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第4章 おっさん、祭りに参加する
第92話 真紅の魔女
小鳥の囀りが心地よい早朝。俺はいつもより早く起床し、支度を済ませていた。
今日は待ちに待った魔技祭初日、そして俺の運命を懸けた戦いが始まるのだ。
そんな日にギリギリの生活をするわけにはいかない。朝にも関わらず俺の心は激しく燃えていた。
「……よし、行くか」
顔をパンパンと叩き、自らに闘魂を注入すると扉を開扉し住処を出る。
まだ日が昇り切っていないためか外は若干薄暗い。寒い時期へと突入し始め、最近は肌寒い日が続いている。
「うぅ……寒いな」
貧相な薄皮のコート一枚では流石に防寒機能が発揮されなかった。
しかしながら服を買うお金もないので仕方なくありものだけでなんとかやっている。
「早く学園で温まろう……」
薄着で身体を震わせながら俺は学園へと走る。
学園へ着き、講師室へと行くともうほとんどの講師が出勤していた。
「あ、やっときましたかレイナード先生、少し遅いですよ」
そういうのはエルナー統括講師だ。
(あれ? 今日なんか集まりとかあったか?)
「その顔だと何も知りませんでしたって表情ですね。先生」
「あーーはい。すみません何も知らないです」
時刻を確認すると早朝6時を指していた。通常出勤はいつも8時ということで学園の講師マニュアルによって設定されている。
今日は魔技祭だから1時間早くに学園にいればいいだろうと思い、かなり早めに家を出たと思ったんだが……
早朝のせいか頭がぼーっとしているせいか昨日以降の記憶が中々思い出せない。
そんな姿を見たエルナーは思わずため息をこぼし、
「……はぁ、もういいです。席についてください、レイナード先生」
「あ、はい。すんません」
俺は席にドサッと座ると肘をつく。
すると隣にいたレーナが小声で、
『おはようございます、レイナード。今日はどうされたんですか?』
『え、どうって……別に普通に起きて出勤しただけなんだが?』
『普通って……今日は6時から魔技祭の最終ミーティングが行われるって話聞いてなかったんですか?』
『そんなこと言ってたのか……全然知らなかったわ』
「そこの二人、ミーティング中は静かに!」
「あっ、す、すみません!」
注意されてしまった。
知らなかったというのは本当の話。というか昨日の夜は今日に向けての最終分析ということで時間を割いていた。
知っていたとしても数秒で忘れていたことだろう。
そんな早朝6時から「それ今やる必要あるか?」ってぐらいどうでもいいミーティングを行い、俺たち講師陣は魔技祭開催へ向けての最終準備へと取り掛かった。
「……はぁ、魔技祭当日にも労働か。ここは本当に人をコキ使うのが上手だな」
「まぁまぁ、みんなが安全にお祭りを楽しむための準備と考えればあまり苦にはなりませんよ」
とレーナは申すがこっちは人生が懸かっているのだ。
そして今日は魔技祭初日ということで優勝するにあたっては恐らく最終日の次に重要な日となるだろう。
初っ端でスタートダッシュに成功、そしてそのまま勝利の波に乗る。
俺の脳内ではもう既に優勝への構想が出来上がっているのだ。
「レーナ、ハルカ、さっさと終わらせて初戦の準備に取り掛かるぞ。生徒たちの登校時間までには間に合わせる」
「「は、はい!」」
二人は同時に返事をし、三人協力して作業を終わらせる。
初戦の相手は2年A組。初っ端の相手にしては少々厳しい戦いになることが予想される。
そして特に注意が必要な人物と言えば……
「あ、レイナード先生あれって……」
「……ニーズベル・フォン・リッテンベルグだな」
「お手伝いに来たのでしょうか? それにしてもスゴイですねこんな時間に……」
そう。たった今俺の目の前にいる女子生徒こそ2年A組で最も警戒すべき人物、ニーズベル・フォン・リッテンベルグだ。
その紅の髪と可憐な紅眼から『真紅の魔女』という異名を付けられるほどの有名人物でその実力も王国魔術師団も太鼓判を押している。
それもそのはず彼女の両親はなんと現役の宮廷魔術師。父親は王国直属の魔術師団『白王の陣』の副団長で事実上、あの馬鹿の上司に当たる人物だ。そして母親はというと別の王国魔術師団『マーリンの涙』という治癒魔術を得意とする女性魔術師主体で編成された団の団長を務めている。
まさに魔術師界のサラブレッドとも言える異色の存在だ。
「真紅の魔女と今日ここで対戦するんですよね……勝てるんでしょうか?」
「勝てるとか勝てないとかの問題じゃない。絶対に勝つんだ。そのために今まで汗水垂らして頑張ってきたんだからな」
「で、でもあの子は周りの生徒と比べると別格だって聞いたことがあります。それに将来の3年A組候補だとか……」
ハルカがこんな弱腰な発言をするが、不安になるのも無理はない。ハルカの言う通り、彼女は別格の存在だ。
得意の魔術にみならず剣術や錬金術、異端獣の召還術や方術と言った学生離れした能力も併せ持っている。
何をやらせても一通りはできてしまう、いわゆる完璧超人ということだ。
「だが彼女を倒さないことには優勝はない。それに……どんなに人間でも弱点があるはずだ」
「じゃ、じゃあそこを突けば……」
「勝機はある。だがまずは実際に戦ってみないと分からない。データを信用していいのは表面部分だけだ。それを丸々鵜呑みにしては決して勝つことができない」
分析データはあくまで指標に過ぎない。彼女が人間である限り必ずどこかに”穴”がある。
正攻法で戦って勝てないのならそこを探るしかないだろう。
俺たちがこうヒソヒソと話しているとちょうど彼女と目を合わせてしまう。
(あ、やば。ジロジロ見すぎたか……)
そして目が合った途端、その魔女はゆっくりとこちらへ向かってくる。
表情は……うん、あまり快くなさそうだ。
「先生、ニーズベルちゃんが……」
「あ、ああ……」
三人で見つめていれば当然視線を感じることだろう。
あまり見られることを好まない者も中に入る。特に女性にはそれが多いと聞いたことがあった。
(くっ、気を悪くしてしまったか……?)
そんな心配をしながら身構え、彼女は俺の前に立つ。
すると……
「おはようございます、レイナード・アーバンクルス先生。今日の対戦、よろしくお願い致します」
彼女は一礼すると、気持ちの良い爽やかな笑顔でそう述べたのだ。
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