輝け!姫プリズム!!

風浦らの

文字の大きさ
9 / 18
第一章【屈折と輝きの姫】

無課金者と課金者は対等

しおりを挟む

    本当のところはどうかは分からないが、ヤエと羽譜美の関係はバチバチだった。それは向き合った二人がぶつけ合う視線を見れば分かる。

    「姫プの八重歯、今日こそ負けないわ!    どんな汚い手を使って登ってきたか知らないけど、例え連れが居なくとも、装備が無くとも、無課金者であるあんたに単純バトルでこの私が負けるはずがないもの!」
    「これまで全敗してきた事は認めるんだな。意外と可愛い所があるではないか。いいだろう。そこまで言うなら試してやろう。丸腰のお前とフル装備の私、どちらが強いのかここで証明しようではないか」

    測ったようにジリジリと間を詰めていく二人。その様子は草原で出くわした蛇とマングース。
    味方であるはずのヤエが蛇役というのもおかしな話だが…………

    「いい気にならないでよね!    無課金者なんてこの世界の養分でしかないんだから!    課金者の後ろを付いて回って、甘い汁を啜り続けるあんたになんて、絶対に負けないんだから!」
    「バブミ、お前は一つ大きな勘違いをしている。課金者と無課金者は対等の存在だ」
    「はぁ?    何言ってるの?     運営に金を落とさない無課金者が、課金者様と対等な訳無いでしょ!?    そんなのちょっと考えればわかる話じゃない。時間あげるからポクポクタイムしてみたら?」

    「…………?     ポクポクタイムとは考える時間と言う事か?    ならば必要は無い。私の考えは既に纏まっているからな。馬鹿でもわかるように説明してやろう。
     そうだな──、例えばこの世界から無課金者が居なくなったとしたらどうだ?     まず微課金者がマウントを取る相手が居なくなる。そうすると、圧倒的に課金というアドバンテージが減るな。そうして旨味をなくした微課金者達が次第に居なくなる。次も同じだ。微課金者が居なくなれば、課金者が居なくなり、課金者が居なくなれば廃課金者が──、そうやって下から崩れていく未来が待っている。
    つまり、このゲームを支えているのは、ピラミッドの最底辺にして最大数を誇る無課金者なのだ!
    だから無課金者は廃課金者と同等。その存在自体に差などないのだ────!」

    ヤエの熱弁を聞いても全くピンと来ていない様子の羽譜美は、大きな欠伸をし口に手を当てた。

    「長い!    いちいち長いのよね!    あんたの話は……スヤスヤタイムに突入しちゃう所だったわ!
    そういうのはいいのよ。課金者の私が無課金者のあんたに完膚無きまでに勝つ、今はそれが大事なのよ!    まどろっこしいことは抜きにして、分かりやすくバトルで勝負よ!」
    「そんな事だから毎回私に負けるのだ。その2000万円が泣いているぞ……まあ、いいだろう。バトルでお前を倒せば私の名声も上がると言うもの────」

    丸腰で初期コスチュームの羽譜美はまるでNPCのようだ。だが、そこから繰り出される右手に纏った炎は、熱く気高き炎!    通常プレイヤーが扱う炎とは全くの別物────!

    しばしの沈黙の後、二人は息を合わせたように同時にスキルを発動させる!
    
    「スキル【爆炎】タイムーーっ!」
    「スキル【グランドクロス】」

    内側から爆発するような炎と、D・ハスキーを一刺しにしたヤエの光の十字架が二人の真ん中辺りでぶつかり合った!

    瞬間的に目の眩むような光と肌を焦がすような爆風が巻き起こると、思わず目を瞑った忍の足元に瓦礫が転がってきた。

    「ぷげっぷ……!」

    それは瓦礫では無くヤエだった。
    足元で転がり焼けた膝をフーフーしながら涙目になっているヤエを見て、忍は正直可愛いと思ってしまった。

    「だ……大丈夫……ヤエ?」
    「なにを笑ってるのだ!?    お前なら死んでたぞ!    それ程の威力だ!   まさか丸腰でこれ程とは…………」

    焦った様子を見た忍は更に可笑しくなったが、確かに今の炎は桁外れだった。ヤエのスキルとぶつかり合って尚あの威力なのだから────

    「きゅふふふふ!    あったりまえじゃない!   私とあんたじゃ基本ステータスが違いすぎるもん!
    レベル・カンスト、スキルレベル・カンスト、ボーナスステータス・カンスト!
    武器が無くても、私には2000万という揺るぎないバックボーンがあるのよ!    負けるはずがないわ!」
    「くぅ……ならば私は、もう一つ武器を使わせてもらおう……」
     「もう一つの武器?」

    ヤエは酒呑王子を子犬のような目で見つめた。
    胸を締め付けるような哀愁漂うその瞳は、言葉無くしても酒呑王子の心をグッと掴んで離さない。

    「王子ぃ……」
    「やれやれ、わかったよ。僕の出番だね。初めからそうすれば良かったのに」

    ヤエの武器、それは人脈。
    幾ら羽譜美が強かろうと、この酒呑王子相手ではどうか────

    「武器って女の武器じゃないっ!    ああ……イライラタイムが発動しそう!
    まあいいわ。酒呑王子ね。不足は無いわっ!    ここで圧倒的力の差を見せつけて、世界に名を轟かせてやるんだから!」
     「丸腰の女の子相手じゃ気が引けるけど、我らが姫様のご命令なんでね。悪く思わないでね」

    1300万VS2021万のランカー対決が始まった!

