贅沢悪女と断罪された私が、ドレスを脱いだら最強妃になりました。

専業プウタ

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4.怪しい皇太子

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ヘッドリー領地は首都から馬車で二時間掛かる。

つまり、オスカーの誕生日に首都に戻るには滞在は二日程度しかできない。
それでも、私は平民の生活を知る必要があった。

たった二日でも、アベラルド王国で一番の要所と言われる我が領地。
私の両親でさえ数える程しか足を踏み入れていない場所。

両親と愛するオスカーの反対を押し切って単身領地に赴いたのは、私たちが生きる道筋を少しでも見出したかったからだ。ドレスを脱ぎ捨て、白いシャツにパンツといった平民のような服を着る。髪を切ったせいか贅沢な雰囲気を削る事ができた。平民の中に入っていき、彼らの生活を知る必要がある。

「シェリル様、到着しました」
「ありがとう」

御者にエスコートされて降り立ったのは目を背けたくなるような見窄らしい街だった。
(ここがアベラルド王国で一番豊かな場所?)

『贅沢悪女、死ねー』
頭の間際で死の直前に受けた民衆の怒りがこだまする。


「初めましてですね。お噂通りに国を傾かせるような美しい方で驚きました」
「まだ、国は傾かせてませんわ」
領地を管理してくれているヘッドリー領地の管理者。名前はなんと言っただろうか。
「ジョエルです。以後お見知り置きを」
白髪混じりの髪をした初老と男は名乗りを上げると、面倒そうな気持ちを隠しながら領地を案内してくれる。

「ここは秋なのに暖かいのね」
「首都の南に位置してますから」

冷たく発せられる言葉に私は頷く。
この暖かい土地を活用してアベラルド王国の貧困を解消できないだろうか。
道に地べたで座っている子供たちが、石や流木を彫刻刀で掘っている。

私はその中の一人の藍色の髪の女の子に近寄った。
その子が石で掘った薔薇に私は感動する。

「凄い、貴方は天才ね。この技術はどこで習ったの?」
「誰にも習ってません。これくらいしかすることがないので」
「貴方名前は? きっと凄い芸術家になれるわ?」
私の言葉に彼女はそっと青い目を隠すように目を閉じた。

「シェリル・ヘッドリー様ですよね。オスカー王子の寵愛を一身に受けるお姫様。そんな雲の上の方に名乗る名前などありません」
冷たく突っぱねられて私は動揺した。
処刑されるまで三年近くあるのに、既に私はこの国の子供にまで拒否されている。

ジョエルが突然跪く。私は彼の目線の先にいる人を見つめた。
艶やかな黒髪にエメラルド色の瞳。

確か私と同じ年なのに、右目尻の黒子は色っぽく大人びて見える。
長子相続のバロン王国で三男坊でありながら立太子した男。
「フレデリック・バロン?」

私の発した言葉に気が付いたのか男が近付いてくる。
「フレデリック・バロンです。麗しのシェリル・ヘッドリー侯爵令嬢」
キザ過ぎる責めたくなるくらい彼は優雅に私の前に跪く。手の甲にそっと口付けし私の目を射るように見つめてくる。

「帝国の陽光フレデリック・バロン皇太子殿下にシェリル・ヘッドリーがお目にかかります」
跪かれてしまったので、私も同じように膝をついた。そんな私を見て彼がクスクスと笑い、手を取り私の体を引き上げる。

「このような偶然の出会いに格式張らないで結構ですよ。お互い自然体で接しましょう」

「それでは、遠慮なくお言葉に甘えさせて頂きます。早速ですが私の話を聞いてください」

自分でも相手が引くぐらい食い気味だった自覚はある。でも、今は藁をも掴む思いだ。贅沢悪女と断罪され絶望の死を遂げた私。刺繍、礼節、妃教育には全力を注いできたけれど、目の前の悲惨な状況をどうして良いか分からない。

フレデリック・バロンはよく知らないけれど兄を押し退けて立太子した優秀な方だ。彼からご指導ご鞭撻を受けてアベラルド王国を豊かにできないかと私は考えた。


「絶世の美女とも言われるご令嬢の頼みを断れる男などこの世に存在しません」
人差し指で私の輪郭を辿りながらフレデリックは笑った。

「まだ、十六歳なのに大人っぽいんですね。そんなに無理して背伸びしないでください。私も同じ歳です」

フレデリックが目を瞬く。私は思わず彼の目元に手を翳した。
「な、何ですか?」
少し引いたような顔をしたフレデリック。私は正直に今の気持ちを伝える。

「綺麗なエメラルドが溢れそうだったので、思わず手が出てしまいました。今、私、少しでも価値のあるものを掬い取りたいんです。このアベラルド王国を豊かにする一雫を」

私の言葉にフレデリックは口元を抑えて目を瞑った。長いまつ毛が彼のエメラルドを隠す。もっと見ていたかったのに残念だ。

「すみません。シェリル嬢が噂以上の方で少し動揺しています。時間をくれませんでしょうか」

私は静かに頷くと彼が私に話しかけてくれるまで待とうとそっと目を閉じた。
どれくらい時間が経っただろう。よく分からない時間旅行をしながら、彼を見つめている。そっと朧げに目を開けると、目の前には両手を広げたフレデリックがいた。

