舜国仙女伝

チーズマニア

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予期せぬ事故

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丈が短いタンクトップのようなデザインの、エメラルドグリーンの厚手の布は、鈴麗の胸をしっかりと隠しているが、かえってその大きさを目立たせている。

剥き出しの腰周りは深いくびれがあるが、程よく肉感的であり、白く滑らかな肌は扇情的だ。

腰は細いのに尻周りが胸と同じくらいあり、スリットの入ったスカートから伸びる長い足はほどよく筋肉がついている。

普段は上品に結われている黒髪が下ろされているため、乳白色の肌との対比が美しい。

顔だけではなく、肉体までもが完璧な美しさを誇る鈴麗に、木蓮は親近感が消えるのを感じた。

代わりに生まれたのは衝撃と感動だ。


(綺麗、なんて月並みな表現しか出来ないけど、それ以外に言葉が見つからない……)


今自分が見ているのはCGではないかとすら思うが、鈴麗が近づくと薔薇の香りが漂ってくることから、これは現実だと実感する。


「皇太后娘娘が珍しい物を見たいと仰っておりましたので、本日はロワンでも中々上演されないものをご覧に入れます」


化粧も、舜国風の薄化粧ではなく、ロワン風のカラフルな化粧だ。

もともと勝ち気そうな顔ではあるが、さらにきつそうな印象に仕上がっている。


「何を披露してくれるの?」

「ジャンビーアを使った剣舞でございます」


鈴麗はJ字型に湾曲した短剣を掲げ、英文の前に進み出た。


「陛下、これで私の目元を隠してくださいませ」


片膝をつき、恭しくハチマキを差し出す鈴麗に、英文は戸惑いながらも頷いた。

英文の手が一瞬耳に触れた時、鈴麗の顔が綻んだのを木蓮は見逃さなかった。


「準備が整いました。音をください」


客間の中央でピタリと止まり、鈴麗がジャンビーアを構えた。

弦を弾くポツポツとした音に合わせて、彼女の細い腰がリズミカルに動く。

鞘から抜かれたジャンビーアが妖しく光り、鈴麗の白く滑らかな肌を照らす。

長い手足が軽妙に動き、剥き身の刀が宙に投げられた。

目隠しをした状態で正確に柄を掴み、豪快に振り回しながら鈴麗は踊る。

バカにしようと鼻白んでいた阿若や皇太后ですら息を呑み、鈴麗から目が離せなかったその時だった。

パキッと金具が割れる音がし、鈴麗の下半身を隠していた布がずり落ちた。


「きゃあああっ!!」


咄嗟に鈴麗はしゃがみこむも、あわや下半身が露出されそうになったその時、あり得ない速度で布の塊が鈴麗の体に巻きついた。

その布をはっしと掴みながら、鈴麗はその場にへたりこんだ。

ふと木蓮が左を見ると、千李の周囲だけ食器があちこちに飛び、テーブルクロスが無くなっていた。

あの一瞬で鈴麗の危機に気づき、布を投げたようだ。

こっちもこっちで人間離れしている、などと考えていると、英文が立ち上がり、鈴麗に近づいた。


「皇后よ、内務府に行き、この衣装を管理していた者を調べよ。どんな手段をつかっても構わない」

「御意」


しゃがみこんで鈴麗の目隠しを取り、英文は彼女を抱き上げた。

スカートが千切れてしまい、身動きが出来ない鈴麗は顔を真っ赤に染めながら大人しくされるがままでいる。


「徐貴妃、続きは私の宮でやってくれ」


ただそう言うだけではなく、英文は柔らかく微笑んでいた。

鈴麗は驚きたいのか喜びたいのか、よくわからない表情のまま固まっている。


「新しい小主との夜伽も済んでいないのに古女房と一夜を過ごすのですか?」


文字にすると英文の皇帝としての責務を問うような口調だが、皇太后の声はどこかどうでもよさげである。


「今私が欲しいのは徐貴妃ですから」


英文の声は温度が無いが、鈴麗の森のような緑の瞳は潤んでいる。


「皆、あとは適当に楽しむが良い」


投げ槍に言い捨て、英文は鈴麗を抱えて承福宮を出ていった。

英文がいなくなると、一斉にあちこちで会話が始まった。

呆然としている木蓮に、千李が小声で囁く。


「木蓮、今のうちに帰りなさい。事態の収拾は私がつけるわ」


頼もしいその言葉に甘え、木蓮も承福宮を出た。

帰りの輿で、ごちゃごちゃになっている頭を整理する。


(なんだか皇太后は千李に対して嫌な態度だったけど、普段からああなのかな?それとも……)


御花園で阿若を罰したせいだろうか。

スカートの金具が割れたことも皇太后が犯人に思えてしまい、木蓮は頭を振った。

確証も無いのにあれこれ考えるのは無駄だ。

寧世宮に帰ったら今見たことを莞莞に話し、意見を聞くことにし、木蓮は疲れた体を椅子に沈みこませた。

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