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第一章【屈折と輝きの姫】
こんな事をする為にゲームを……
しおりを挟む「それでは、いつまでもこんな所に居るのもなんだし帰るとするか。ちゃんと着いてくるんだぞ」
「う、うん」
言う通り、ここに居てもなんの意味もない。ヤエを先頭に、二人はもと来た道を歩き始めた。
時折モンスターが飛び出して来るも、ヤエはモンスターの姿を確認する間もなく杖を一振で払い除けた。
文字通りレベルが違う。
「そう言えば少年、名前は何と言うのだ?」
「あ、そうか。名前……僕の名前は【赤月 忍】」
「なるほど。では忍と呼ばせてもらおう。私の事はヤエと読んでくれて構わない。長い付き合いになるだろうから、これから宜しく頼む」
「う、うん。宜しく、ヤエ」
軽い挨拶を済ませると再びヤエは歩き出した。モンスターの群れを魔法で飲み込み突き進む。
気づけば忍のレベルは一気に2レベル上がって29。あれだけ苦労していたレベリングが嘘のようである。
「す、凄い……こんな簡単にレベルが……!」
「これがキャリーのいい所だ。私はいつももっと高レベル帯でキャリーして貰っている」
気持ちいいくらいにレベルが上がる。
ダンジョンを出る時、忍のレベルは30に到達した。
「30……レベル!」
「まあ、このダンジョンの推奨レベルは35だからな。当然だ。忍も私の右腕になるのなら、もっとレベルを上げてもらわなければ困る。一撃で死なれては守るに守れないからな」
「う、うん」
ヤエと忍はその足で近くの街【トランブル】に向かった。
この街は店やイベントが多く、たくさんの人が集まる事で有名な街だ。
ちょうどこの期間もイベントが行われており、イベント上位に食込み報酬を得ようと街中を走り回っている者も少なくない。
「さてと。私は今から少し寝るとしよう」
「あれ? ヤエはイベントやらないの? 今回の報酬結構美味しいと思うんだけど…………」
「何を言っている。やるに決まってるだろ」
「いやだって、今から寝るって…………」
「ふぅ。言わなきゃ分からんのか? なら言ってやる。今から私は確かに寝るが、ログアウトはしない。その間、忍、お前が私をキャリーしてくれ。今度はお前の番だ」
「────えっ?」
「大丈夫。PKエリア設定はオフにしてあるし、このイベントは時間さえあれば無課金者でも上位に食い込める内容だからな。じゃああとは頼んだぞ」
「はあぁ!? ────えっ、いや、ちょ、ま…………」
それっきりヤエはスンッとし、自動追尾モードに入った。
ここに存在はしているが中身の入っていない状態である。忍が歩けばちゃんと着いてくるが、まるで人形の様な歩き方で、当然話しかけてもなんの返事も無い。
「ふ…………ふざけんなっ!
───────とは言え、やるしかない。命を救われキャリーまでしてもらったんだ。弱く無課金の僕にはこれくらいしか出来ることは無いしな…………ちくしょう…………」
このイベントは唯ひたすらに材料を拾い集め、調合するといったシンプルなイベントで、その数によってランキングが形成され順位に応じて景品が貰えるといったものである。
要は、時間と根気がものを言うイベント。
「まずは材料集め、だな。というか、このイベント、ペアでやる事も出来るんだな……今まで誰とも関わって来なかったから気にもとめなかったな」
イベント【王に捧げる花冠】は、街の原っぱで花を摘み、工場でワイヤー、雑貨屋でテープを買い付けそれを合成するというもの。一日中出来るわけでは無く、それが出来るのは20時から26時の6時間だけ。現時刻が20時30なので、すぐにでも取りかからないとロスになる。
既に30分遅れている為、忍は作業に取りかかった。
こんなことして何が楽しいかと言われれば終わりな単純作業を黙々と繰り返した。
花を摘み、ワイヤーを拾い集め、テープを買い付けるだけの単純作業…………
花を摘み、ワイヤーを拾い集め、テープを買い付ける。
花を摘み────
ワイヤーを拾い────
テープを買う────
花を……ワイヤーを……テープを…………
永遠と繰り返した6時間。
まるで内職でもしていたかのような6時間だ。忍は実に1/4日をこの作業に費やした。
そして次の日の朝────
忍がログインすると目の前にはヤエが立っていた。
「来たか。昨日はご苦労だったな。これから学校か? 日中はレベリングしてやるから、追尾モードにしておくといい」
「あ、うん。結構頑張ったから、なんとか上位に居るはずだよ」
忍は学生という事もあり、平日の朝は早い。昨日はなんだかんだ寝たのが3時前で睡眠時間は4時間だった為、ややテンションが低めだった。
携帯ゲームと違い、VRゲームであるこのゲームは外出先のプレイには向かない。出先でコツコツやる、という事は難しいのだ。
そのため忍はヤエの言うように、ゲームにログインしたまま学校に行く事にした。
そして再び夜がやって来る────
「忍、今日も頼む。私は今から少し寝る」
「今日も…………? うん、わかった。おやすみ」
「不服か? お前の物は私の物なのだ。当然だろう。変わりにレベリングを手伝っているのだ、そう文句をたれるな」
「別に……文句だなんて…………やるって言ってるだろ」
この日、忍は言われるがままにヤエをキャリーした。
面白くもない単純作業を黙々と─────
次の日も、またその次の日も。花を摘み、ワイヤーを拾い、テープを買い付け…………
「僕は一体……何をしているんだろう……?」
そうしてやってきた4日目の朝、事件は起きた。
「────忍、昨日はどうした? 少し成果が悪いようだが?」
その問いかけに忍は俯いたまま返事をしなかったので、ヤエは再びこう問うた。
「体調でも悪いのか?」
「…………もう…………だ…………」
「なんだ? はっきり言ってみろ」
だから忍は顔を上げハッキリと答えた。溜まりに溜まった疲労とストレスを吐き出すが如く─────
「もううんざりなんだよ! 毎日毎日毎日毎日、同じ作業の繰り返しっ! こんなのの何が楽しい!? これがMMOか!? 何がギブアンドテイクだ! 単調なイベントを押し付けて、自分は気ままにレベリング!? ふざけんなっ!!」
急に忍が勢いよく喋りだしたため、ヤエは少々驚いた様子を見せたが、直ぐにいつもの調子で言葉を返した。
「私が忍をレベリングする。忍がイベントで私を助ける。これの何が不満なのだ? ウィンウィンの関係を築けてるでは無いか」
「…………最初から…………最初からこうするつもりで僕を助けたのか……? 最初から僕を利用するつもりで話しかけたのかっ! 調子のいい事ばかり言いやがって! 結局自分に都合のいい人間が欲しかっただけじゃないのか!」
この日の忍は引き下がらなかった。黙々と続ける作業の中で心が壊れ、頭に浮かんだ言葉は、とめどなく口から吐きでた。
「利用する、か。言い方を変えればそうなるのかも知れんな。私を【識別】した時に見たはずだ。私の一言コメントは『お前の物は私の物』。この言葉に偽りは無い。私は人を利用してのし上がろうとしている。だが────」
「ふざけんなよ……! 僕はこんな事をしたくてゲームをやっているんじゃないっ!」
「では聞こう。忍、お前はなんのためにゲームをやっているのだ? 無課金者が努力なくしてどうやって強くなるというのだ?」
「僕は────、少なくともお前のように人を物みたいに扱う様な生き方だけはしないっ! それがたとえゲームであっても、だっ!!」
熱く言葉を投げかけた後、忍はヤエに背を向けた。
「もう、十分だろ? ポイントは溜まった。ここから自分で頑張れば、上位に食い込めるだろうよ。今日限りにしよう。僕は僕のやり方で強くなる─────じゃあな。さようなら」
「ま、待てっ! 忍っ!」
ヤエの伸ばした手も虚しく、忍の姿はどんどんと小さくなっていってしまった…………
二人の間には大きな溝ができ、それを埋める間もなく引かさかれた────
運命の出会いから、僅か4日目での出来事だった。
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