24 / 96
第一章【挑】
点と線
しおりを挟む
──第四試合──
築山文。三年生、念珠崎女子卓球部の部長。
文は部長でありながら県大会の出場記録が無い。彼女の卓球を一言で現すならば『真面目』だろうか。
文は取り分け卓球のセンスがある訳でもなく、ましてや運動能力が高い訳でもない。それを補う為、彼女は相手の研究を怠らない。相手の癖、戦型、弱点を洗い出し、弱い自分がいかに有利に戦えるかに重きを置いている。
──五十川紗江。強豪甘芽中のキャプテン。確か戦型は【前陣攻守型】。サーブで揺さぶり、卓上の早いラリーから最後はスマッシュ。攻撃にもブロックにも強いスタイル。正直私には雲の上の存在だけど、負ける訳にはいかない!──
「念珠崎には要注意人物が二人いる」
「なっ……」
「一人は天才、原海香。そしてもう一人は興屋まひる。この二人以外目立った選手は居ない」
「そ、そんな事!」
「だがそんな事は無かった。あなた達は予想以上に強かった。だから私も楽しませて欲しい。築山さん宜しくね」
「くっ……」
王者の風格。
文の心に押し寄せる重苦しい圧力。
──ダメ……戦う前から負けてちゃダメだよ! やってみなきゃ分からないんだ。私だって三年間頑張ってきたんだ。この日の為に、やるべき事はやって来た。あとはどこまで通用するか──
最初のサーブは紗江からだ。
紗江のボールがラケットにインパクトする瞬間、文は瞬時にそのサーブがどのコースに、どんな回転で来るかを見抜いた。
──いきなり来た! データ通り得意のナックルサーブ。私の正面。深い位置──
文がブレ玉の起動を見極め難なく返球すると、紗江は得意のラリーへと持ち込んだ。
──右、次はクロスで、最後はスマッシュ──、見える……手に取るように分かる!──
【1-0】
頭で思い描いた通りに全てが運び、文は先取点をもぎ取った。更に──
【2-0】
【4-2】
【6-5】
文は新人戦で県大会ベスト4まで進んだ紗江相手に全く負けていなかった。
目に穴が空くほど頭に叩き込んだ紗江のデータが、役立っていると言うのものもあるが──
──あれ……私ってこんなに出来る子だったっけ……こんな早いラリーについていけるんだっけ……?──
紗江と渡り合っている自分に驚いた。これは夢か幻か。否、これは紛れもない文本人の力。三年間の集大成。
皆さんには、出来なかった事がある日突然出来るようになった、という経験があるだろうか? 時に人間はそういった場面に出くわすことがある。それは、ただの偶然ではない。奇跡でもミラクルでも無い。それは──
努力の『成果』なのだ。
練習やデータ集めが一つの点だとするならば、文は三年間、芽が出なくともその点をめげずに毎日集めて来た。毎日、毎日、少しずつ。そしてようやく今になって、その点と点が繋がった。ただ結ばれるのが少し遅かっただけで、築山文の積み重ねてきた物は、確かにそこにあったのだ。
──肘が下がった! 右下回転のボールが来る! そして五十川選手の苦手なコースは……──
文の放ったバックハンドスマッシュは、紗江の逆を突く美しいフィニッシュとなった。
【9-7】
「ちょっとまっひー先輩! 部長が凄いんですよ! 部長がぁぁぁ!」
「わかった、分かったから落ち着け乃百合! 俺も見てる!」
「文さん、遂に覚醒したかなー。相手の五十川選手、かなり強いって評判なんだけどなー」
【10-8】
──落ち着け私。こんな時こそ落ち着いて。相手はトップ選手。気を許したらやられるッ──
築山文は舞い上がらない。その感情が足元を救われると知っているからだ。強豪の足元を救おうと、常に考えてきた弱小チームの部長ならではの思考回路。だから手を緩めない。このまま一気にこのセットを奪いにかかる。
────ッ!!
