この歴代最強の新米魔王様、【人間界】の調査へと駆り出される~ご都合魔王スキルでなんとか頑張ります!~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第31話:支配者の憂鬱

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 魔王という存在はいついかなる時も魔族たちの模範となるものでなければならない。
 世を統治するということはそれ相応の器に等しい者でないと統治される民たちに示しがつかないからだ。

 ……なんて。そうは言っても前魔王である父には支配者としての器も能力も今のままでは到底勝ち目ないんだけどね。
 それにこんな未熟な俺を陰から支えてくれたのはグシオンを始めとするヴェーゼまたの名を十王将の者たちだ。

(彼らのような有能な右翼がいなければ俺はどうなっていたのだろうか……)
 
「どうかなされましたか魔王様?」
「ん、ああいや……なんでもない。少し考え事をな」
「我々でよければ是非とも相談に乗らせていただきますが……」
「気にするな、大丈夫だ。それに、これ以上お前たちに苦労はさせたくはないからな」
「お優しきお言葉……我々には勿体ない限りです。ですが魔王様、私たち十王将は如何なる時でも貴方様の傍にお仕えするのが使命であり本望。お呼びの際はいつでも、なんなりとお申し付けください」
「いつもすまないなグシオンよ。感謝する」

 本当に感謝しかできない自分が情けない。

(いつかは彼らに恩を返さなければ……)

 そんな想いを抱きながら俺は馬車に揺られ目的地へと向かう。
 
 魔王が馬車……? と思う者もいるかもしれないがこの移動手段は魔王の一族からすると伝統のようなもので先代も初代も移動する際には必ず馬車移動と決まっている。

 正直な話、俺も十王将の者たちも魔界のどこの場所へでもテレポートできるくらいの魔力を有してはいる。無駄な交通費もかかることなく一瞬で目的地へと向かうこと自体は可能なのだが残念ながらそう簡単にはいかない。
 
 まぁその理由は至って簡単な話でより多くの民に魔王である自分の姿を見てもらうためという意図的な策だ。
 魔王である俺は演説などの公務の際こそ群衆の前には出るがそれ以外は滅多に一般民の前には姿を見せない。俺自身は民たちの見えない所で政治的活動に取り組み、実行は十王将の者か魔王城に身を預ける政治家たちに先導をしてもらっている。

 これも馬車の件と同じで初代から続く、一族の慣習だ。
 魔王という絶対的支配者の存在は通常では見えないからこそその能力を最大限に発揮することができる……これは父ゼメスターが言っていた言葉でこの習わしの一番の理由だ。

 滅多に姿を見ることができないという環境を作り上げることで魔王としての存在価値を高め、人々の間に崇拝という概念を生み出す。
 魔王は彼らにとっての支配者であり、神に等しい存在。自分たちをエデンへと導いてくれる唯一無二の存在としての地位を確立させることで民衆の間に信仰心を植え付けるという極めて計算されつくされたものだったわけだ。

 実際もう何度か小さな街やら都市やらを通過したのだがこの馬車を見るたびに民衆はその場で跪き、崇拝の儀を行っていた。姿自体知らない者が多いはいえ、現魔王を示す紋章を見れば誰でも理解ができること。
 この馬車にはデカデカとその紋章が刻まれているので魔王が乗っているということが一目でわかる。
 グシオンが言うにはこれも策略の一つらしい。

 ちなみに俺がこの事実を知ったのは魔王の座に座ってから数十年後のこと。それまでは何となく魔王やってますという感じが強く、言い方を変えればやらされているという感覚の方が強かった。
 
(何せ身内には姉しかいないからな……)

 魔王の地位は古くから制約として女が座することは許されていない。よって姉しか身内の姉弟がいなかった俺には魔王となることは必然であった。
 
(本当は中流貴族辺りと結婚して平穏な日常を過ごしたかったんだけどなぁ……)

 運命(さだめ)には逆らえない、ということを身に染みて味わった瞬間だった。

 はぁ……魔王、しんどいなぁ……

 心の中でそう嘆き、少しでも休養を取るため俺はしばしの眠りについた。
 


 ■ ■ ■



「……魔王様、起きてください。そろそろ到着します」
「んーー、もうそこまで来たか」
「はい。ここはもう開戦の地である瘴気の砦、デルムーサです」
「デルムーサか。それで、開戦はまだか?」
「軍の情報班からの話によれば開戦は深夜零時。今から二時間後になります」
「二時間か……まだ少し時間があるな」

 今宵は両部族で三度目の部族間戦争が開戦される特別な日。俺たち魔王軍一行はその開戦日を狙ってはるばる王都よりやってきた。
 わざわざ要人が紛争地帯という危険な場所へ行くのにも理由があり、説明すると長くなるのだが端的に解説すれば楽ができるからだ。
 
 その一端として両部族の領内は非常に離れた場所にあり、各々を訪問するとなると余計に時間がかかってしまう。
 俺も十王将もたった二つの部族のくだらない争いのために時間を費やすほど暇ではない。
 それによりあえて紛争地帯に魔王軍自らが介入し、強制的に戦争を中断させることで両部族の有識者顔合わせの元、例の条約問題について話し合う機会を作りだすというのが作戦の一つとしてある。

 他にもやることはあるのだが、とりあえず今はこの作戦を成功させるのが第一。
 上手い具合に事が運べばすぐさま王都へと戻ることができる。
 人間界調査の時間に費やすべく、短期決戦で事を収めたい。

「……よってだ。あまりにも無礼を働く者がいればその場で殺しても構わない。だが無駄な殺傷だけは避けるんだ。殺すのはあくまでも特例の場合のみ。これだけは頭に入れておいてほしい」

「「「「「御意」」」」」

「よし、では作戦は以上だ。グシオンよ、例の件については頼んだぞ」
「かしこまりました。このグシオン、最高の結果を貴方様に差し上げることをお約束致しましょう」
「うむ。では皆の者、健闘を祈る!」

 満月が煌びやかに輝く中、俺たちは支配者としての責務を果たすべく行動に出るのだった。
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