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第5章 おっさん、優勝を目指す
第104話 二人の勝負師
しおりを挟む勝負は次なる競技、体術競技へと移った。
『おおっと! ここで1年A組ソアレ選手、無念のリタイア! 3年A組、ジャネイラ選手の勝利です!』
既に戦いは先鋒戦、そして次鋒戦も終えようとしていた。結果はどちらとも惨敗。相手の方が一回りも二回りも上の実力差を見せつけられての敗北となった。
予め説明しておくと体術競技は文字通り、体術系スキルのみを用いて戦う一対一の肉弾戦だ。魔術の使用はもちろん、魔法銃や弓などの飛び道具や剣といったものも使うことはできない。
まさに身体と身体のぶつかり合い、力と力の正面衝突と言ったような競技だ。
にしても……
(多少予想はしていたが、最初から二連敗はきついものがあるな……相手も予想以上にいい動きをしている)
これも聖剣の加護による超強化あってのものなのだろう。
『それでは、次なる対戦、中堅戦へと移りたいと思います!』
次なる試合は中堅戦。もしこれで負けたらその瞬間、体術競技も敗北という形で終わってしまう。
ルールとしては5試合3点先取が基本的な決まりだ。数年前まではもう少し複雑なルールで執り行われていたらしいが、観客の意向もあって単純なものへと変更し三点先取制を導入した。
これは体術競技のみならず剣術、総合競技などにもこのルールは適応されている。
『それでは中堅戦に選出された出場選手は特設リングの前に集まってください!』
バトルジャッジのアナウンスにより、3年A組の出場者がリングの前に現れる。
空術競技の際のトップバッターを務めたバトスとかいう男子生徒だ。
そしてそれに対抗する我々の出場者は―――
「……ガルシア、頼んだぞ」
「ふん……」
反応も不愛想、態度も相変わらず失礼なものだが相当集中しているということはすぐに分かった。
完全に勝つことしか頭にないような輩が見せる強い威圧感のある眼だ。
だがそれでいて冷静さもしっかりと感じた。静かなる闘志、そして目の前の敵にだけ集中するといった精神コントロールが上手くいっている証拠でもある。
(あの特訓は役に立ったということか)
一月前のガルシアならここまでの冷静さを保つことはできなかっただろう。勝負ごとに関する強い想いと負けず嫌いな所はいいとしてもその想いの強さを己で制御できず、肝心な所で空回りしてしまうことが多々あった。
だが今のガルシアは違う。しっかりとしたココロの芯の強さがあり、ひとときの感情では決してぶれたりはしない。燃え盛るオーラは感じても敵意がむき出しというわけでもない。
とにかく落ち着いていて、その中でも密かに潜む強さを感じるという勝負師としての姿が彼の中にはあった。
(後はさっきみたいな不愛想な反応と目上の者に対する配慮があればいう事はないんだがな……)
まぁそれは追々直すとしよう。実際に俺もガキの頃は目上だろうがなんだろうが邪魔をするものは淘汰するみたいな生き方をしてきた人間だ。昔を思い出すと生意気な人間だなとは思うが今でもその名残は完全には消えていない。
なので強い態度を取ることは分からんでもないのだ。特に碌な人生を歩んでいないものにとっては直すことが非常に難しい。
(少し似ているのかもな。俺とあいつは……)
そんなことを思いながら俺はガルシアを見守る。
■ ■ ■
観客席が怒涛の盛り上がりを見せる中、リング上には二人の男の姿があった。
「お前が次なる俺のカモか? あんまり強そうには見えねぇな」
「……」
ガルシアは何も言わない。ただ相手の一点を見つめるのみだった。
「おおっと? まさかの戦う前からチビりそうな感じかい?」
「……」
無言。ガルシアは表情も変えず、ただ立ち尽くすだけだ。
「おいおいマジかよ図星かいな! 俺としてはもっと威勢のいい奴をご所望だったんだが……ま、仕方ないか。まったく、そういう奴を根本から叩きのめすのが最高なのによぉ~ははははは!」
バトスが大声で笑いだすとガルシアは、
「ふん、くだらん」
「あん? てめぇ今なんつった?」
ガルシアの第一声に反応したバトスが物凄い剣幕で睨みつけてくる。
だがガルシアはそんな威圧も諸共せず、
「ん、聞こえなかったか? 俺はくだらんと言ったんだ」
相手を挑発するガルシア。
そしてそれを聞いたバトスの顔はさっきまでとは一変し、敵意に帯びた表情へと変わる。
「おいてめぇ、誰に向かって口を聞いている? そんなことを言うと自分がどうなるかということも分からないのか?」
「さぁ、どうしてくれるのでしょうか? 全く見当つかない……ですね」
「……ッ、貴様ァァ!」
完全にガルシアの挑発に乗ったバトス。だがこれこそ俺の描いた台本通りの展開だった。
(どうやらガルシアは上手くやっているみたいだな。にしても……)
あいつの敬語とか初めて聞いたような気がする。というかかなりレアだったんじゃないか今のは。
普段から俺に対してもそういう態度を取れれば非常に扱いやすいのだが……とか考えてしまう。
そして挑発合戦からスタートした二人の戦いは本試合へと流れは進んでいく。
バトルジャッジがいつもの如く試合開始前に盛り上げる一言を放ち、いよいよその勝負の幕が上がる。
『えーそれでは皆さん! 大変長らくお待たせいたしました! 第二戦体術競技、中堅戦をこれより執り行います!』
バトルジャッジのこの一言で会場はさらにヒートアップ、そしてリング上にいる二人も同様に火花を散らし合っていた。
「貴様みたいな愚か者は久々だ。悪いが速攻で決着をつけさせてもらう。覚悟しろ……」
「ふっ、やれるものならやってみろ」
二人の争いは言葉から拳同士のぶつかり合いへ。
そして勝負開始への合図が今、下されようとしていた。
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