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第一章【挑】
怒りのまっひー
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控え室で円陣を組んだ念珠崎チームが会場に向かうその途中。
乃百合とブッケンは、児島南と大山朱美に呼び止められた。
「常葉さん六条さん、ちょっといいかな」
「南先輩、大山先輩。どうしたんですか?」
「あの……これ」
南と大山はそれぞれ二人にプレゼントを差し出してきた。それは赤と青の可愛らしいお揃いのヘアピンだった。
「最近、ちょっと髪伸びてきたじゃない? 私達は試合に出られないから、せめて何か出来ないかって思って。二人で選んだんだよ」
「南先輩……ありがとうございます!」
乃百合は南から赤いヘアピンを受け取り、早速自分の髪に付けてみせた。
「六条さん。私、試合に出られない事には本当に納得しているの。でも私も一緒に戦わせてくれないかな。応援してる。頑張ってね」
「大山先輩ッ! ありがとうございます、私、頑張ります。大山スマッシュで絶対勝ちます!」
ブッケンは大山朱美から青いヘアピンを受け取ると、思わず大山に抱きついた。
共に三年生でありながら一年生にレギュラーを奪われた二人。共に口下手な、そんな二人。彼女らにここまで応援された乃百合達は、思わず熱いものが込み上げた。
■■■■
「全員整列!」
審判の方が整列を促し、念珠崎、甘芽中の選手が向かい合って一列に並んだ。いよいよ始まる──、
「「宜しくお願いしますッ!!」」
向かい合う相手は、この地区の絶対王者だ。
過去三十年、甘芽中が県大会行きを逃した事は無い。それだけではなく、ここ三年連続で東北大会にまで進む超強豪校だ。
チームはそれぞれの陣地に戻ると、早速第一試合の準備に取り掛かった。
「さ、流石に強そうですね……」
「なーにびびってんだよ。俺が勝って勢いつけてきてやるから見とけ!」
まひるは乃百合の丸まった背中を伸ばすように、強く叩いた。
「あ痛っ!」
まひるは深く息を吐くと、和子に借りた新品のペンホルダーを持ち、戦いの場へと向かう。
「じゃあ行ってくる」
後輩の期待、先輩の願い、同期の想い。
まひるは沢山の声援を受けて送り出された。
卓球台の前まで来ると、互いのラケットを交換し合い、チェックするというルールがある。ラバーに不正は無いか、ラケットは規定の物を使っているか見る為だ。
少しでも違反があれば失格となる。卓球とは厳しいスポーツなのだ。
「問題ありません」
「問題無いです」
確認し終えた二人は再びラケットを交換し合い、試合前に握手を交わす。
「「宜しくお願いします!」」
その握手の離れ際、相手選手がまひるにしか聞こえない声で話しかけてきた。
「ふふっ、今時アイドルって。本気っすか?」
「ああ? 今の一つも笑うところなんて無ぇだろ」
まひるの返しに舌打ちをした選手と、それに対して睨みを効かせたまひる。試合は始まる前から大荒れ模様となった。
「興屋さん対水沢さん、第1ゲーム、興屋さんサービス、0-0」
審判の合図と共に試合が始まる。サーブはまひるからだ。
この大会は5回戦制が採用されており、先に3回先勝したチームの勝ちとなる。
1回戦は5セットマッチで行われ、先に3セット先取した選手の勝ちとなる。因みにサーブは2本交代である。
最初のまひるのサーブ──、
掌にピンポン玉を乗せ高く舞い上がったボールは勢いよく相手コートに飛び込んだ。
台手前に落ちる上回転サーブだ。
水沢夏は思っていた以上のサーブが来た為レシーブを誤り、いきなりチャンスボールを返してしまった。完全に相手を格下だと舐めていたのだ。
「まっひー先輩! いけーっ!」
最初の好機にまひるは思い切ってスマッシュを叩き込む。が──、
