元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第4章 おっさん、祭りに参加する

第75話 眠る驚異

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「実戦形式ということで1対1の決闘デュエルでいいんだな?」
「は、はい! 大丈夫です!」
「ハンデとして創兵クリエイトポーンを使ってもいいんだぞ?」
「だ、大丈夫です! 一人で戦います!」

(ほう……大人相手にやる気だな)

 俺とオルカは学園の地下演習場にいる。彼女から実戦形式での指導を申し込んできたからだ。形式は1対1の決闘(デュエル)ということになった。魔術や武器使用、常識の範囲内ならなんでもありのルールだ。
 オルカは地下演習場にある武器庫から片手剣を持ち出す。

「……準備、できました」

 オルカは片手剣を握りしめ足を開き、ぐっと構える。
 
(片手剣を使ってくるか。魔術も相当なものだと聞いているが……)

 オルカが初等部に入って早1ヶ月。この短期間で彼女はとてつもない名声をあげた。さっきもオルカが言ってくれたように中等部への編入も決まっている。
 初等部に入って1ヶ月の女の子が飛び級で中等部に入るなんてアロナードの歴史上、前代未聞の出来事らしい。
 
 ちなみに俺も同じような経験をしたことがある。俺は初等部で学校を卒業し、神魔団に入ったわけだがその前は中等部への飛び級編入を薦められたことがある。
 だが俺は学校自体を嫌悪、否定していたので断って組織に入った。今のオルカは正にその時にあった出来事と同じことが起きているのである。

「先生も手加減なしでお願いします。勉強の成果……全力で出します!」
「ああ、全力でこい。オレが受け止めてやる」

 しかしながらオルカは俺と違い勉強熱心な生徒だ。
 ガキの頃からひねくれていた俺とは違い、オルカは全うに知識を吸収しようとしている。理論なんて学術なんてくだらないと思っていた当時の俺とは大違いだ。

「……それでは、行きますよ」

 ひとときの間が緊張感を駆り立てる。
 そしてオルカは普段のイメージがガラッと変わるくらいの雄叫びをあげ、向かってきた。 
 
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 初速から速い。一歩踏み込んだ瞬間、あっという間に生まれる爆速で一気に懐へ入り込まれる。

「ソード、《シャイン・ブレイド》!」
「むっ……!」

 気を抜きすぎていた。間一髪、彼女の攻撃を防ぎきる。

「……さ、さすがレイナード先生です。一撃で決めるつもりでしたが甘過ぎました」

 講師相手に一撃で決めるつもりだったのか……さすがだ。
 確かに自分と比べて格上の相手と対峙する場合、長期戦になれば不利になるのは己だ。オルカはそこをしっかりと把握した上で神速の一撃を繰り出した。戦い方としては最も正しい選択だ。
 それを初等部の子が計算しつつ行動に移している。正直、凄まじい成長力だ。
 
 俺は思わず感心してしまう。

 今の動きを見てすべて分かった。確かに彼女はもう初等部の器を遥かに超越している。正直高等部の下位クラスの連中よりいい動きをしているといっても過言ではない。
 俺ですらさっきの一撃はかなり危なかった。気を抜いていたとはいえ対人で脅かされたのは生まれて初めてだ。つい防御に力を入れてしまった。
 このレベルなら初等部の講師陣がお手上げなのも納得だ。

「さすがだなオルカ。噂通りの強さだ」
「そ、そんな……強いだなんて」

 オルカは決して自分の実力を鼻にかけたりしない。常に謙虚でひた向きで学ぶことを忘れないといった武人のような子だ。

(それはあのゲッコウによる影響でもあるのか? 奴はオルカを奴隷の中でも特別扱いにしていたらしいし……)

 何がともあれ気は抜けないということは承知した。俺もほんの少しだけ力を入れることにする。

「続きをやろうオルカ。どんどんかかってこい」
「わ、分かりました! ……では参りますよ!」
 
 またもオルカが前へ一歩踏み出した瞬間、凄まじい俊足で一気に距離を詰められる。
 動き自体は視認できたが普通の人ならまず無理だろう。おそらく消えて見えるはずだ。

「《アイス・バニッシュ》!」
「ちっ、氷結魔術か」

 足元が氷によって覆われ、身動きができなくなる。
 そしてオルカは立て続けに攻撃をしかける。

「ソード、《グラン・ブレイク》!」

 オルカの小さな身体から繰り出される俊敏な一撃。剣先に込められた魔力で俺を貫こうと刃を向けてくる。
 
 だが―――

「発動、《ジ・グラヴィティ》」
「えっ、身体が!」

 俺は辺り一帯の重力を捻じ曲げる古代魔術を発動させる。

「み、身動きが……取れない」

 そりゃそうだ。これは俺が十数年前に魔王を対峙した時に行使した牽制用の下位魔術。人類史に残る7人の異端魔術師の一人が使ったというものだ。人間はもちろん、魔王ですらかなわなかったこの術ではどんな相手だろうと歯が立たない。

(だがオレに魔術を使わせるとは……正直驚きだ)

 オルカの予想外の力に思わず力を解放してしまう。
 下位魔術で牽制用であるとはいえ古代魔術なのには変わりない。これを使えるのは世界でも指折りの人間しかいないのだ。ちなみに神魔団の連中は全員古代魔術を行使することができる。
 言うなれば俺たちのような別格の魔力と力量を持ったものしか使えない術式といったところだ。
 
「うっ、負け……負けません!」

(……立ち上がる? そんなバカな!)

 数分もの間魔王さえも封じ込めたこの術を彼女は数秒で立ち上がるまでになる。そして剣を握りしめ、ジリジリと俺のもとへと近づく。

「負けない……私は絶対に負けない!」


 なんという執念だろうか。俺は今までこんなにも力に抗ったものを見たことがない。
 人であろうが魔族でだろうが相手の絶大な力を知れば竦んでしまうものだ。だが彼女は違う。
 その絶大で崇高な力を知ってもなお、立ち上がり剣を構えている。これは並大抵の精神ではない。
 鋼の精神、堅牢な精神、いやそれでは生ぬるいくらいだ。

「一撃……一撃だけでもいい。私は……」

 この瞬間、オルカは重力がねじまがった空間の中で走り出す。
 そして剣を横に向け、正面から突進をかけてくる。

(この重力下で走れるだと!?)

 驚く間もなかった。彼女は驚異的な速さで詰め寄ってくる。

(まずいな、ここで術式を解除すれば重力変化の反動でオルカの身体が……)

 だがその心配をすることはなかった。考えている間に彼女の剣先は俺の腹部一歩手前のところでピタリと止まる。

「お、オルカ……?」

 呼びかけると彼女は上を向き、ニッコリと笑う。
 
「……やっぱり、さすがレイナード先生です。私の力じゃ到底足元にもおよばな……」

 ―――バタッ

「お、おいオルカ!」

 オルカは燃え尽きるかのように地面に倒れこむ。俺はすぐさま術式を解除、治療へあたる。
 そして治療の最中、俺は目を瞑るオルカの姿を見て確信した。

 ……この子は恐らく近い将来とんでもない存在となるだろう。この眠った驚異が目覚めたとき、どうなるか分かったものじゃない、と。
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