凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第一章【出会い編】

不思議な石

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     ■■■■

   サタコと暮らし始めたある日。

「サタコさん、それはなんですか?」
「ん?    恭も興味があるのか?」

 さっきからずっと石をゴシゴシと磨いているサタコさん。ときどきハァァと息を吹きかけ、何度も何度もタオルで磨いている。

「き、興味があるって言えば、あるかな……」

 朝からずっとあの調子だ。気になってしょうがない。

「これはな、願いを叶えてくれる石なのだ」
「なに!?    そんな物いったいどこから!?   ちょ、ちょっと俺にも見せてくれ!」

 俺はサタコの手から石を奪い、注意深く観察する。しかし、どう見てもただの石ころだ。丸っこい形に多少艶があるが、どこにでもある石ころ。

「こら、返せ恭!    それは私のだぞ!」
「お前これをいったいどこで……?」
「さっき庭で拾った」
「…………願いが叶うって、どこ情報だよ?」
「マンガに書いてあったぞ?」
「…………………」

 俺は無言で石を玄関から外に投げ捨てた。カンカンカーン……と階段を転げ落ちていく石ころを見て、慌てて拾いに行くサタコさん。

「石太郎ぉぉぉぉぉおおお!!!!」

 名前があるんかい!!

 サタコは階段を駆け下り、必死で石太郎を探している。どうやら俺は、全くもって無駄な時間を過ごしてしまったようだ。

「恭ぉ!   石太郎に謝るのだ!    可哀想に、なぁ石太郎?」

 石太郎を持って帰ってきたサタコ。しかし、その手に持っていた石は明らかにさっきの石では無かった。

「それ石太郎じゃないよね?    随分大きくなったなぁ石太郎さん。顔もゴツゴツして、苦労なさったんですね」

 ハッとした顔を浮かべるサタコさん。石をマジマジと見て、どこが違うのかと困惑気味だ。

 いやいや、見るからに違うでしょーに。お前の石太郎への愛情はそんなものだったのかよ。

「い、石太郎は修行をして大きくなって帰ってきたのだ、なぁ?    石太郎ぉ?」

 適当な事言ってんじゃねぇぇ!!


「ふん、願いが叶っても恭には使わせてやらんからな」
「あい、そうですか」

 ぷいっとそっぽを向くサタコ。

 サタコは石太郎を床に起き、掌を石太郎に向け、水晶玉を撫でるように手を動かし、ブツブツと呪文を唱える。そして、バッと両手を天高く上げる!

「いでよ、ドラゴーン!!」



 シーーーーーーン。




「………………………」



「なぜだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 そりゃそうだろうよ……ち、仕方ねぇな。

「それさ七つ集めて、初めて願いが叶うとかじゃねぇの?    知らんけど」

 俺の言葉に、目を見開き口を開けて固まるサタコさん。「それだ!」みたいな顔をしている。暫く固まった後、何かを思いついたのか、ドタバタとアパートの階段を降りて行ってしまった。そして、数分後に大量の石を抱えて戻ってきた。今度はなんだと言うのか。

「はぁはぁ……これで七つ集まったぞ!フハハハハッ」

 随分と安っすい魔法の石っすねぇぇ!?

「石太郎」「石次郎」「石三郎」「石四郎」「石五郎」「オリハルコン」「石原裕〇郎」

 六個目と七個目ぇぇぇえ!!!

 七つの石を綺麗に並べ終え、満足気なサタコさん。額の汗を拭い、再び手をかざし呪文を唱える。そして両手を天高く上げ叫ぶ!!

「いでよ、ドラゴォォォォン!!!我にバームクーヘンを与えたまえ!!!」



 シーーーーーーン。



 でしょうね、でしょうよ。





 ピンポーン。



 ん?来客??

 玄関を開けると、そこには大吉が立っていた。


「よっ恭!    近くに来たから寄ってやったぜ!    これ、サタコちゃんにあげようと思って。確か好きだったよな?    『バームクーヘン』」

 嘘……本当に願いが叶っちゃったの!?

 俺は慌てて部屋に戻り、オリハルコンを拾い上げ、マジマジと見つめる。しかし何度見ても、どう贔屓目に見てもただの石だ……

「あっ……」

 俺は手が滑って、オリハルコンを落としてしまった!!オリハルコンが落下した先にはよりによって裕〇郎が……

 カツン!と音がして粉々に砕け散る裕〇郎……

 お、おぉ……うん……流石オリハルコン……

「裕〇郎ぉぉぉぉォォォォ!!!!」

 粉々に砕け散った裕〇郎を前に泣き崩れるサタコさん……

「ご、ごめんサタコ……ほ、ほらバームクーヘンやるから許してくれよ……」

 大吉が持ってきたバームクーヘンを手渡すと、ピタリと涙が止まり、願いが叶ったと大喜び!!

 愛情薄っっっ!!!

 その後サタコは、新しい石を拾ってきて何度も呪文を唱えたが、一つも願いが叶わなかった。

「恭。やっぱり裕〇郎は偉大だったんだな」
「そ、そうだな……」


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