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暗雲③
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「莞莞は蜘蛛が苦手だって知らなかった」
都会育ちでありながら、木蓮は昆虫の類いはすべて平気である。
とりあえずどこかに逃がせば良いだろうと、箒に蜘蛛を乗せて中庭に投げたが、莞莞は不満げに頬を膨らませ、木蓮を睨んだ。
「もう!逃がすんじゃなくて殺してちょうだい!あれがいるって考えたら、しばらく中庭には行けないわ」
「ごめんごめん。田塋と西露は?」
「西露は薬草を貰いに医院に行ったわ。昨日から風邪気味だったから。田塋は西露の代わりに、洗濯機を受け取りに行っているはずよ」
「……そう」
何事もなくホッとした一方、木蓮の頭には疑問が浮かんでいた。
これまで、嫌な予感がしたことは何度となくあったが、そのだいたいが的中した。
だが、今回はその予感が外れた。
莞莞の身に災いが降りかからなかったのは何よりだが、先ほど千李の宮で感じた胸騒ぎはなんだったのかが気になる。
「お姉様、どうかなさったの?すごく怖い顔をしているけれど」
心配そうに顔を覗き込んできた莞莞に、丁胤聖について話そうとした木蓮だが、咄嗟に言葉が出なかった。
(莞莞は二人の男の欲望で人生がめちゃくちゃになったんだ。丁胤聖のことは知らなくても良いのかも。私がしっかりして、ちゃんと莞莞を守れれば良いんだし……)
過保護な自分が莞莞に余計なことを言うなと囁くが、もう一人の自分がそれを拒む。
(何も知らないで事件に巻き込まれたらどうするの?自衛するためにも、情報は与えないと)
しばらく葛藤した末、千李の宮で得た情報を与えようと口を開いたその時、足音が複数聞こえてきた。
西露と田塋が帰ってきたようだ。
「仙女様、お帰りでしたか」
「うん、ただいま。それより西露、声が凄いことになってるよ。今日は一日休んだら?」
寧世宮は他の宮よりも仕事が少ないため、一日くらいなら西露がいなくても問題はない。
薬草の入った小さな籠を抱え、今にも倒れそうな真っ青な顔でぼうっと立っている西露に、木蓮は命じた。
「そうしよう。西露は今日一日休みなさい。明日の朝まで寝て、回復しないようなら医師を呼ぼう」
「申し訳ございませぬ。ではお言葉に甘えて」
ふらつく西露の体を支えようと駆け寄った木蓮だが、田塋が洗濯かごを地面に置き、慌てて木蓮と西露の間に割って入った。
「西露殿は私が部屋までお送りします!」
「えっ、あ、はい」
有無を言わせない田塋の剣幕に気圧されて、木蓮は曖昧に頷き、西露が田塋に担がれて部屋を出ていくのを見送った。
田塋はふらつくことなくしっかりと西露を支えている。
実は彼女はけっこう力持ちであったらしい。
「もう、お姉様ったら。西露は宦官とはいえ、一応元男性よ。部屋まで運ぶのはやりすぎ」
「そうなの?この世界の倫理観、本当にわかんないなぁ」
なんだか釈然としなくて、木蓮は顔をしかめた。
都会育ちでありながら、木蓮は昆虫の類いはすべて平気である。
とりあえずどこかに逃がせば良いだろうと、箒に蜘蛛を乗せて中庭に投げたが、莞莞は不満げに頬を膨らませ、木蓮を睨んだ。
「もう!逃がすんじゃなくて殺してちょうだい!あれがいるって考えたら、しばらく中庭には行けないわ」
「ごめんごめん。田塋と西露は?」
「西露は薬草を貰いに医院に行ったわ。昨日から風邪気味だったから。田塋は西露の代わりに、洗濯機を受け取りに行っているはずよ」
「……そう」
何事もなくホッとした一方、木蓮の頭には疑問が浮かんでいた。
これまで、嫌な予感がしたことは何度となくあったが、そのだいたいが的中した。
だが、今回はその予感が外れた。
莞莞の身に災いが降りかからなかったのは何よりだが、先ほど千李の宮で感じた胸騒ぎはなんだったのかが気になる。
「お姉様、どうかなさったの?すごく怖い顔をしているけれど」
心配そうに顔を覗き込んできた莞莞に、丁胤聖について話そうとした木蓮だが、咄嗟に言葉が出なかった。
(莞莞は二人の男の欲望で人生がめちゃくちゃになったんだ。丁胤聖のことは知らなくても良いのかも。私がしっかりして、ちゃんと莞莞を守れれば良いんだし……)
過保護な自分が莞莞に余計なことを言うなと囁くが、もう一人の自分がそれを拒む。
(何も知らないで事件に巻き込まれたらどうするの?自衛するためにも、情報は与えないと)
しばらく葛藤した末、千李の宮で得た情報を与えようと口を開いたその時、足音が複数聞こえてきた。
西露と田塋が帰ってきたようだ。
「仙女様、お帰りでしたか」
「うん、ただいま。それより西露、声が凄いことになってるよ。今日は一日休んだら?」
寧世宮は他の宮よりも仕事が少ないため、一日くらいなら西露がいなくても問題はない。
薬草の入った小さな籠を抱え、今にも倒れそうな真っ青な顔でぼうっと立っている西露に、木蓮は命じた。
「そうしよう。西露は今日一日休みなさい。明日の朝まで寝て、回復しないようなら医師を呼ぼう」
「申し訳ございませぬ。ではお言葉に甘えて」
ふらつく西露の体を支えようと駆け寄った木蓮だが、田塋が洗濯かごを地面に置き、慌てて木蓮と西露の間に割って入った。
「西露殿は私が部屋までお送りします!」
「えっ、あ、はい」
有無を言わせない田塋の剣幕に気圧されて、木蓮は曖昧に頷き、西露が田塋に担がれて部屋を出ていくのを見送った。
田塋はふらつくことなくしっかりと西露を支えている。
実は彼女はけっこう力持ちであったらしい。
「もう、お姉様ったら。西露は宦官とはいえ、一応元男性よ。部屋まで運ぶのはやりすぎ」
「そうなの?この世界の倫理観、本当にわかんないなぁ」
なんだか釈然としなくて、木蓮は顔をしかめた。
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