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第4章 おっさん、祭りに参加する
第72話 伝説の3年A組
―――ガタン!
「悪い! 今大丈夫か!?」
俺は保健室、正確には医務室の扉を騒々しく開けて中へと入る。
「え、ええ!? ど、どうかしたのですか?」
「ああ、すこし体調不良者が出てな。早急に見れるか?」
「あ、はい! 全然大丈夫です!」
「すまない、では頼む」
時刻はもうすぐ日没。残業のある者以外はそろそろ退勤の時間だ。
特にその中でも朝が早く帰りも早いのが医療講師。まぁいわゆる学園内のお医者さんといった人のことを指す。
そしてこの名門、アロナード学園医務室の一切を仕切るこの人は医療講師のミキ・カルサワ。美しい黒髪と清楚な身だしなみ、そして赤フレームの眼鏡をかけた美女だ。歳はまだ若いらしいがその大人しい性格と外見などの雰囲気からたいぶ年上に見られることが多いらしく、現に一部の生徒からは『ミキ姐』の愛称で通っているらしい。
ちなみに噂によると彼女はこの世界の人間ではないらしく、前世の世界では『なーす』と呼ばれる職業についていたそうだ。名前と髪色からハルカと同じホンニの人間なのかと思ったが、そうではないらしい。俺も前に疲労で体調を崩した際に、彼女の世話になった。
それから何度か彼女の世話になっており、今に至るわけだ。
「……う~ん、これはただの疲れですね。熱もないようですし大丈夫かと……」
「そ、そうなのか? 顔が真っ赤だったから相当熱があるのかと……」
「だから大丈夫って言ったじゃないですか……」
俺の早とちりだったのか……? だがなぜあんなに顔が真っ赤になっていたのだろうか。確かに今は先ほどより顔が赤くはなっていない。
「す、すまん。かなり辛そうに見えたからつい早すぎる判断を……」
「い、いえ。大丈夫です」
「本当か?」
はいと頷くレーナは最後に小声で一言付け加える。
(そ、それに……少し嬉しかったですし……)
「ん? 何か言ったか?」
「い、いいえ! 何でもないです」
少しあたふたしたレーナに疑問を抱く。だがまぁなにがともあれ大丈夫ならそれでいい。
レーナは我々1年A組にとってはいなくてはならない存在だ。魔技祭ももうすぐそこまで来ている。
(ひとまずレーナには帰ってもらおう。大丈夫とはいえ心配だ)
俺はレーナに今日は帰るように指示をする。
「え、先生でも私にはまだ仕事が……」
彼女のことだから嫌というだろうとは予想していたが案の定だ。レーナは首を中々縦に振らない。
「だがレーナよスカーレットは尋問のスペシャリストでもある女だ。からかわれたとはいえ、相当精神に負荷を掛けられたはずだ」
「確かに凄い威圧感を感じました。少し恐怖すらもあったくらいです……」
「そりゃそうだろうな。あいつは今まで尋問だけで何人もの人間を屈服させてきた奴だ。本気になれば人を殺すことだって可能だろう」
「そ、そんなにすごい人なんですか?」
「ああ、まぁ昔の話だ」
実の所を言うと昔のスカーレットはとんでもなく恐ろしい存在だった。噂によれば神魔団に入る前は大陸の犯罪組織に属していたらしくその時はかなり気性の荒い性格で人ひとり近寄れなかったという。彼女にとって人ひとり殺すなんて容易いことだし武器なんてものは必要ない。話術と威圧だけで人を服従させ、いつでも殺すことができるのだ。
その能力を神魔団に買われ、入団したわけだがやはりその面ではビックセブンの中でも飛びぬけたものを持っていた。
「とりあえず、レーナ。今日は帰れ。今は大丈夫かとは思うが恐らく自分の思っている以上に精神に負荷がかかっている可能性がある。その反動で体調を崩す……なんてこともあり得るんだ」
「そ、そうなんですか……」
少し落ち込んだ表情を見せるレーナ。彼女の仕事に対してのやる気は俺も十二分に認めているが無理をさせるわけにはいかない。
俺はその後、なんとか彼女を説得し家に帰ってもらうことになった。
「……ふぅ、あそこまで引き下がらないとは」
保健室の椅子に腰を掛け、コーヒーを飲みながら一服する。
「レーナさんは凄く頑張り屋さんな所がありますからね。それは事務をやっていた頃とは変わっていないです」
「事務として働いていた時もあんな感じだったのか?」
「はい。とにかくレーナさんはやる気があって仕事も誰よりも出来ていましたね。事務員の中では名前を知らない人はいないくらいでしたし、人望も厚かったです」
「ほう……」
ミキは医療講師の傍ら、仕事がない時はよく事務室に出向き仕事を手伝っていたらしい。
その時からレーナとは面識があり、昔のレーナを知る人物の一人だ。
ミキの言う通り、レーナは昔から少々無理して頑張るタイプの人間だったらしい。
(……レーナらしいな)
俺は腰を叩きながら椅子から立ち上がる。
「さて、そろそろ仕事に戻るか。魔技祭の分析も終わってないしな」
「そういえばレイナード先生は今度の魔技祭にかなり力をいれていらっしゃるとお聞きしましたよ」
「ん? ああ、もちろんだ。優勝するつもりでいる」
「そうなんですかっ! じゃああの伝説の3年A組と戦うことになるんですね」
「伝説の3年A組? それはどういうことなんだ?」
俺が首を傾げるとミキは少し驚いた表情を見せる。
「えっ、ご存じないのですか?」
「あ、ああ……伝説ってなんだ?」
ミキの表情を見るからに知らない人がいるなんて思わなかったと言わんばかりの顔だ。
そして俺はこの時、魔技祭で最も強大な相手の事を始めて知ることになるのであった。
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