59 / 127
第4章 おっさん、祭りに参加する
第58話 成長
「よーい」
この瞬間、周りは静けさを増す。
―――ピーッ!
笛の音が鳴り、両者一斉にスタートをする。
今日はB組との最後の模擬戦。
前回負けているのもあり、俺たちは特訓をして今日を望んだ。
第1飛者は前回と変わらずリーフが先陣を切る。
相手は前回と変わらずリアムが第1飛者だ。
滑り出しは両者とも互角。
ここまでは前回と同様、何も問題はない。
問題はその次の第1カーブだ。前回の模擬戦ではここで決着がついたと言っても過言ではない。
リアムは前回と同様にスピードを落とす気配はない。恐らく同じ戦法だ。
対するリーフのスピードはぐんぐんと落ちていく。
「前回と変わった様子はありませんねぇ。今日も我々の……」
その時だ。カーブに入りかかろうとした途端にリーフのスピードはどんどん上がっていく。
そしてぴったりとリアムの後ろにつけた。
「どういうことですか!? 確かにスピードは落ちていたはず!」
(ふん、どうやら驚いているようだな)
そう、これこそが一昨日の特訓で身に付けた新技だ。
カーブに入りかかる直前に一気にフルスピード、そして相手の後ろにぴったりとつけることによって前方からの風を遮断。
これならスタミナを減らすことなく効率の良い速さを実現することができる。
俺は特訓でこれを教えていたのだ。
B組の戦法は確かに鋭く、瞬間的なスピードはとてつもないものだ。しかし、それと同時にスタミナを代償にしなければならないという欠点も兼ね揃えている。
俺は彼らのその能力を上手く利用したということだ。
この戦法が実現できたのは俺が着任した当初、彼らに感覚の扱い方を教えたことが大きかった。
魔力の流れを曲がる方向へ一気に持っていくことによってスピードを落とさず曲がることができる。
ただそれでは彼らのスタミナが尋常ではないくらい必要になる。
それで編み出したのがこの戦法ということだ。
「なるほど……さすがレイナード先生ですね……」
終盤に差し掛かるとB組の勢いが一気に落ちた。
そして最後はアンカーのセリナが一気に追い抜き、逆転。我々A組は前回の敗北を払拭する逆転勝利を収めた。
「せんせー! 勝ちましたよ~!」
「ああ、よくやった」
真っ先にリーフが俺の元へやってくる。
輝くような眼差しを向けられ、少し動揺する。
だが良かった。この勝利はメンバーにとって非常に大きなものとなっただろう。
魔技祭まで期間はそこまでない。短時間の特訓で適応してきた彼女たちの才能はやはり素晴らしいものだ。
これなら十二分に優勝できる。
「よし、ひとまず初勝利だな。だがここで立ち止まるわけにはいかないぞ。他の競技も磨きをかけなければならないからな」
「そうですね。でもこれからどうすれば……」
勝利とはいえ、やはり不安があるのだろう。
リーフは不安げな顔する。
だが助言ばかりでは彼女らのためにはならない。
突き放すようで悪いが、ここは自分たちで考えてもらうことにしよう。
「お前がリーダーとなって練習をしておけ」
「えっ……? 私が……?」
「ああ、そうだ」
さらに不安を募らせたような表情をする。
奥手な彼女の性格上、無理もない。
リーダー格の人物ではないことは承知の上だが、能力あるものが先頭に立ったほうが良いのは明白だ。
「大丈夫だ、リーフならやれる。自分を信じろ」
考えるリーフ。でも勝ちたいのは一緒だ。
彼女はすぐに決断する。
「……はい、分かりました」
「よし、空術競技のことは頼んだぞ」
「はい!」
元気の良い返事だ。
この分なら問題ないだろう。
「お前たちもリーフに従って勝ちを狙いに行け! わかったか?」
「「「「「はい!」」」」」
こうして二度目のB組との予行演習は勝利で幕を閉じた。
* * *
「くそっ!」
思いっきり地面を殴るリアム。身体全体から悔しさがにじみ出ていた。
「リアム、落ち着きなさい」
「これが落ち着いていられるか! 俺たちはまんまとハメられたんだ」
「でもまぁ、これが結果だから仕方ないんじゃなぁい?」
「そうですね、また対策を考えなければいけませんね」
B組主力メンバーたちがリアムの前に集まって来る。
ラルゴもその後に続く。
「申し訳ありません皆さん。私の判断ミスです」
「そうだ、お前が……!」
「リアム!」
ラルゴにくってかかろうとしたリアムを姉のルーシアが止めに入る。
「ちっ……」
姉には逆らえないのか素直に引き下がるリアム。彼は筋金入りの負けず嫌いなのだ。
今は悔しいという感情の高まりを抑えきれないという感じだった。
「リアムくんの気持ちも分かります。今のままでは優勝はできません。”あの方”どころかA組にも」
「先生もそう気を落とさないでください。まだまだこれからですよ」
「ありがとうございます、ルーシアさん。もう一度皆で考え直しましょう」
(そう……全ては私の悲願のために……)
その爽やかな素顔の中で彼は密かな闘志を燃やしているのだった。
* * *
全てが終わったのち、俺は講師室でぐったりとしていた。
「ああ……疲れた」
色々と頭を使った上にあの暑さだ。
もう既に頭のネジが取れたのではないかと疑うくらい脳の機能が停止していた。
「魔技祭まであとギリギリ一か月ってとこか。他の競技にも目を光らせないとな」
しかし全ての競技を完璧に磨き上げるのはほぼ不可能。それはどのクラスにも言えたことだ。
最後に勝つのは少ない時間でどれだけ競技のことを知り、能力を最大限に発揮できるかだ。
とりあえず……今は休むか……
この停止した脳では何を考えても無駄だ。
今はこのクソみたいに疲れ切った身体を癒すことが先決だ。
俺はそのまま自分の作業机に突っ伏し、いつの間にか深い眠りについていたのだった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?
chocopoppo
ファンタジー
【毎日12:10更新!】
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。
特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。
第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。