築山文のスマッシュが相手コートで弾けたと同時に、第一セットの終わりが告げられた。
【11-8】
息を切らし、顔を紅潮させた築山文に対し、何が起きたか分からず驚き顔を青くさせたのは五十川紗江。
紗江にとっては、こんな事はありえない事だった。強豪甘芽中のレギュラーであり、部長にまで登りつめた紗江が、弱小チームの無名選手にセットを先取される等、あってはならない事。
あっという間の第一セット。
築山文、本日絶好調────
築山文。三年生、念珠崎女子卓球部の部長。
文は部長でありながら県大会の出場記録が無い。彼女の卓球を一言で現すならば『真面目』だろうか。
文は取り分け卓球のセンスがある訳でもなく、ましてや運動能力が高い訳でもない。それを補う為、彼女は相手の研究を怠らない。相手の癖、戦型、弱点を洗い出し、弱い自分がいかに有利に戦えるかに重きを置いている。
──五十川紗江。強豪甘芽中のキャプテン。確か戦型は【前陣攻守型】。サーブで揺さぶり、卓上の早いラリーから最後はスマッシュ。攻撃にもブロックにも強いスタイル。正直私には雲の上の存在だけど、負ける訳にはいかない!──
「念珠崎には要注意人物が二人いる」
「なっ……」
「一人は天才、原海香。そしてもう一人は興屋まひる。この二人以外目立った選手は居ない」
「そ、そんな事!」
「だがそんな事は無かった。あなた達は予想以上に強かった。だから私も楽しませて欲しい。築山さん宜しくね」
「くっ……」
王者の風格。
文の心に押し寄せる重苦しい圧力。
──ダメ……戦う前から負けてちゃダメだよ! やってみなきゃ分からないんだ。私だって三年間頑張ってきたんだ。この日の為に、やるべき事はやって来た。あとはどこまで通用するか──
最初のサーブは紗江からだ。
紗江のボールがラケットにインパクトする瞬間、文は瞬時にそのサーブがどのコースに、どんな回転で来るかを見抜いた。
──いきなり来た! データ通り得意のナックルサーブ。私の正面。深い位置──
文がブレ玉の起動を見極め難なく返球すると、紗江は得意のラリーへと持ち込んだ。
──右、次はクロスで、最後はスマッシュ──、見える……手に取るように分かる!──
【1-0】
頭で思い描いた通りに全てが運び、文は先取点をもぎ取った。更に──
【2-0】
【4-2】
【6-5】
文は新人戦で県大会ベスト4まで進んだ紗江相手に全く負けていなかった。
目に穴が空くほど頭に叩き込んだ紗江のデータが、役立っていると言うのものもあるが──
──あれ……私ってこんなに出来る子だったっけ……こんな早いラリーについていけるんだっけ……?──
紗江と渡り合っている自分に驚いた。これは夢か幻か。否、これは紛れもない文本人の力。三年間の集大成。
皆さんには、出来なかった事がある日突然出来るようになった、という経験があるだろうか? 時に人間はそういった場面に出くわすことがある。それは、ただの偶然ではない。奇跡でもミラクルでも無い。それは──
努力の『成果』なのだ。
練習やデータ集めが一つの点だとするならば、文は三年間、芽が出なくともその点をめげずに毎日集めて来た。毎日、毎日、少しずつ。そしてようやく今になって、その点と点が繋がった。ただ結ばれるのが少し遅かっただけで、築山文の積み重ねてきた物は、確かにそこにあったのだ。
──肘が下がった! 右下回転のボールが来る! そして五十川選手の苦手なコースは……──
文の放ったバックハンドスマッシュは、紗江の逆を突く美しいフィニッシュとなった。
【9-7】
「ちょっとまっひー先輩! 部長が凄いんですよ! 部長がぁぁぁ!」
「わかった、分かったから落ち着け乃百合! 俺も見てる!」
「文さん、遂に覚醒したかなー。相手の五十川選手、かなり強いって評判なんだけどなー」
【10-8】
──落ち着け私。こんな時こそ落ち着いて。相手はトップ選手。気を許したらやられるッ──
築山文は舞い上がらない。その感情が足元を救われると知っているからだ。強豪の足元を救おうと、常に考えてきた弱小チームの部長ならではの思考回路。だから手を緩めない。このまま一気にこのセットを奪いにかかる。
────ッ!!
築山文のスマッシュが相手コートで弾けたと同時に、第一セットの終わりが告げられた。
【11-8】
息を切らし、顔を紅潮させた築山文に対し、何が起きたか分からず驚き顔を青くさせたのは五十川紗江。
紗江にとっては、こんな事はありえない事だった。強豪甘芽中のレギュラーであり、部長にまで登りつめた紗江が、弱小チームの無名選手にセットを先取される等、あってはならない事。
あっという間の第一セット。
築山文、本日絶好調────
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました
ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公
某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生
さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明
これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語
(基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる