舜国仙女伝

チーズマニア

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秀女選抜①

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栄洛寺で修行した時よりも遥かにうまく風を巻き起こし、寧世宮に入ってきた英文を吹き飛ばしたことにより、木蓮は溜飲を下げた。


「周瑛めっちゃ元気だったんだけど。何であんなしょうもない嘘ついたのよ」

「面白いことになるかと思ってな」


真顔でそう答える英文をもう一度、今度はさらに激しく飛ばそうと、木蓮は氣を練りはじめた。

吹き飛ばされてしたたかに背中を打った英文は、木蓮の顔を見て慌てて話題をそらした。


「第一仙の術は粗削りだが不自由なく使えるようだな。では明日はよろしく頼むぞ」


帰り際、これからは迂闊に近づけぬな、と英文が王苒にこぼすのを木蓮の耳はしっかり拾っていた。


(なんなのよ!面白いことになるって!!)


人を玩具扱いするなと怒りながら自室に戻った木蓮だが、莞莞の顔を見た途端に怒りは和らいだ。

自分より何歳も年下の女の子の前で機嫌が悪い姿を見せたくないという自制心が強く働いたため、一日の終わりには、木蓮は機嫌が悪かったことすら忘れていた。




久しぶりに朝寝坊をし、優雅に遅めの朝食を摂りながら身支度を整え、正午になる前に木蓮は莞莞を従えて寧世宮を出た。

いつもは髪をポニーテールやフィッシュボーンにしているが、公式の場に出る今日は莞莞と同じように両把頭にしている。

造花や簪でずっしりと重くなった頭が鬱陶しく、英文が普段執務を行い、今日の秀女選抜の会場である継承殿に着く頃には、若干首が痛くなっていた。

大広間には皇太后、皇帝、皇后の玉座があり、皇后の玉座の後ろに徐貴妃の席がある。

既に英文と千李は着席していた。


「来たか。木蓮、お前の席はここだ」


英文が手を叩き、皇帝と皇后の玉座の間のやや後ろに椅子を設置するよう、太監に命じた。

座ってみると、ちょうど英文と千李の間にいるためしっかりと参加者の顔が見られる。


「木蓮、今日の秀女選抜で何か意見がある時は遠慮せずに仰い。わたくしもあなたを頼りにしているわ」

「は、はい……」


たおやかに微笑む千李は今日も王者らしい風格があるが、身に纏う青白い氣が気になり、木蓮は曖昧に笑った。

とても殺人の罪を犯すようには見えない彼女だが、一体何があったのか。

考え込みそうになったその時、王苒が徐貴妃、鈴麗りんれいの到着を告げた。

初めて寧世宮に来た時とは違い、今日の鈴麗は侍女を一人だけにしている。

瞳の色と揃いの鮮やかな緑色の旗袍に、純金の歩揺と琥珀の簪を合わせた、豪奢な出で立ちである。

木蓮の姿を見つけるなり眉間に皺を刻んだが、すぐに無視し、英文と千李に跪いた。


「皇帝陛下、皇后娘娘こうごうにゃんにゃん……そして仙女様にご挨拶申し上げます」


途中で不自然な間があったものの、恙無く挨拶を終えた鈴麗は席についた。

程なくして、王苒が皇太后の到着を告げる。

会場にサッと緊張が走ったのを感じ、木蓮も身を固くした。


(英文の命を狙うお母さん……どんな人なんだろう)


薄紫色の旗袍を着た貴婦人が、侍女の手を借りてゆったりと入室してくる。

跪く必要がない木蓮は、じっくりと皇太后を観察した。

まだ二十代と言っても通じるほど若々しく、肌には張りがあり、小さな顔にはすべてのパーツがバランス良く配置されている。

ただその目はどこか翳りを孕んでおり、憂いを帯びた表情がどこか艶かしい。

舜において皇族のみが着用を許されているの貴色の紫が、この上なく似合う女性だ。


「そこの女人にょにんが仙女か?」


発せられた声は高く可憐で、若い容貌にぴったりの少女めいたものである。

木蓮は小さく頷き、軽く頭を下げた。


「お初にお目にかかります。木蓮と申します」

「楽になさい。そう、陛下が仙女を召喚したという噂は本当だったのね」


めでたいこと、と寿ぎながらも皇太后の目は冷たかった。

氣を纏っているわけではないのに禍々しさを感じ、木蓮の肌が鳥肌を立てていた時、王苒が秀女選抜の開始を宣言した。

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