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第三章 【誓】
王道
しおりを挟む試合が始まると同時に仕掛けた乃百合。下手な駆け引きを挑むより、真正面からぶつかりに行く、実に彼女らしい選択肢。
序盤は様子見とばかりに、不用意に放った池花のドライブに合わせ、まるで閃光が走ったかのような乃百合のライジングドライブ──
【1-0】
──────ッッ
その一撃に会場は一気に湧き上がった。
王者の大将相手に、気持ちいい程に打ち込まれた白球。
宣戦布告としては十分すぎるほどのインパクト──
そんな闘志溢れる打球に池花華は、信じられないといった様子で動きを止めた。
──本当に半年前と同一人物なのか──
その後も立て続けに攻め立てる乃百合の前に、池花華は防戦を強いられた。
誰よりも早く、前に、速い打球を──
これぞ前陣速攻。
攻撃は最大の防御と言わんばかりの攻め一辺倒の気迫の前陣。
【4-2】
■■■■■■
── 池花華、中学一年生の夏──
池花華は一人苦しんでいた。
練習をしていてもどこか元気が無く、これまでは負けることの無かった様な相手にもセットを許すシーンも目立つ。
次期エースと言われ、期待を一心に背負い、さあここから! と言った所でこのスランプである。
それをみかねた水沢夏が、練習終わりに池花華を訪ね、話を聞いてみる事にした。
「華っち、どうしたんすか? 元気無いっすよ」
「なっちさん……やっぱり分かっちゃいますか?」
「そりゃそうっすよ、普段通りやってる様に見えても、明らかに他のメンバーにやられてるっすよ。こんなもんじゃない筈なんすけどね」
「なっちさんが私の事を評価してくれるの嬉しいんですけど……私はそんなに優秀な選手じゃないです」
俯きかげんに下を向き、池花華は言葉を続けた。
「私は三歳の時から卓球やってて、その貯金で今まで成果を上げてきただけなんです。体はどんどん追い抜かれていくし、技術だって差が縮まる一方で。
正直に言うと、私……逃げて来たんです」
「──、どういう意味っすか?」
「関東ではこれ以上活躍が出来ないと感じて、山形に逃げて来たんです。ここならまだやれる、活躍できるって。でも甘くなかった。舐めてたんです。
私の卓球じゃあ、そろそろ通用しない。伸び代が無いんです。三歳からやってるのに、情けないですよね……初めから無かったんですよ……才能なんて」
溜め込んだ思いを吐き出すかのように、次々とネガティブな言葉を並べた池花華に対し、水沢夏はすぐさま二つの答えを用意した。
「華っちの卓球を見た人は、大体口を揃えてこう言うっす『教科書通りのお手本の様な卓球』て。
それは絶対的にいい事なのは間違い無い事っすけど、教科書通りって事は、勉強した者には答えが解るって事っすね。百点解答も夢じゃ無いっす。
あくまで例え話っすけど、華っちの卓球はそういう卓球っす。じゃあどうするか──
一つは中学の教科書じゃなく、まだ殆どの人が解けない、高校の教科書を使うってやり方っす」
「ワンランク上の教科書……」
「そうっす。そしてもう一つは、良い子を辞めてみるってのはどうっすか?」
「良い子、ですか? 真面目とは言われますけど、特別良い子って訳じゃ無いですよ」
「いやいや、華っちはいい子過ぎるんすよ。どうせ青春全部卓球に注ぎ込むつもりだったんじゃ無いんすか? 悪い事もしない、イタズラもしない、冗談も言わない。そんなんだから息詰まるんすよ。まぁどうせ私生活ではやらないと思うっすから、たまには卓球でガス抜きが必要なんじゃ無いっすか?」
「卓球で……」
「私の場合はコレっすけど」
「粒高ラバー、ですか」
「なんとか勝ちたくて使い始めたんすけど、最初は打球感の悪さに気持ち悪かったんすけど、相手の嫌そうな顔を見るのが堪らなく快感になっちゃったんすよねぇ……今じゃコレじゃなきゃダメってくらいハマっちゃったてわけっす。だから、華っちも思い切ってモデルチェンジしてみるって事っすよ。
──ま、長々と話したんすけど、纏めると、王道を極めるか、少し逸れるのか。って岐路に立っているんじゃ無いんすかね。今一度、自分としっかり向き合う事っすね」
「王道…………私は────」
■■■■■■
第一セット終盤。
火の出るような打球を、オールフォアハンドで叩き込むのは常葉乃百合。
回り込んででも、得意で且つ威力のあるフォアハンドで相手に勝負を挑んでいた。
対する池花華は、真ん中でどっしりと構え、ラケットの裏表を巧みに操り、両ハンドで乃百合の打球に対応する。
水面に浮かぶ花の様に、安定感の中にも美しさを感じさせる、その卓球技術。
乃百合の様な派手さは無いが、無駄の無い実に理に適った合理的な卓球──
あの日、池花華はワンランク上の王道を目指した。
揺さぶりにも強く、その場からほぼ動かずとも最適解のレシーブで崩れる様子は無い。
【7-9】
そして攻めに出てみても、緩急、回転、ドライブにスマッシュとどんな体勢からでも自由自在に攻めてくる。
【7ー10】
まさに盤石の試合運び。
弱点らしい弱点も無く、完全無欠の強固な要塞。この攻めと守りをもってして、池花華は乃百合を迎え撃つ。
【7-11】
第一セットはそのまま池花華が制した。
緊迫した試合が終わると同時に、念珠崎、甘芽共に全員が同じ気持ちを抱いていた。
『この試合いける!』
──────と。
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