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第5話:謎の女剣士

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「すみません、遅れ……ってあれ?」

 実技試験の会場は学園敷地内にある大演習場だ。だがまだ実技試験の午前組が終わっていないらしく、午後組は待機ということになっていた。

(うわ……全力で走って損した)
 
 ただでさえ身体がきついのにこの有様。いきなり走ったことによる疲れが出てくる。
 筆記試験の際は死ぬほど辛い思いをしたが、今は自然治癒能力によってだいぶ楽になった。
 この能力も通称『魔王スキル』の一つで弱体化した身体を時間の経過とともに少しずつ回復していくことが可能な能力だ。
 ベンチに座って休んだことが良い影響を及ぼしたのか死人のようにふらついていた試験前とは比べ物にならないくらいになっていた。

(リリンが来たことによる精神的ゆとりも関係しているのかもな。まさかあの人はそれを見込んで……)

 この自然治癒能力は身体そのものだけでなく精神的な傷も回復させることが可能だ。ただし、自身のメンタルにゆとりがある場合にのみ適応する。
 
「ま、そんなことより今は待つしかないな」

 近くにいた案内人に聞くともうすぐ午前組の実技試験は終了するみたいで午前組と入れ替わりですぐに試験を始めるとのこと。俺は時がくるまで演習場の観客席で見物することにする。

 この学園の大演習場は大きなドーム型の建物の中にあり、中へ入ると360°観客席囲まれた大きな闘技場が姿を現す。学園の所有施設とはいえこの規模は王立の公式闘技場よりも遥かに広い。
 イベントなども頻繁に行われているとのことで学園内では良く使われる施設の一つなのだと言う。

(なるほど。と、いうことは此処に良く人が集まるわけだな)

 学園案内のパンフレットに重要な施設であることを示すマーキングを書き込む。たとえ試験中とはいえもう調査任務は始まっているのだ。
 情報源になりそうなものは必ずメモをすることを心掛けるようにしている。なので俺は最低限メモ帳を3冊手持ちに持っているのだ。

(構造は……ふむふむ、主に鉄製か。内部には闘技場以外の施設もあるな。いわゆる複合施設か)

 建物の構造や周りに何があるか、生態調査をする上で隠れながら観察できる場所はあるかなど細かくメモを取る。

「よし、これくらいでいいか」

 俺はいよいよ闘技場の観客席へと足を踏みいれる。すると午前組の受験者たちが複数の講師相手と戦っている真っ最中であった。
 
「お~やってるやってる」

 見た感じ試験内容はどうやらバトルロワイヤル形式。魔力が尽きたものから消えていくスタイルのようだ。
 そして相手は恐らく複数の講師陣。彼らは真っ向から挑む受験者たちを容赦なくなぎ倒していた。

(うわ……容赦ねぇな……)
 
 俺が視認できる限り一人身の丈まである大きなワンドを持った老人と肉体派の中年男、そして杖を持ち、黒いトンガリ帽子を被った女だ。
 あの三人が恐らく俺たち受験者の相手だろう。恐らくはこの学園の講師、動きが周りの人と比べて桁違いだった。

(……へぇ、やるもんだ)

 俺が何気なく見ていたその時だった。一人の女剣士がその三人に突っ込んでいく姿を目撃する。

(ん? あいつは……)

 その女剣士は一人で講師三人の相手をしようとしているようであった。

(おいおい、流石にそれは無謀……)

 と思っていた時だった。その女剣士の動きは時間が経過していくことに鋭く速くなっていき、いつの間にか講師陣を圧倒するまでになっていた。
 その剣さばきは閃光のような速さと大地を割るようなパワーに満ち溢れたものだった。

(あの剣士やるな。講師陣三人相手に圧倒している)

 俺はいつの間にかその戦いにのめり込んでしまい、観客席から凝視する。
 その女剣士は顔はよく見えなかったものの綺麗な黒髪でセミロングの女であることが分かった。身長はそこまで高くはなく、体型は遠くから見てもかなりグラマーだった。顔も恐らくは……美人である可能でいが高い。
 
(これは要メモだな)

 俺がすぐさま容姿や女についてのデータを魔王覚書、通称メモ帳へと記し、観察対象の筆頭に設定する。
 あの剣さばきと敏捷性の高い動き、そして片手に持っていた聖剣を匂わすような片手剣。勇者候補の可能性が高い。
 それに他の受験者と比べると明らかに段違いの実力だった。これはもうマークするほかないだろう。
 俺は書ける分だけのデータを事細かく記述する。

 そして―――

「―――え~それでは午後組の実技試験受験者の皆さま、こちらにお集まり願います」

 施設内にある拡声器から集合がかけられる。
 おっと、どうやらそろそろ出番のようだ。

(最後に容姿を一目だけ……ってあれ?)

 メモを熱心にしている時に戦いは終わってしまったのかその女剣士はいつの間にか姿を消していた。
 そして闘技場は一気に人の気配が失せ、広々とした空間には何とも言えない哀愁が漂っていた。
 
「いつの間に……まぁデータは取れたからいいか」

 だがやはりもう少しよく見ておくべきだったと後悔する。恐らく彼女はこの学園に確実に入学してくる。俺は確信を持った。
 それにその女が持っていた剣は恐らく聖剣。そこも気になる所だ。
 
(とにかく真相を知るには此処を乗り切らないとだな)

 とりあえず試験を通過しないことには本格的な調査は始まらない。俺はメモ帳を胸ポケットにしまい、集合場所へと急ぐ。
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