スマッシュは勢い余って相手コートを大きくオーバーしてまった。その瞬間、念珠崎チームに動揺の色が走った。
【0-1】
「部長、まっひー先輩、やっぱりラケットが……」
「それもあるだろうけど……」
卓球のラケットは、規定の範囲内であれば自由に削って加工しても良いという決まりがある。その為、自分により合う様にラケットを削る人も少なくない。まひるもその一人だ。
「まっひーはスマッシュが苦手なのよ。勢いがあるのはいいけど、コースを狙ったりするのが苦手な子でね。そこさえ直せばまっひーは全国にも行けるのに」
「ぜ、全国!?」
「うん。私はそう思ってるよ」
興屋まひるの卓球は荒い。高い身体能力を持ちながら繊細さに欠けるまひるは、細かくコースを狙う事を苦手としていた。それ故に、チャンスボールで決めきれなかったり、相手に得点を献上してしまう事もしばしばだった。
まひるは次の攻撃もネットに掛けてしまい、一気に二点を失う苦しいスタート。
【0-2】
「部長、相手の選手って強いんですか?」
「えーとね。『水沢夏』二年生。プレースタイルはシェイクドライブ型。去年の新人戦では、個人で地区大会、三回戦負けになった選手ね。県大会に出場記録がないから、ここ最近急激に力を付けて来た選手みたい。予想外で私もデータは殆ど持っていないわ」
サーブ権が交代し、次は水沢夏がサーブを撃つ番だ。
水沢夏は掌でコロコロとピンポン玉を転がしながら、その表情は笑っている。いや、ニヤついていると言った方が正しいか。
──こんにゃろッ──
水沢夏のサーブ。
サーブをトスするその瞬間、水沢夏の手が台下に僅かに隠れた。
「ちょっ……」
そして襲いかかる横回転のサーブ。
まひるはそのボールを追うことなく得点を許した。
「審判、今のはッ」
卓球のサーブは事細かにルールが決められている。
掌を開いてボールを乗せる。トスする高さは16センチ以上。ボールを体で隠してはいけない。二十秒以内で打つ。台より上から打つ。台の外から打つ。
そして──、台より上からトスする事。
つまり、今のは明らかな『違反サーブ』だ。
しかし審判は問題無いとの判断だった。
【0-3】
「水沢さん、もうちょっとハッキリとサーブしてね」
「はーい」
「てめぇ──、」
「そして興屋さん、あんまり口が過ぎると失格にするからね」
「…………すみません」
まひるは納得がいかなかった。何故違反サーブをした水沢の得点が認められ、抗議した自分が注意されなければならないのか、と。
その後の展開は一方的なものだった。
頭に血が登ったまひるは、ことごとくミスを連発し結果的に【3-11】という大差を付けられこのセットを落とした。
■■■■
コートチェンジをし、2セット目が始まってもまひるの卓球は酷い。
相手の時間いっぱい使ったサーブや、不運なエッジボールに我を忘れたかのようなプレーは、チームメイトであっても目を覆いたくなるものだった。
その光景に、堪らず築山文がタイムアウトを申告した。
卓球の試合では、一試合につき一回、一分間のタイムアウトを取る事ができる。
戻ってきたまひるの表情は厳しく、イライラが爆発寸前と言ったところだ。
「お疲れ様です、まっひー先輩。まだまだこれからですよ!」
乃百合は務めて明るく振舞った。このままチームが沈んでいてはいけないと思ったからだ。
「それでですね、まっひー先輩。私気づいたんですけど、水沢選手ってバックバンドが苦手なんじゃないですか?」
「…………」
「乃百合ちゃん、なんでそう思うの?」
「水沢選手、今の今まで一度もバックを使ってないんですよ」
下を向き。乃百合と築山文の会話を無言で聞いていたまひるは、怒りで小さく震える声で答えた。
「ちげーよ。あいつ、ワザとフォアしか使ってねーんだ」
「えっ!?」
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