しぇいく!

風浦らの

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第二章【越】

スーパープレイ

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    ──第二セット──

   セットが変わると同時に桜のプレーが冴えて来た。
   前のセットで、嫌という程相手に植え付けた表面(アンチラバー)とは異なり、このセットは裏面(裏ソフト)を交えての攻撃で、相手を手玉に取っていく。これぞシェイク異質型の真骨頂。

    「桜先輩が押してますね!」
    「無回転、回転反転に加え、裏ソフトの強烈なスピンもあるし、打球速度も違うからな。これは相手の反射に訴えかける攻撃だ。少なくとも、このセットは桜のターンだぜ」

    まひるの言う通り、相手の酒田夜宵がいかに天才型とは言え、いきなり対応するというのは難しい。

    【7-4】

    使う者が極端に少ないアンチラバーを、使い込んで物にしてきた藤島桜。対戦経験が少ない分、使い込めば使い込む程有利に試合が進められる。それがこのラバーの強みであり、桜はそれをしっかりと理解していた。

   ──アンチラバーには、ラケット上をボールが滑る感覚がある。それを逆手にとって……──

    振り抜いた桜のスマッシュは、身体と気持ちとは逆に飛び、勢いよくコートを撃ち抜いた。
    完全なモーションからのフェイントに、夜宵も驚きの顔をしている。

    普通のラケットからの軌道では、想像も出来ないボールが飛んでくる。かと思えば、直前にラケットを反転させた、カットやスピードドライブ。
    一つ一つの技自体は並の選手だが、それらを駆使して桜は戦い続けた。

    【10-7】

    「ちょっ、どれだけバリエーションがあるのかな?」
    「秘密!」

    最後は夜宵のドライブをブロックで返して勝負あり。返球をミスした夜宵が、何故か嬉しそうにこちらを見ている。

   【11-7】

    ──あっちゃー。なんか嬉しそうだよ……絶対このまま終わらせてくれないよね──


    ──第三セット──

    桜の攻めのスピードが速くなっていく。
    カットマンとは違い、相手のペースが崩れた所を一気に勝負をしかける。それが桜のスタイルだ。長引けば長引く程、相手に対応する時間を与えてしまうからである。そう、桜は考えていた。

    【3-2】

    裏表を巧みに操り、相手のミスを誘っていく。
    相手が慣れてくる前に、なんとか勝負を決めてしまいたい所だ。

    【6-4】

    だが、トリックスター夜宵の力は常に桜の想像の上を行く。くるりと体を一回転させたかと思えば、強烈なスマッシュが返ってきたり、サイドを抜いたと思えば、ネットを巻き込んだボールが返ってくる。
    見たことも無い動きとボールの軌道に、桜は手を焼いた。ボールを相手コートに返せなければ、桜がいくら特殊な打球が打てようとも勝ち目はない。

    【10-10】
    
   このセットを取らなければ、後々苦しくなる事は目に見えている。

    ──『卓球は好きか』だったっけ?   好き、大好き。好きになったよ。もし、卓球がこの世から無くなったら?   私が卓球を作って、また皆を集めて卓球やるんだから。それくらい今は好き──

    【11-10】

    飛んできたボールをアンチラバー面で捉えると、そこから桜はカットを打つ動きを見せた。
    通常、アンチラバーは回転をかける事に適さないラバーだ。
    しかし、それは思い込みである。
    粒高ラバーとの最大の違いは、ラケットにボールが食い込むかどうかと述べたが、ラケットにボールが食い込む瞬間、この瞬間にラケットを擦る事で回転をかけることが出来るのだ。
   時間にしてほんのコンマ何秒の感覚的な作業だが、桜はこのプレーを物にしてみせた。これが藤島桜の裏技。

    回転のかかるはずのない(であろう)表面でのカットに、酒田夜宵は打球処理を誤り、このセットを桜が制する事になった。

    【12-10】

   これでセットカウントが【2-1】

    「す、すっごいね!」
    「アンチラバーって、面白いでしょ?」

    セットを奪われたのにもかかわらず、酒田夜宵の表情は明るい。子供のように目を輝かせ、興味津々に桜を見つめてくる。
    この手のタイプは、テンションが上がる程に強くなる。桜はその笑顔に騙されることなく、次のセットで決めようと気を引き締めた。

    ──第四セット──

    異質のラケットVS異質の動き。
    試合は壮絶な騙し合いに発展していく。
    右と見せかけた左、強打と見せかけ変化、取れないと見せかけて返球──、

    試合を見守る念珠崎ベンチも、息を飲み応援している。硬く結んだ手にも自然と力が入る。

    「穴を掘る……」
    「穴?    急に何言ってんだよ」

    試合を見入っていた乃百合が、不意にしたその言葉。それは──、

    「私が海香先輩の練習見てて『越えられない高い壁みたい』って言った事があって。そしたら桜先輩が「確かに高い壁だけど、私なら穴を掘って向こう側を目指すかな」って言ってたんです」
    「桜らしい答えだな。ちょっと笑っちまったぜ。でも──、」

    壁の向こう側を目指すのは、わざわざ乗り越えて行かなくてもいい。穴を掘り、トンネルを作って下から目指してもいいのだ。結果、どっちが良いか、大変か、確実か。それは分からないが、そんなやり方もある。

    【7-7】

    試合の中盤、ここまでは互角の戦い。県大会上位常連の酒田夜宵相手に大健闘の藤島桜。セットカウント【2-1】と追い込み、このセットを取れば県大会が決まる。

    桜、渾身のナックル性スマッシュは、夜宵の逆を突く完璧なショットとなって襲いかかった。

   ──よしっ、ここも貰った!──

   完全に逆方向に体が泳ぎ、見ていた誰もが取れないと思われたその打球──、
   しかし夜宵はその打球に無理やり反応して見せた。
   ラケットを持つ腕を背中越しに背後から伸ばし、飛んできたボールに強引にぶつけた。
    トリックショットの中でも高難易度の、背面ショットである。

    ──うそでしょ……──

    打球は勢いよく集中力の切れた桜の横を抜け、夜宵の得点となった。

    「あら、ラッキー。入っちゃった」

    あまりのスーパープレイに会場がどよめいた。
    時にスーパープレイは試合の流れを一気に引き寄せる。
    
   【7-8】

   その後は、運も流れも夜宵に傾いた。
   夜宵のサイドインを狙ったネット横からの打球は運良くエッジを直撃し、反して桜の攻撃はネットに阻まれた。
    そして──、

    「くっ……」

    桜は、強烈なドライブの処理に対応できずに、最後の一点を奪われ、そのままこのセットを落とした。

    【8-11】

    これでセットカウントは【2-2】
    試合は、両者一歩も譲れない第五セットへと続いていく。
    
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