元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第4章 おっさん、祭りに参加する

第93話 衝突


 ニーズベル・フォン・リッテンベルグ。
 2年A組の司令塔で主力生徒。
 容姿端麗成績優秀という才色兼備。リッテンベルグ家という魔術師の名家であることからその実力は王国魔術師団のお墨付き。
 その上きちんとした礼節を知る常識人ときた。

(付け入る隙がないとはこのことか……)

 まさに学園の中では上から数えても指折りの超人的存在。そのカリスマ性は周りの生徒をも巻き込み翻弄するまである。
 悪い要素を見つける方が苦労するくらいだ。

「レイナード先生。今日の魔技祭初戦、お互い良い勝負にしましょう」
「ああ、よろしく頼む」
「それでは失礼致します」

 ニーズベルは軽く会釈をし、走り去っていく。
 あの堂々とした立ち居振る舞い、かなり落ち着いているように見えた。
 緊張で身体が強張る……なんてことはなさそうだ。

(ふむ……こりゃ相手が悪いな)


 去っていく彼女のその後ろ姿を見ながらそう感じた。




 ■ ■ ■


 

 ―――魔技祭初戦開幕2時間前


「……よし、全員集まったな。これより作戦会議を行う」

 1年A組の教室で講師陣三人とA組生徒たちは一同に会していた。
 皆、本番初日ということもあり少々挙動がきごちない生徒たちも中にはいた。
 ちなみに例の天才3人組は相変わらずで緊張感持っているのかと疑うほど冷静さを保っていた。

「レーナ、例の資料を」
「はい」

 そういうとレーナは生徒各人に一枚のデータを配布していく。
 内容は初戦の相手、2年A組の選抜予想と要注意人物たちのデータだ。
 俺はこのデータを基に速やかに作戦内容を説明していく。

「―――ということだ。残念ながら今日の相手は小細工が通じるような相手ではない。正攻法でいき、勝ちをもぎ取ること以外は方法はないと思った方がいいと頭の中に入れておけ」

「―――ま、マジかよ……あの真紅の魔女相手に正攻法だなんて」
「―――ああ、ボッコボコなんてもんじゃないだろ」
「―――初戦から運がないなぁ……」

 クラス全体がざわめき始め、悲痛な叫びがあちらこちらに飛び交う。
 その時だ。

「みんな静かに!」

 こう叫ぶのはクラス委員長のフィオナだ。
 いきなり立ち上がったことによってクラス全体が一気に静まり返る。
 そして彼女は皆の方を向き、

「ねぇ……みんなは勝ちたいとは思わないの? 相手が強大だから、自分達じゃ届かないから諦めるの?」

 生徒たちは無言で俯く。
 だがそんなことはおかまいなしにフィオナは続ける。

「私は勝ちたいわ、なんとしてでも。今までそのために辛く険しい特訓に励んできたんだから……」
「で、でもよ、相手はあの真紅の魔女だぜ? しかも王国魔術師団ですら驚くほどの実力の持ち主らしいじゃないか」
「そ、そうだよフィオナ。俺たちだってそりゃ勝ちたいけど……格が違いすぎる」

 フィオナに対して否定的な意見が次から次へと出てくる。
 するとそんな姿を見ていたリーフが、

「……わ、わたしもフィオナと同意見です。諦めるのはまだ早いんじゃないかな……」
「り、リーフちゃんまで……」

 不安が強い彼らの心にはまだ二人の想いは届いていなかった。

 すると、


 ―――バンッッッッ!

 机を蹴り飛ばし、足を乗っけるはこのクラスの問題児ガルシア。
 そんなグダグダした様子を見ていたガルシアは弱音を吐く連中へ睨みながらこう言う。

「けっ、どいつもこいつも根性なしばっかだな。それでも魔術師(キャスター)候補かよ。全く家柄良い坊ちゃん、嬢ちゃんばっかでヘドが出る」
「……な、なんだと?」
「おいガルシアてめぇ、もう一回言ってみろ」
「ああ、何度でも言ってやるよ、この根性なし共が」
「くっ! このクソ野郎……!」
「てめぇ……」

 怒りを露わにした男子生徒たちがガルシアの元へ歩み寄る。
 凄い形相でガルシアを威嚇。しかしガルシアはそんなことはもろともせずガン無視し、さらに傷口は広がっていく。

「あわわわわ……せ、先生なんか喧嘩が始まっちゃいましたよぉ……」

 慌てるハルカに俺は肩をポンと叩き、「いいから見ていろ」と宥める。
 レーナはさすがというべきか何も動じず至って冷静だった。

「おいガルシア、今のは高等貴族階級の者に対する侮辱だ。今すぐに謝罪しろ」
「そうだ、俺らはお前と違って家柄が違うんだ。平民と変わらない下等貴族ごときが調子に乗るなよ」

