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日常編

08.脳筋令嬢の脳筋武闘術

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 バトラーと別れた後、私は街に入り込んだ〝大物〟を見つけるべく街を駆け回っていた。

「もうどこにいるのよ……音一つ聞こえやしないじゃない」

 中継都市と言われるだけあって、それなりに広い街だ。
 いくら大物とはいえ、無駄に駆け回っては見つけられない。

 ……が、バトラー曰く私の獲物に対する嗅覚はすごいらしい。
 というわけでそう時間はかからないだろう思っていた時だ。

 ――――!

 今いる場所から少し南方面に進んだところから、何かを打ち付けるような轟音が響いた。
 どうやら嗅覚の鋭さが発揮されたらしい。
 
 ほどなくして、元凶の大物を発見することが出来た。

 だが同時に問題も起きていた。

「だ、誰……か!」

 近くに寄っていくと、大物の前に親子が倒れこんでいた。

「逃げ遅れた住民か……?」

 周りには衛兵が亡骸が倒れこんでおり、辺りには血痕が散らばっている。
 親子は今にも魔物に切り裂かれそうになる寸前まできていた。

「くっ、間に合え!」

 足の筋肉に力を入れ、地を蹴り上げる。
 距離的には50メートルほどあったが、普段鍛えていることが功を成したのだろう。

 なんとか魔物の前に立ち塞がることに成功すると、腕をX字にし攻撃を受けきる。
 瞬間、魔物の体重を乗せた攻撃がずしっと身体に乗ってくるのを感じた。

「ほう……これは楽しめそうね。はぁぁっ!」

 私は魔物の攻撃を跳ねのけると、親子の方に振り返る。

「ここは私に任せて、早く逃げなさいな」

 親子は突然のことに茫然としていたが、自らの生命の危機によって本能的にそうさせたんだろう。
 すぐに立ち上がると、親子は門の方に向かって走っていった。

「これで誰にも邪魔されずに一戦交えることができそうね」

 長い尾びれに細い尾、先端にはハンマーのような丸い球体がついている。
 轟音の正体はそれのようだった。

 恐らくは、あの尻尾で多くの衛兵がやられたのだろう。

「じゃあ、早速始めましょうか」

 私は身体全体に力を入れると、挨拶代わりの波動正拳突きを喰らわせる。
 一発、二発……と続けていれると、魔物は少し苦しそうにするが何とか耐えきってくる。

 同時に逆鱗に触れたか、巨大な咆哮で私を威嚇してきた。

「いいじゃない。やる気満々ってことね!」

 それなら後はやることは一つ。
 完膚なきまでに叩き潰すのみ。

 え、戦術とかはないのかって?
 あるわけがないでしょう?

 私の武器はこの拳一つだ。
 剣? 魔法? そんなものは要らない。

 女なら黙って拳で語れ。
 あれ、この場合は男なら~が正しかったんだっけ?

 まぁそんなことどうでもいい。

 最終的には全て筋肉が解決してくれると、古の時代から証明されているのだから。

「悪いけど、日頃のストレスを発散させてもらうわね」

 私は拳に覇気を纏わせると、右胸に一発くらわせる。
 流石にこれには耐えかねたのか、魔物は膝をつくと苦し紛れに吐き出した。

「結構痛いのくらわせたと思ったけど、まだ耐えるのね。でもいいわ、それでこそ楽しめるってものよ!」

 勢いそのままに連撃を繰り出す。
 それでも魔物は耐えきり、今度は……と言わんばかりに自慢の尾をぶつけてくる。

 私はそれを片手で受け止めると、そのまま薙ぎ払った。

「中々いいじゃない! 最近戦った魔物の中じゃ、一番強度があるわね」

 トレーニング用のペットにしたいくらいだ。
 これくらいの強度がある魔物が相手にいれば、より強く……とそんなこと言っている場合じゃなかった。

「あまり長引かせるのもよくないから、名残惜しいけどそろそろ終わりにさせてもらうわね」

 私は魔物から数十メートルほど距離を置くと、意識を集中させる。
 身体中にめぐる魔力を右の拳に集中させると、素早く攻撃態勢をとった。

 魔物はその態勢を見るなり、私を排除しようと猛スピードで向かってくる。
 だが、もう遅い。

「どうか来世は私のペットとして生まれ変わってきてちょうだい」

 そう言い残すと、拳にため込んだ覇気を解き放った。

「天地万象、我が拳にひれ伏せ……≪爆裂竜撃打≫ッッ!」

 解き放った覇気は竜のような形状に姿を変え、魔物に向かって飛んでいく。
 その一撃は数メートルある巨体を貫き、一瞬にして風穴を開けた。

「ふぅ……」

 魔物はそのまま倒れこむと、完全に息の根が止まった。
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