で行う超難関のパズルゲームを一人でこなしているような気分だ。
ずっと座っていたためか腰が痛い。いや、腰だけじゃないな。眼も疲れてるし、肩もだいぶ凝っている。
身体はほぼほぼ限界に達していた。
「まずいな……このままだと栄養失調で死ぬ」
極め付けは何も食べていないということだ。
元英雄で魔王を一人で討伐した前代未聞の負けなし最強キャスターでも中身は人間。
何も飲み食いしなければ餓死もするし脱水症状にもなる。
くっ、こんなことなら魔族に魂を売って人間やめればよかった。
こんな考え方も出てくるくらい追い込まれていたのだ。
「はぁ……」
俺はデスクの上で伏せる。
と、その時胸元でコロンと何かが落ちた音が聞こえた。
「ん? これは……」
落ちていたのは謎の青い液体が入った小瓶だった。
胸ポケットにずっと入れたままそのままにしていたのだろう。
「確かこれは”あのバカ”に貰ったやつだな」
あのバカとは隣のB組の担任でありいつもどこか彼方へ突っ走っている自称有能魔術講師、ラルゴ・ノートリウムのことだ。
(確かこの小瓶に入っている液体は秘薬かなにかだと言っていたな)
一応言っておくが俺は今までで一度もポーションを始めとする回復薬を口にしたことはない。
なぜか? 俺には不必要なモノだったからだ。
まず今までの戦いで肉体的なダメージを負ったことは一度もない。
誰も俺に触れずして無残に散っていったからだ。
なのでこのようなものを口にするのは人生で初めて。正直に言うと少し抵抗がある。
「これ大丈夫なのか?」
市販のポーションとかならまだしも”あいつ”から貰ったものである故に不安度が増す。
しかしだ。今はそんな甘いことも言っていられない。
身体がボロッカス寸前。このまま同じことをしているとどうなるか分からない。
くっ! まさかあんな奴に貰ったものに頼ることになるとはな。
不本意だが仕方ない。
俺はグッとこらえ、その青く澄んだ謎の液体を飲み干す。
―――ゴクッ!
ぷはぁ……苦い!
味はただひたすら苦いだけだった。
道端に生えている薬草みたいな味だ。
俺は飲んだ後、しばらく身体を安静にしていた。
すると、
「むっ? 身体が……」
みるみる回復していく。
身体がどんどん軽くなり、腰や肩の痛みが無くなっていく。
「バカな、まだ数分だぞ」
超即効性のある薬だ。
飲んでから5分足らずで身体は完全に回復した。
「これなら……まだやれるぞ!」
そう思い、再度仕事にとりかかろうとした時であった。
身体に少しばかり異変を感じる。
なんか変だ。
アソコの部分に感覚がない。
しかもだ、なにやら胸元がやけに重い。
そして長くないはずの髪が俺の胸元まで垂れ下がっている。
ま、まさか……
俺はすぐに講師室の隅にある鏡を見た。
なっ!?
驚愕。鏡の中には見ず知らずの女の顔が映っていたのだ。
「お前誰だ……?」
しかし講師室には俺以外誰もいない。
と、いうことは……
「まさか……オレか!?」
間違いない。
この長い髪、ぱつんぱつんに張った大きな胸、そしてこの細いくびれ。
俺が……女になっている……
しばらく俺は情報整理に追われた。
信じられないことが起こり、冷静さが欠かれる。
落ち着け……おそらくこうなったのはあの薬の影響だ。恐らくあの薬には性転換の作用がある何かが入っていたのだろう。
とりあえず、”あのバカ”に突き詰める必要があるみたいだ。
そしてちょうどその時、その”バカ”が講師室へと入ってきた。
お、ナイスタイミングだ。
「おい、ラルゴ」
俺はすぐさまラルゴの元へ走り寄る。
「ん? 見ない顔ですねぇ。ここに何か用でしょうか?」
「何か用でしょうかだと? キサマ、オレに変な薬を渡したな?」
「変な薬……? あ!」
やっと気づいたか。
と、思ったが、
「薬剤師の方なんでしたか! わざわざご苦労様です」
「ああん?」
通じていなかった。
とりあえず誰かが来る前にこの姿を戻してもらわないといけない。
俺はこの”バカ”に事情をすべて話した。
「うっぷす! なんとまぁ!」
「くっ……!」
いちいち腹が立つリアクションだ。
なぜこんなにも相手をイライラさせることができるのか、ある意味天才だわこいつ。
「とにかく、早く戻せ。でないとここで消し炭にするぞ」
「いや、まぁまぁ落ち着いてください。レイナード先生。案外可愛いですよ?」
「は? オレは可愛さなど微塵も求めていない。これ以上調子をこくようなら……」
俺が凄い形相で睨むと流石にまずいと思ったのかラルゴの顔が真剣になる。
「いや、まさかこんなことになるなんて私も思わなかったのですよ」
「なんだと? どういうことだ?」
「その……その薬はイラーハが作った試作薬だったんですよ。快楽の力で身体を癒す究極の薬を作るためのね」
「イラーハ……」
その名前、どこかで聞いたことがある。
んっ? まさかあの錬金術の……
思い出した。
俺がハルカの母国、ホンニに出向いている最中に開いた我がA組の臨時担任をしてくれていた女性講師だ。
確か普段は錬金術を教えていると言っていた。
「おい、今その女はどこにいる?」
「えっ? 今は多分錬金術生がいる別棟にいるかと」
「分かった。お前も来い!」
「え? ちょちょちょっとレイナード先生!?」
俺はラルゴの腕を無理矢理引っ張り、イラーハを探しに講師室を出た。
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