インフルエンス・ワールド

風浦らの

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第二章【闇の中の光】

グリード

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    「それで、これからどこに向かおうっての?    まさか宛もなく彷徨うってわけじゃないんだろ?」
    「それなら出発前に三人で話し合って決めている。とりあえず【ラフル】に向かおうと思っている」
    「ラフル、か。まぁ無難な選択だな。ゼルプスト一大きな町なら、何か手がかりが見つかるかも知れないしな。それにあそこには光度の高いカラクターが集まってる。他の場所に比べれば安全だろうよ」
    「そうだね。それと良くも悪くも、世界の現状を知るうえでラフルを一度見ておく必要があるね。ラフルの人々を見れば燕の心も推し量りやすい。逆に壊滅状態なら…………」

    こんな世界だ。嫌な事も脳裏によぎる。

    「ま、行ってみない事にはなんとも、だな…………」
    「そういうことだね…………」

    沈んだ空気を変えるように、グリードはノイに新たな話題を振った。

   「そういえば、誰も話題に出さないけどずっと気になってた事があるんだ。その、マスターのカラクトカラーについてだ。パールホワイトの特性と、あのシークレット・ストーリアっていう能力…………あれはなんだ?」
    「パールホワイトの特性はまだ、分からない。シークレット・ストーリアについては、パティークが『奇跡を呼ぶ力』と言っていたが、私はそんな単純なものでは無いと思っているよ。もしも本当に奇跡を呼ぶ力だったとしたら、あの時あんな結果になっていなかったと思うんだ。これはあくまで仮説なんだけど、シークレット・ストーリアは───────」

    ノイ話の途中だったが、一転、話を続ける状況ではなくなった。それは突然の出来事だった。
    並んで歩く四人の足元が地割れのように崩れ、地面が大きく陥没すると同時に、四人は大きく上へと押し上げられた。

    バランスを崩しながらも危険を察知したグリードとノイはその場を離脱し、パティークも徳に手を引かれ難を逃れた。

    直後、地面から大きな魚が飛び出してきて、四人の周りをグルグルと周りだした。
    その魚はまるで水中を泳いでいるかのように空中を駆け回り、捕食対象の隙を伺っている。

    四人が異変に気づくのが少しでも遅れていたならば、まとめて食われていた事だろう────

    「な、なんだ……この魚……鮫……?」
    「『陸鮫りくざめ』だよ。とても獰猛で危険視されている生物だよ。しかもこんなに群れで…………これもゼルプスト崩壊の弊害なのかもね…………」

    気づけば周りは陸鮫の群れに取り囲まれていた。
    あの大きな口にズラリと並んだ鋭い歯で噛みつかれようものなら、ひとたまりもない事は明らかだ。

    「まずいな……煌闇のカラクター達だけに気を取られていた。警戒すべきはそれだけじゃなかった」
    「どうする!?」
    「グリード、君が居てくれて良かった」

    ノイはグリードの肩をポンと叩くと、頼んだとばかりに声をかけた。

    「お、俺っち!?   俺っちの能力は戦闘向きじゃないの知ってるだろ!?」
    「この状況じゃあ逃げるのは不可能だよ。なら戦うしかない。そして今、能力が使えるのはグリード、君だけなんだ」
    「そ、そんなこと言ったってよ…………」
    「大丈夫、君は天才だからね。私は信じてるよ───、来るぞっ!」

    ノイはグリードの事を高く評価している。そして信頼している────

    それでも、これまで能力を使った戦闘経験の無いグリードにとって、荷が重いシュチュエーションな事には変わりない。だからと言って、このまま黙って陸鮫に食われるのを待つのもゴメンである。

    「────くっそ、やってやりゃぁ!
    【召喚調理サモン・クック】────ッ!!」

    グリードの能力発動と同時に、どこからともなく大量の白い粉が降ってきて、辺り一面白い粉煙に包まれた。
    
    グリードの能力、サモン・クックは料理をするにあたって必要な物を自由に出現させることができる力だ。
    これはブラティポと同じ召喚系の能力。これらは、この特殊能力が当たり前のゼルプストにおいても、希少価値が高い能力に分類されている。

    「小麦粉の煙幕か!    よし今のうちに逃げよう!   みんな逸れないように手を繋いで!」

    四人は一瞬の隙をつき陸鮫の間を縫うようにその場から逃げ出した─────が……

    「うわああ!    来てる来てるぅ!    グリードッ!   来てるってぇ!」

    最後尾だった徳は、自分のすぐ後ろまで陸鮫が近づいて来てるのがわかったため、大慌てで助けを求めた。

    「コイツら見えてるのか!?」
    「陸鮫は元々嗅覚で狩りをする生き物だからね、この位の煙幕じゃ振り切るのは難しいかもしれない」
    「そういうことは先に言え!   
    だったら、くらえ────ッ!!」

    グリードのかざした手から茶色い液体が飛び出し、陸鮫目掛けて降りかかった。
    その液体を浴びた陸鮫は、断末魔のような鳴き声をあげ、地面に落ち、まるで陸にあげられた魚のようにピチピチ跳ね回っている。

    「見たか!    グリード特性、激臭ナンプラーだ!    嗅覚の鋭いお前らにはキツイだろうよ!」
    「よくやったグリード、とりあえずここを離れよう」

    四人はこのチャンスを活かし、陸鮫の群れから遠く離れた場所まで全力で逃げた──────


 
   「はぁはぁ……ここまで来れば大丈夫だろう」
    「助かったグリード、礼を言おう。ただダサかったけどな。もっとカッコよく決められんのか?」
    「うるせ、これでも俺っちは必死なんだよ!」

    パティークが冗談半分にグリードをからかうと、さっきまで死と隣り合わせだった四人に笑いが起きた。

    「でも本当にグリードが来てくれて頼もしいよ。私が見込んだとおり、君は大したやつだね」
    「元ブライテスト・ストーン持ちのノイ様にそう言って貰えるなんて光栄なこった。でも、それは買い被りってもんだ。こんなチンケな能力じゃ戦闘では役にたちそうもないって。俺っちは身の危険を感じたら、真っ先に逃げさせてもらうからな!」

   グリードはそう言っているが、ノイのグリードに対する信頼は厚い。
   グリードの発想力や応用力には、確かに目を見張るものがあるからだ。

    「まあそう言わない。あと、自分の事を過小評価しない、だよ」
    「──えっ……」

    知恵のストーンを持つノイをして「頭が切れる」と言わしめる異才────
    それがグリード。
    
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