 散々な言われ様。だがガルシアは目を瞑ったまま何も言わない。

「……くそっ、舐めやがって!」

 一人の男子生徒の拳が彼の頬めがけて狙いを定める。
 周りの生徒たちは唖然とするが、ガルシアは動じない。

「覚悟しろよ、ガルシアぁぁ!」

 男子生徒はそのを握りしめた右手をガルシアへ向けて振り下ろす。
 見ていられないと目を瞑る女子生徒たち。

 だが、その男子生徒の拳はガルシアの頬の手前でピタリと止まった。

「……ぐ、ぐぬぬぬ」

 ガルシアはパッと目を見開き、男子生徒を見る。

「どうした、殴らないのか?」
「くっ……」

 男子生徒の拳はピタリと止まったまま動かない。
 するとガルシアはフッと笑い、

「そうだ、それが今のお前らの現実だ」
「な、なに……!」
「目上の者には盾突けない。お前は自分の実力が俺よる劣るから殴らなかったのだろう?」
「……ッ!」
「今、貴様たちが抱えている不安はそれと同じだ。相手は真紅の魔女と言った異名を持ち、実力も王国公認という破格のスタッツを持つ相手だ。規格外な相手だからこそ、皆戦う前から諦める。誰しも負けるということを快く思う者はいないからな」

 クラス全員の視線がガルシアに向かう中、彼ははそのまま話を続ける。

「……だがな、俺は最初から諦めるつもりは全くない。俺には誇りがあるからな」
「ほ、誇りだと?」
「ああ、貴様たちも何か思う所があるから今まで頑張ってきたんじゃないのか? 俺が見ている限りでは特訓中にサボっている者は一人も見当たらなかった。貴様たちは無意識に何かの原動力によって突き動かされている。違うか?」
「……」

 黙り始めるA組生徒たち。
 だがここで一人の女子生徒が、

「わ、わたくしは王国魔術師団に入りたいと夢見て頑張って参りましたわ! まだまだ未熟ですが……」
「お、俺も同じだ! 強くなって、そして王国で魔道兵士になりたいと夢見てここへ来た」
「ぼ、僕はよ、弱い自分を変えたくて……それでそれで……」

 次々と生徒たちが立ち上がり、自らの意志を声に出す。
 男子生徒はその光景を見ると何も言わず、ただ立ち尽くす限りだった。

「貴様はどうなんだ? 叶えたいものはないのか……」
「お、俺は……」

 下を向く男子生徒。クラスメイトたちの視線は一気にそちらの方へと集まる。

「……強くなりたい」
「……ん?」
「俺は強くなりたいんだ! どうしても! もう……家柄だけに囚われる人間にはなりたくない! 俺はそのために遠い辺境の小国からアロナードまで来たんだ! だから……」

 拳を握り、思いのたけをぶつける男子生徒。
 その姿をガルシアは少し笑い、

「……だったら理由はいらないんじゃねぇか? 強くなるためにやってきた。その成果を見せたいだろ?」
「……ああ、当たり前だ! 俺だって……プライドがある。本当は負けたくない」
「ふん、だったら気張れや。あまり女々しいことを言っていると今までの特訓がくだらんお遊びに思えてくるだろうが」
「ああ、すまんガルシア。悪いことを言ったな」
「理解できただけでまだマシだ。次くだらんこと言ったらそん時は覚悟しておけよ」

 最後の最後で棘のある言い回しだが、なんとか和解できたようだ。
 クラスの雰囲気もガラリと変わった。あの問題児のおかげで……

「みんな、相手がどんに強大でも私たちならきっとやれる! 最後まで諦めないで全力でぶつかっていこう!」

「「「「「おおおおおおお!」」」」」

 一念発起し、再度クラスが一つになる。
 そんな姿を見ていたレーナは小声で耳打ちをする。

(これも計算の内ですか? レイナード)
(どうだろうな。だがあいつはもう問題児という枠からは外さなきゃならんみたいだ)
(そうですね。私もガルシアの意見に賛成です。成長しましたね)
(ふん、さすがにいつまでもガキでは困る)
(そんなこと言って……彼に更生にあなたが一役かっているのは知ってるんですよ?)
(はて、何のことだか……)

 予想以上に彼らの心は大人へと近づいていた。
 これなら強大な敵であろうと屈せず立ち向かうことができるだろう。

 そんなことを心の中で思いながら俺は彼らを見つめていた。
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