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第一章【挑】
お泊まり会
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夜の八時を回った頃、乃百合の家のチャイムが鳴らされた。
乃百合は誰が来たのか察しがついていた為、自ら玄関へと向かい扉を開けた。
「乃百合ちゃーん! 来たよー 和子だよー!」
「えっ、わっ子!?」
「私がわっ子ちゃんも誘ったの。大勢の方が、その……楽しいかなって思って」
「それはまぁ、楽しいんだけど……ブッケン今日のお泊まりの趣旨忘れてないよね?」
乃百合の心は、嬉しさ半分戸惑い半分と言ったところだ。数分前まではメラメラと燃えていたが、和子の抱き抱えていた大きな枕を見て、少し脱力した。
「わっ子、それ枕? なんで豆?」
「えへへー。抱き枕だよ! だだちゃ豆をモチーフにしてるんだけどね、実はこの鞘の中には三兄弟が隠れてて──、」
「あー、話は後でゆっくり聞くから、取り敢えず私の部屋に上がりなよ」
「はーい! おじゃましまーっす」
「お邪魔します」
乃百合は和子の話が長くなりそうだったので、早めに話を切り自分の部屋へと招き入れた。
和子は体が小さく、ふわふわした性格で乃百合には妹のように扱われている。たまに空気を読めない所もあるが、純粋さ故の事なので周りは特に嫌う者は居ない。
二人は食事とお風呂を済ませてきており、後は寝るだけなのだが、お泊まり会はこれからが本番だ。
和子は持ってきた枝豆抱き枕のチャックを開けて、中から豆の人形を取り出した。
「この子が『ダメ男』この子が『ダメ代』そしてこの子が『ちゃんとしろ助』それぞれの頭文字を取って『だだちゃ』だよ! 皆んなどれにするー?」
「最後強引すぎでしょ! んじゃダメ男でいいや」
「あ、じゃあ私はダメ代借りるね。ありがとうわっ子ちゃん」
「どうぞどうぞー」
三人はそれぞれ豆枕を抱えて、乃百合の母親が用意してくれた布団に入った。
因みに『だだちゃ』とは『お父さん』という意味である。
「早速本題なんだけど」
「ダブルスの話だよねー?」
「そうそう。私達のプレースタイルが似すぎててダメなんだって。もっとお互いにしか無い武器とかがあれば、解決の糸口になると思うんだけど……うーん」
乃百合は二人が来るまでの時間で、その事を考えていた。しかし、考えれば考える程に行き詰まってしまう。乃百合とブッケンはそれ程似ている。
「でもでも、乃百合ちゃんのアレって凄かったよね? ブッケンがアレやったの和子は見たこと無かったかなー」
「アレ?」
「んーー『ループドライブ』? だったっけ? 確か部内大会の時に隣で海香先輩がそう言ってたような……」
「ループドライブ!? それって海香先輩がよく使うアレ……」
乃百合は和子の言葉に部内レギュラー選抜大会の時の事を思い出していた。南先輩のカットを攻略しようと必死に持ち上げたボールは、あれだけ大きく腕を振り上げたにも関わらず、勢いそのままに鋭く落ちるように相手コートを撃ち抜いていた。
乃百合は自分でも気づかないうちにループドライブを手に入れていたのだ。
「ループドライブ、確かに上手く使えれば攻め手が広がるね」
「ループドライブの特性は確か──、」
「ラケットに当たると浮き上がるんだよ。あれって返すの難しいんだよね」
「って事は抜けなくてもチャンスボールが帰ってくる訳だから、ブッケンのスマッシュの決め手が大事になって来るって訳か……」
「おぉ二人ともなんか卓球人! って感じだねー和子は会話についていけませんっ」
ダブルス議論は盛り上がった。
和子の素人ならではの目線も相まって、次から次へとアイディアが浮かんできた。
「──、ループドライブを打つには空間とタメが必要だな。て事は……」
「うん、その前で相手コートの奥にボールを送った方がいいのかも」
「だね。あと、ブッケンがスマッシュ打ちやすい様に、こっち側狙った方がいいのかな?」
「うんうん! そうだね」
「すぴーすぴー」
こうしてダブルス議論は日付が変わるまで終わることは無かった。
■■■■
──翌朝──
大音量の目覚まし時計が部屋に鳴り響く。
時刻は午前の五時半だ。
その音に乃百合とブッケンは直ぐに目を覚ましたが、和子はまだ目を擦りながら眠たそう。
乃百合の朝は早い。ブッケンとのやり取りで情熱を取り戻した乃百合達は、あれから毎日二人で一緒に走り込みをしていた。そして学校に向かい、誰よりも早く朝練を開始している。
「わっ子、起きて。もう行くよ」
「ふぇ? 行くって、まだ六時前だよ……」
「わっ子ちゃん、私達毎日走り込みしてるんだ。せっかくだから、今日はわっ子ちゃんも一緒にどうかなって思って」
「うん……分かったー。着替えるからまってて」
三人は日課の走り込みコースを走り、乃百合家で朝食をご馳走になった後、朝練に向かうために家を出た。
■■■■
「うわ、だーれも居ない。うっひょー! ねーね、打ってもいい? いい?」
「わっ子嬉しそうだね。卓球は毎日やってるじゃん」
「いやいや乃百合ちゃん、部活中だと結構先輩達に気を使って自分の練習が出来ないからねー。こうやって自由に出来るって和子にとっては凄いことなんだよー」
「そう言われるとそうなのかも知れないね。ね、そうだ。じゃあさ、これからわっ子ちゃんも私達と一緒に朝練しない? きっとその方が楽しいし、わっ子ちゃんも早く上手くなれると思うんだ」
「お、それいいね! ナイスブッケン!」
ブッケンの提案を、和子は可愛らしい笑顔で快諾した。これからは三人で朝練を頑張る事になったのだった。
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