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第5章 おっさん、優勝を目指す
第116話 暗闇に潜む何か
「よっしゃあ、次がいよいよ最終戦だ! みんなでフィオナを応援するぞぉぉぉ!」
「「おぉぉぉぉぉ!」」
ガルシアの勝利で高まるクラスの士気。いよいよ競技祭は最終局面を迎えようとしていた。
最後に対峙するは3年A組の聖剣軍団の筆頭を歩く男であり、この学園の生徒たちの頂点に立つ男。
名をルーカス・アルモンドという。この学園の生徒会長にして不動の強さを持つ、3年Aを纏め上げるリーダーでもある男だ。
そして彼自身もとてつもない実力の持ち主。周りの生徒や講師たちが言うには学園最強の肩書を持ち、その真の実力は講師たちをも圧倒するほどだという。
そして俺が気になっていたことはもう一つある。それはあの仮面鬼とかいう変人講師についてだ。
根掘り葉掘り聞いた情報によるとあの聖剣軍団を主導しているのはあの男であり、指示を出しているのもあいつだという。
未だに学園があんな奴らを置いといているのかまったく理解不能だが、何かしらの理由があるのだろう。
それに、ハイアットの言っていたレイブン襲撃事件についても奴らと引っかかる点がいくつかある。
(もし、奴らが襲撃者だとしたら……)
考えれば考えるほど謎ばかりが膨れ上がっていく。
フィーネに聞いても何も言わずに黙っているだけで詳細は教えてはくれなかったし。
とりあえず言えることは何か大きな力が働いている、または働こうとしているのは間違いない。魔王復活とも関係がある可能性もある。
「だがしかしだ!」
俺は誰もいない校庭で一人拳を握りながらこう叫ぶ。
そう、今の俺はそんなことよりも大事なことがある。
魔技祭優勝。俺が数ヶ月も前より掲げてきた目標の達成がもう目の前まできていた。
今は魔王やら謎の襲撃者について考えている場合ではない。
ようやく本来のあるべき姿に戻ることができるんだ。
(ここまで来たなら意地でも優勝してみせるぞ)
目前まで迫る最終戦を目の前に俺は今一度自分の意志を強く固める。
「とはいえ、バトルフィールドの復旧作業で最終戦が明日に延期になるとはなぁ」
予想外だった。
先のガルシアとバトスとの壮絶な死闘で会場内のフィールドは大損壊を被った。生憎予め張っていたとされる防御結界によって俺たちや観客にまで被害が及ぶことはなかったが、そのまま最終決戦を敢行するにはかなり厳しい状態だった。
「しゃあないよな。だけど……」
できる限りならあのまま決行してほしかったというのはある。完全に勝利の波はこっちに来ていたし、勝率も明日にやるよりは高かっただろう。
むしろ精神面的な優劣がなくなった今、ピンチと捉えてもいいくらいだ。
「ルーカス・アルモンドねぇ。確かに周りの聖剣使いたちとは並外れた霊気を帯びていたが、謎だらけだ」
一息つく間を与えられ、俺は学園内の広場にあるベンチに一人腰を掛ける。
「ふぅ。……ん?」
何も考えずに移した視線の先に何かが映る。
広場の中央にある噴水越しに見える誰かの背中。見覚えのある後ろ姿だった。
「フィオナ……?」
目を凝らしてみるとフィオナで間違いはなかった。彼女は噴水の先にあるベンチに一人座り、ぼんやりと空を眺めていたのだ。
「何をしているんだ?」
俺は気になり、その場から離れて彼女のもとへと近づいていく。
そしてすぐ真後ろからボソッと声をかけてみることに。
「クラスのリーダー様がこんな寂しいところで何をしているんでしょーかね?」
するとフィオナはその声に気づくとハッと振り向き、
「えっ、誰?」
「ここだよここ」
「れ、レイナード先生!?」
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
「す、すみません。ぼーっとしていたもので」
「ほう、それは珍しいな。クラス一のしっかり者であるお前がそんな顔を見せるなんて」
「おかしい……ですか?」
「いや、全然。むしろ今までのお前の方がおかしかった気がするがな。いつも明るく、悩んでいる様子を垣間見せることすらなかった」
「そ、そんなことは……」
「いや、あるさ。これでも俺は人を見る目だけはあると自負している」
そう、おかしいのだ。俺は今までフィオナが自分のことについて悩んでいる様子を一度も見たことがない。
いつもクラスの奴らのことを第一に考え、行動していた。
このくらいの年頃になると悩みが増えていくのが当たり前、であると前にフィーネが言っていた。
えーっと確か思春期っていったか?
(でもフィオナはそんな素振りは今まで見せたことがない。少なくとも俺の前では)
だから初めてだったのだ。フィオナがあんな上の空を見ながらぼーっとしている姿を見るのは。
「それよりどうしたんだ? 俺でよければ相談に乗るぞ」
「いえ、気にしないでください。私なら大丈夫ですから」
「そうはいってもなぁ、明日はいよいよ優勝がかかった最終戦があるんだ。その主役が前日にこの様子じゃ心配にもなるだろ?」
「そう、ですよね……」
「……?」
一瞬だけ間があった、いや何かを言おうとしたけど止めたといった方が適切か。
それにその瞬間に見せた彼女の表情は今まで見てきた数々の顔の中でも一番最低な顔だった。
まるで別人なんじゃないのかと疑うくらい。
俺はそう思った。
「おいフィオナ。お前……」
「あっ、そろそろ行かないと! 友達と街にいく約束をしているんです。それでは失礼します!」
「お、おいっ!」
フィオナはなんだか逃げ去るように広場を走り去っていった。その後ろ姿は今から友達と遊びにいく少女にしては悲しさを帯びているような……そんな雰囲気が伝わってきた。
「友達と約束……ね」
フィオナは誤魔化したつもりだろうが、俺には分かる。
絶対に何かがある。みんなが知らない彼女がだけが知る深淵の悩みってやつを。
「仕方なし……か」
教師が生徒のプライベートを覗くことは基本的にはアウトだが今回ばかりは仕方がない。
あれは普通じゃない。まだちょっとの付き合いとはいえ、俺の心がそう言っていたからだ。
大事な決戦の前に主役があの調子じゃ、勝とうにも勝てない。
(悪い、フィオナ。ちょっと覗かせてもらうぞ)
俺はそう心に決めると、彼女の後を追うように走っていく。
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