しぇいく!

風浦らの

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第三章 【誓】

物欲

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    決勝戦、第二試合──

    甘芽中、二試合目を務めるのは遊佐楓ゆざかえで(一年)【オールラウンド型】。県で四度のチャンピオンに輝いた姉を持つ、最強の妹。

    対するは念珠崎不動のエース。原海香(二年)【ドライブ攻撃型】。仲間と共に。母の為に。悲願の優勝へ──

    「「宜しくお願いします」」

    握手を交わした二人。
    海香は運命めいたものを感じていた。
    念珠崎の海香最大のライバルとして立ちはだかった遊佐凪咲の実の妹と、まさか優勝をかけて戦う日が来るとは。

    「そっくりー。小ちゃくて可愛いー!」
    「こっち見るな、原海香」

     ぷいっと顔を背けられた海香。
     どうやらいきなり嫌われてしまったようである。

     「本当に凪咲さんそっくり。ミニチュア版ですね」
     「だね。でもあの子、あんまりデータが無いのよね……確か卓球を始めたのは中学からだった筈だよ」
    「うへぇ。それで甘芽中で既にレギュラーですか……遺伝子の力恐るべし。でも、確かに同い年ですけど、大会で見た事なかったです」

     乃百合は隣にいたブッケンにも聞いてみたが、やはり知らないようだ。それどころか、大会に出るのも今日が初めてだという情報まで出てきてしまった。

    「初公式戦でいきなり決勝戦、普通じゃビビってしまうところなのに、楓ちゃん全然そんな様子無いですね……すごい」

        「原さん対遊佐ゆざさん、第二ゲーム、原さんサービス、0-0ラブ・オール

    そっくりなのは見た目だけでは無かった。
    ラケット、ラバー構成から始まり、構え、フォームに至るまで瓜二つである。
    そして更にはこんな事まで──

    「うわっカウンタースマッシュ!!」

     【3-1】

    遊佐凪咲の代名詞であるカウンター。それさえも再現してみせた遊佐楓。これは本物と見るべきか。

    ──うわー、今のカウンターなんて正に凪咲さんと重なったよー。でも、なんか嬉しいなー。あの時は負けちゃったけど、今の私はあの時とは違う。また、こうやって戦う事が出来るなんて──

     地方大会でこれ程海香と打ち合える人間がどれ程居るだろうか。恐らく、試合になるのは二十人にも満たないだろう。しかしそれを、卓球経験の少ない中でいとも簡単にやってのけるのは、センスのなせる技か。

    【5-3】

    ──こちらは甘芽中ベンチ。

    「楓ちゃん頑張っとるなー。えらいで」
    「今のところは、っすけどね。あの子は気分屋っすから。あれ程の才能を持ちながら、練習嫌い。勿体ない話っすよ。あの子が本気で卓球と向き合ったら、一体どれ程の選手になるんすかね」
    「ほんまそれやで。楓ちゃんはなんで卓球やってるんやろなぁ?」


     ■■■■■■
    

    遊佐楓が本格的に卓球を始めたのは、中学に上がってからだった。
    しかし全くの素人というわけでもない。楓は、子供の頃より姉の凪咲の遊び相手として卓球に触れて来た。

    遊佐家は四兄弟という今時では珍しく大家族である。 
    長女に凪咲が居て、その下に楓、翔太、純也と続く。
    卓球クラブのやっている体育館まで送り迎えをしなければならない母は、まだ幼い下の子達を家に置いていくことはできない為、体育館に四人まとめて連れて来ていた。
    小さな子供達もまた、遊び盛りということで、邪魔にならない程度に体育館を駆け回り、遊び場所としてはもってこいだった。

    「楓、ちょっと相手してよ」
    「えー。嫌だよ。卓球なんて面白くないもん」

    体育館に来ているというのに、漫画に顔を向けたまま、凪咲に返事をした楓(当時小学六年生)。
    彼女にとって卓球とは、その程度のものでしか無かった。

    「相手してくれたら五十円あげる」

    その言葉に楓の耳がピクリと動くと、畳み掛けるように凪咲はこう続ける。

    「勝てたら更に百円あげる」

   楓の耳はその言葉を聞き逃さない。
   大家族故に、楓達兄弟の一人当たりのお小遣いは、他の家庭に比べて少なかった。

    「お姉ちゃん、後悔するよ?」
    「よしきた、さぁかかって来なさい」

    こうして度々この姉妹は一緒に卓球をする事になる。
    ある時は宿題を、またある時はおやつを賭けて──

    各大会でタイトルを総なめにした凪咲相手に、未経験で歳も二つ下の楓が勝つ事は無い。
    それでも凪咲は、楓と台を挟んで向かい合うのが好きだった。

   姉の真似をして覚えた卓球。時折見せる、その卓球センスには眼を見張るものがあり、ヒヤリとさせられる場面も少なくない。

    「あー負けたぁ。もうやめる」

     拗ねる楓に、凪咲はその都度アドバイスを送った。楓が強くなれば、凪咲もまた楽しいのだ。

    そんなある日──

    漫画やアニメが大好きな楓には、今どうしても欲しい物があった。

    「ねーおかあさん。私も携帯欲しい」

    携帯さえあれば、漫画やアニメも月々のお小遣いで見放題なのは、小学六年生の楓でもある知識だ。
    しかし母は、家庭の事情もありその要求を飲む事は無い。

    「えーいいじゃん。お姉ちゃんは持ってるのに、なんで楓はダメなの?」
    
    母の言い分はこうだった。
    "凪咲は部活で結果を出して、色々電話でのやり取りも増えて大変だから。"だそうだ。

    その言葉を聞いた時、楓は思った。
    ならば、私も卓球で活躍して携帯電話を買ってもらおう──と。

     楓にとって卓球とは実に簡単なものだった。練習しなくてもその辺の子供達よりも出来たし、すごいと言われる姉からも得点を奪うことも出来た。少しやればすぐに携帯が手に入る。
    そんな甘い考えだった。

    楓が卓球をやる理由。
    それは『物欲』である──


    ■■■■■■


    試合は第一セットの終盤。
    どちらが強いのか、が数字となって現れ始めていた。

    【10-6】

    念珠崎ベンチも、この結果を受けてまずは一安心といったところである。

    「桜先輩、この試合どうなると思いますか?」
    「遊佐楓。確かに才能を感じさせる選手だね。だけど、今の海香が負ける事は無いかな」
    「そんな断言しちゃうほどですか?    あのカウンターとか、連続で決まったらまだまだわからないですよ?」
    「んー。確かに才能は感じるけど、私には感じないかな」
    「何がですか?」
    「『可能性』──、かな」

    【11-6】

    原海香、危なげなく第一セットを先取。
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