    これに巻き込まれれば並のプレイヤーなら一瞬にして消し飛ぶ事だろう。
    事実、二人のぶつかり合ったその衝撃だけで、忍の体がはね飛ばされそうだった。

    勝負のゆくへは──、全くの五分と五分。
    酒呑王子が勝つ可能性もあるが、負ける可能性も存分にあった。

    「僕が抑えている間に上の階へ進むんだ!」

    酒呑王子のその言葉に、忍とヤエは本来の目的を思い出した。

    「よく聞くんだ張り紙さん!    排除される邪魔者はこの僕だ!!    上の階にはこの2人が進む!    さあ道を開け!」

    戦いながら張り紙に訴えかける酒呑王子に、忍の心が動いた。

    「ヤエ、行こう!」
    「そうだな。私達には私達の役目があったんだったな」

    先に進もうとした忍とヤエに、突如見たこともないような炎の龍が襲いかかってきた。先に進むのを阻止しようとした羽譜美が放った龍だ。

    「行かせないわっ!」

    それを間一髪の所で酒呑王子が輝く剣で受け止めると、酒呑王子は瞬く間に激しい炎に飲み込まれた!

    「ぐああ……!」
    「王子さん……!」

    酒呑王子は炎に飲まれながらも、片手で大丈夫とアピールし、2人に早く行けと促した。

    「行くぞ、忍!」
    「う、うん!」

    忍とヤエの前の時空が歪みエレベーターが現れると、2人は急いでそれに乗り込んだ。

    扉が閉まると同時にゆっくりと上昇を始めたエレベーター。
    酒呑王子に足止めを食らった羽譜美が、実に悔しそうな顔をしていたのが最後に見えた────

    これまでと違い、ゆっくり上昇していくエレベーター。まるでラスボス前に始まるゲームの演出のように、ゆっくり、ゆっくりと登っていく…………

    その緊張と沈黙の続く重苦しい空間で、唐突にヤエが口を開いた。

    「────忍、お前は私のことをどう思う?」
    「え…………?   なに……急にどうしたの……」
     「これまで見てきた通りだ。私は誰にでもいい顔をする。媚びて、取り入り、利用する。時には物のように扱い、切り捨てる。いい印象なわけが無いのは自分でも分かっている。
    私が巷でなんて言われているか知っているか?   
    ─────、私は影で【非女ひめ】と呼ばれている。非情の『非』に『女』と書いて非女だ。勘違いした困った女を指すゲーム用語なんだが、中々上手い蔑称べっしょうだろ?
    だが私はそれでもこのやり方を貫くつもりだ。たとえ誰がなんと言おうとだ。私には目的があるからな。
     しかし、ある時ふと気になってしまうのだ。仲間に……お前にどう思われているのか……とな。笑ってしまうだろ?」

    目を合わせることなく話すヤエの横顔は、いつもの自信に満ち溢れた顔ではなく、どこか人間味が溢れていたが実に切なそうだった。

 「僕は…………」
    「ハッキリ言ってくれて構わない」
    「嫌…………じゃない、かな?    うん、改めて聞かれると、僕の答えは『嫌じゃない』だ。そりゃ初めは色々思う所も多々あったけど、なんて言うか……それだけ本気なんだなって思う。真剣に向き合って目的に向かう姿に、なんかよくわかんないんだけど……応援したくなるかな?    はははっ。何言ってんだろ僕。とにかく嫌じゃないよ。嫌だったらとっくに距離を置いてるよ」

    忍の答えにヤエはただ一言「そうか」と答えたきり、エレベーターの行く末を見るように上を向いたまま口を閉ざした。

    そして暫くするとエレベーターはゆっくりと止まり、扉が開かれた。

    そこは塔の頂上部分で、屋根はあるものの壁が吹き抜けになっており、いつの間にやら外は暗く夜になっていた。

     その部屋の中央に祭壇らしきものがあり、月が照らし出されキラキラと輝く『宝箱』が威光を放ちながら置かれていた。

    その宝箱の傍に、これまで同様に張り紙が置かれてあった為、まずは忍がその貼り紙を読んだ。

    『二人の勇者よ。よくぞここまで辿り着いた。これが最後の試練だ。この宝箱の中にはイベント限定の強力なMRミラクルレア装備が入っている。だが手に入れる事が出来るのは一人だけ。どちらがこの貴重な装備を手に入れるか決めるのだ。さあ、略奪の時だ』(原文ママ)

    「なるほどな。ここまで協力させておいて、最後は奪い合わせるか。中々ゲスい運営だな。だが生憎我々はこの装備を手に入れるのは誰か、初めから決まっている」
    「うん」
    「忍、この装備をお前にやろう」
    「─────え?」

    
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...