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第4章 おっさん、祭りに参加する
第60話 一つ屋根の下
しおりを挟む現在、我が城にはレーナがお邪魔している。
学園で疲労による爆睡をかましたことでレーナが家まで運んでくれたのだ。
だが俺に気を取られたことで帰りの馬車の時間を越してしまい、やむを得ず泊まるということになったわけだが……
「布団が……一つしかない」
それはそうだ。住んでいるのは俺一人、誰かが来るわけでもないと思っていたので二組も布団があるわけがない。
「私は地面でも構いませんよ。冷たい床で寝るのは慣れっこですから」
「いや、そういうわけにもいかんだろ」
さすがに女性相手に自分が良い寝床で寝るのは気が引ける。
かといって小さい布団で一緒に寝るというのも色々と問題だ。
「オレが床で寝よう。レーナは布団で寝てくれ」
「い、いいえ! ホント大丈夫ですから! レイナードが風邪を引いてしまいます!」
「いや……」
この程度で風邪を引くなんてたまったもんじゃない。
自慢じゃないが俺は生まれてから一度も病気や風邪になったことはない。
なぜなら体内に溜まっている膨大な魔力がウイルスを消し去ってしまうからだ。
それに今レーナに風邪を引かれたらこっちも頭を抱えることになってしまう。
俺はレーナに布団へ行くよう強く薦めた。
「ほ、ホントによろしいのですか?」
「ああ、年はとったが身体はかなり丈夫だ。問題はない」
「では……お言葉に甘えさせていただきます」
今更だが俺がなんとかして連れて帰るべきだったと後悔する。
レーナの家までは馬車を使って片道15分ちょっと、歩けば30分ちょっとから約1時間くらいはかかる道のりだ。
俺の高速移動を可能にするバフ魔術を施せばなんとでもなった。
だがまぁ、こうなってしまった以上仕方がない。
俺は服を脱ぎだし、近くにあったクローゼットから寝間着を取り出す。
「いまからお風呂ですか?」
「ああ。いつもは朝しか入らないのだが今日はやけに汗をかいたからな」
実際は汗の匂いなどを気にしての行動であり、レーナに臭い人間と思われたくないという気持ちがあった。
それに長時間爆睡したことで大量の汗をかいており、制服の下のシャツは少し湿っていた。
これはさすがに風呂に入らないとまずい。
俺はタンクトップ一枚のまま脱衣所へと向かう。
すると、
「あ、あの!」
レーナだ。
「ん? どうした?」
「えっと……その……」
何かモジモジしている。
言いにくいことでもあるのだろうか。
少し表情も暗い気がする。
もしやあんまりにもオンボロハウスなものだから一発文句を言いたいとかなのか?
気分を悪くさせたかと少し不安になった時レーナは少し顔を赤くして、
「その……お背中……お流ししましょうか?」
え……?
お背中を流すとは一緒に風呂に入るということか?
だがレーナは先ほど風呂に入っていたはず、なのにもう一回入るとはレーナは風呂好きなのだろうか。
「いや、自分でそれぐらいはできるのだが……」
「そ、そうですけどやりたいんです!」
やりたいだと? どういうことなんだ?
今の若い年頃の女性は男の背中を流すのが流行っているのか。
理解不能である。
しかしどちらにせよそれは無理な話だ。
仮にも俺とレーナは男と女。兄妹ならまだしもそれ以外の女性と風呂に入るというのはいささかどうなのであろうか。
しかも俺は御年35歳でレーナは24歳。下手したら犯罪沙汰になってもおかしくはない年齢差だ、
レーナの意志を否定するのは申し訳ないが、ここは断ることにしよう。
「すまないがレーナ。さすがにそれは問題になりかねない」
「で、ですが私はもっとレイナードの役に立ちたいんです! なので……」
「お前はもう十分に役立っているのだが……?」
「えっ……?」
何をそう不思議な顔をするか。お前はもう十分に役立っている。
正直レーナがいなければ仕事が上手くいかないのは本当だ。
情けない話だが今の俺にはレーナが必要だ。
「俺にはレーナが必要なんだ。今もこれからも。だから気にするな」
「……それは本当ですか? 嘘じゃないですよね?」
「ああ、本当だ。もっと自分に自信を持て」
「………はい。ありがとうございます」
さっきまで強張っていたレーナの表情が少しだけ緩くなった気がする。
俺の知らない所で彼女は悩んでいたのかもしれない。
自分の存在理由はどういうものなのかを。彼女の歩んできた人生が壮絶なものである故に物事を深く考えてしまうのだ。
俺はレーナの肩にそっと手をのせる。
「少し疲れているみたいだな。もうゆっくり寝て休め」
「……はい」
レーナは元々持っていた私服を着たまま就寝に入った。
彼女は退勤時に仕事服のまま帰る俺と違い、しっかりと私服を持参してくるのだ。
もっと寝やすい服を貸してあげたい所だが生憎自分の寝間着以外にまともなものはない。
「さて、そろそろ風呂に入るか……」
レーナが就寝したことを確認し、俺は風呂へ入りに行く。
―――ジャーーー
「ふぅ……まさかこんなことになるとはな」
疲れ切った身体を温かいシャワーを浴びて潤す。
正直一番疲れが取れる瞬間と言えば風呂に入っている時だ。
水を浴びると色々な所が浄化されているような気がしてとても気持ちがいい。
「役に立っている……か。実際自分はどうなのだろうか」
昔の俺は周りの人間からすれば必要不可欠な存在だった。
魔王が復活し、絶望の淵に立たされた国とその民たち、いや世界中の人々を救ったのだ。
とび抜けた実力を持ち、最強魔術師集団である神魔団ですらオレを必要としたくらいなのだ。
なので自分が必要か不必要なのか考えるまでもなかった。
だが今はどうだろうか? 雑務に関してはレーナやハルカに劣るし、ラルゴのような雑学的な指導ができるわけでもない。
むしろ俺が問いただしたいくらいだった。
「ふぅ……まぁ考えすぎか」
俺がシャワーを浴び、身体を洗おうとすると脱衣所の方から声が聞こえた。
「すみません先生。入りますね」
「……は?」
考える暇もなかった。
浴室の扉がそっと開き、胸元までタオルを巻いたレーナが入ってきた。
「先生、お背中……流しますね」
俺は突然の出来事に何も言うことができなかった。
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