元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第5章 おっさん、優勝を目指す

第96話 初戦


『それではみなさん、長らくお待たせいたしました。これより魔道技術祭第四戦目、1年B組対2年A組の一線を執り行います!』

「……よし、いくぞお前ら!」
「「「「「はい!」」」」」

 いよいよやってきた初戦。相手は優勝候補の一角である2年A組だ。
 司会のアナウンスに導かれ、俺が先頭を歩き後から生徒たちが付いてくるような感じで入場する。
 会場は前の三戦による影響は大盛り上がり。一番観客席が騒がしくなる時間帯ともいえる。

 そして目の前からは2年A組の生徒たちが同様に入場してくる。
 そして先頭にいるのは……

「こんにちはレイナード先生、こうしてお話をするのは初めてですね」
「あなたが2年S組の担任講師か?」
「はい。ガイスベン・アーマルガレットと申します。普段は操虫術を教えているものです」

 操虫術……虫を操ることができるという辺境の国に伝わる古い術式だと聞いたことがある。
 なんでもマスターすればどんな虫であろうと従えることができるだとかなんとか。

「珍しい術式を教えるのだな。普段学園でも顔を見たことがないのだが……」
「あーそれは仕方ないですね。私は普段、アロナード勤務ではなく別の所で単独勤務をしているのですよ。名目上では2年A組の担任ですけどね」

 ガイスベンは普段、アロナードが保持する副施設で魔昆虫についての研究を行っている学者だという。
 アロナードの講師不足による影響で彼のような遠くの地で働く者でもクラス担任の仕事を任せられている講師も多いとのことだ。

 まったく、人手不足なら雇えばいいのに……
 そうしてくれないと……

(俺たちの負担が大きくなっていく一方なんだよ)

 正直、最近祭りの件やらなにやらで仕事が莫大に増えた。周りの講師たちも汗水たらし、ぜぇぜぇ言いながら仕事に着手している。
 その現状を知っておきながらあの女、フィーネ・アロナードは見て見ぬ振りをしている。
 パワーハラスメントもいいとこである。

『それでは両チームの代表者の方、前へ』
 
 クラスの指揮官兼代表者として俺が一歩前へ出る。
 行う競技種目はくじ引きで選出され、まずは俺からくじを引くこととなった。
 準決勝、決勝以外は全種目執り行うことはなく、最後に総合競技が行われる以外は全てくじによって決まる。試合は全三試合、最終戦だけは総合科目で固定だ。

(運も味方につけろっってことだな)

 できる限りなら我々1年組が得意とする競技を引き当てたい。
 例えば空術とかだ。
 そんな願いをしつつ俺は中を見ることができないブラックボックスに手を入れ、くじを取り出す。

『えー、決まりました! まず最初の競技種目は剣術競技となります!』

 競技種目は剣術に決定する。
 悪くはない。まずまずの結果と言える。

『それではーー早速、競技の方に移りたいと思います! 両者、選手を選出の上、所定の位置についてください!』

 いよいよ始まる俺の人生逆転劇。
 生徒たちもそれぞれの願いを胸に真剣な表情で敵を見つめる。
 予め計画をしておいた作戦を基に出場生徒を選出、選ばれた者たちを他の者が鼓舞する。

 誰一人として弛んでいる者はいなく、緊張感は感じられるが焦りなどはないようだった。
 良い感じで冷静さを保てている。

(これなら問題はないな)

 そして魔技祭初戦、今後の流れを決める一戦遂に……

『それでは第一戦、始め!!』

 ―――ゴ――――――ン!

 大鐘が鳴り、俺たちの長い戦いは始まった。
 俺は代表者専用の特等席でその様子を見守る。

 試合は互いに譲らない状況となった。一番成長が見られたのはやはり精神的な面か。
 格上の上級生相手にも真っ向から挑むことが出来ている。一歩も下がることなく、相手の出方を冷静に分析し、次の行動に移せているのは数か月前の彼らでは到底成しえなかったことだ。

 もちろん身体も鍛えられたのもあって動きもより鋭く、俊敏に成長を遂げている。
 個人差はあるものの予想以上の仕上がりだった。

(うん、これなら……)

 そして勝負は終幕へと向かう。


『……勝者、1年A組!』



 ■ ■ ■
 


「……ふぅ、なんとか初戦は突破だな」

 試合後、俺は学園内の広場にあるベンチに腰を掛けていた。
 2年A組との試合結果は辛くも勝利と言った所。本当にギリギリの試合だった。
 
(……さすがに一筋縄ではいかなかったな)

 振り返れば俺自身の采配はあまり良いものではなかったと言える。
 相手の評価を少し高めに設定したことで後手に回ってしまった面が多々あった。

 もう少しうまくやれれば多少余裕を持って勝利することができただろう。

「次はもっと相手のことを見極めなければな……」

 晴天の空を見上げながら次の作戦を考えていると、

「あ、こんなとこにいたのね」
「フィーネか」

 突然声を掛けてきたのはフィーネ。式典用の華美なスーツに身を包んだ彼女はその容姿もあってかより可憐さに拍車がかかっていた。

「何の用だ。俺の唯一の休憩時間を奪いにきたのか?」
「違うわ、たまたま見かけたから声をかけただけ。それより初戦は中々のものだったわ、おかげで陛下もご機嫌よ」
「ふん、政治家なんぞ祭りなんてどうでもいいとしか思っていない。あいつらの頭の中は金まみれだ」
「まぁそういうことを言わないの。それよりあなたは彼から例の話は聞いたの?」
「例の話……? ああ、あのことか」

 あのこと……それは魔技祭が始まる前にハイアットが言っていたことだ。
 魔王イルバーンが復活を遂げ、今はかつての力を取り戻すべくこの世界のある場所で潜伏しているという情報だ。

「どうするのレイナード、もしまたあの時のように魔王が完全復活したら」
「さぁな。だが今の俺は魔技祭のことしか頭にない。ハイアットにも祭りの最終日までは一切関与しないと言っておいたからな」

 だがフィーネは首を振り、

「そういうことじゃない。私が聞きたいのはまたあなたは戻って来るのかって話よ」
「戻る? どういうことだ?」
「アークのことよ。あなたがかつて自分をそう呼んでいた頃の姿。魔王が復活したら……あなたは」

 フィーネの言いたいことは理解できる。魔王が復活したらもう一度アーク・シュテルクストとして神魔団に戻るかという問いだろう。
 だがもうかつての英雄アークはこの世には存在しない。病死という理由で人生に幕を下ろしたのだ。
 そして生まれ変わり、新たな人生を歩みだしたのが今の俺。

 死者となった者は決して蘇ることはない。これは生命を持つ者に対する絶対的な法則であり、不可侵なものだ。

 だからこそ……俺は、

「……もう戻るつもりはない。オレは自らの新しい生き方を見つけた。神魔団も英雄ももう過去の産物だ。今の俺はレイナード・アーバンクルス、ただに魔術講師さ」
「レイナード……」
「悪いフィーネ、次の試合についての準備をしなければならない時間だ。じゃあな」

 俺はそうフィーネに言い、その場から離れる。
 少しばかりを悩みを残して。
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