「よし! おいでシェリル嬢!」
急に両手を広げて私を待つような体制を取るフレデリック。
子供扱いされている事に私はカチンときた。
私は彼と出会えて、国の存亡をかけて帝国と交渉できるのかとワクワクしていた。

「行く訳ありませんよね。何をおっしゃてるんですか? 私はこの国の王子オスカー・アベラルドの婚約者。たとえバロン帝国の皇太子でも気安く触れる事は許しませんわ」

フレデリックは一瞬目を見開くも、口の端を上げてニヤリと笑った。

「失礼致しました。シェリル嬢。もしかして、政治的な話が私としたいと思っておいでですか」
「はい! お願いします」

私はフレデリックに小走りで近付く。
背の高い彼を見つめると、そっと目を逸らされた。

「フレデリック皇太子殿下、私が話したいのはこの領地とバロン帝国をまたがるダイヤモンド鉱山の事です」

フレデリックの周りの騎士が彼を防衛するように囲む。確かに私は長きに渡りペンディングされている国際問題を口にしたからだ。

「遠慮なく続きをお話しください。綺麗な女の子の話は一応聞きますよ」
フレデリックが手で周りの騎士を遠ざけるように合図する。
(話を聞いてくれる? 良い人で良かった)

「ダイヤモンド鉱山の採掘権を譲ってください! 領土的には半分以上こちらに権利があるはずです。我が国はこの通りの惨状です。資源を財産に直ぐ変える必要があります」

無理な申し出をした自覚はある。それでも、彼なら検討してくれそうだと期待した。

「シェリル・ヘッドリー、物事は全てギブアンドテイク。今は領土問題のせいでダイヤモンド鉱山の採掘が停滞しています。その機会損失を考えると採掘権についてはっきりさせた方が良いのは確かです」

「つまり採掘権を譲ってくれるという事ですね!」

私の言葉に彼は盛大に溜息をついた。

「シェリル嬢、そんな恐れ知らずな物言いをして貴方は私が怖くないのですか? 兄を毒殺して立太子までしたと言われている男ですよ」

「毒は何を使ったんですか? ヒ素なら無味無臭ですが、銀が変色するので露見しますよね」

確かにバロン帝国の第二皇子は毒殺されたと聞いていた。他国ではフレデリックは犯人扱いされていないが、自国では彼を疑う声があるのだろう。

「もしかして、鈴蘭を生けた花瓶の水ですか?中毒症状を起こして死に至る事があると本で読みました」

「待ってください。私が兄を毒殺した事を前提で話してますか?」

「はい。貴方が殺したのではないと分かっているから、毒を予想して推理しています。お兄様を殺した犯人を見つけたいのですよね」

気がつくと、周囲に人が集まってきていた。帝国の皇太子と、自国の王子の婚約者が何やら物騒な話をしているのだから当然だろう。

フレデリックは困ったような顔をして私を見ると、人目のつかない場所に案内すると言って私の手をとった。彼の連れていた護衛騎士たちがギャラリーを散らす。

連れて行かれたのは広場を抜けた所の小さめの建物。周りに似たような建物があるので、目立たず隠れ家にはもってこいだ。

ここはアベラルド王国のヘッドリー領地。本来ならば私が詳しくなくてはいけないのに、私は領地の土地勘さえない。フレデリックはアルベルト王国のような小国に興味のなさそうな大帝国の皇太子なのに、ここにはよく来るように見えた。

「ここは隠れ家ですか? バロン帝国の諜報員を我が国に忍ばせているのでしょうか?」

知らなければ通り過ぎてしまいそうな目立たない建物。
建物は古さもあり、ここに大帝国の人間が出入りしているとは想像し難い。

「当たりです。この場所を知ったからには、貴方を簡単に返す事はできません」

フレデリックが私の腰を引き寄せる。口付けができそうなくらい顔を近付けてくる彼。帝国の隠れ家をオスカーの婚約者である私に教えてくる男。

そして、私は企みがありそうな男にのこのこ付いていく浅はかさを持った女。

程よく愚かな女が男は大好物だと私は本能で知っていた。

彼は第三皇子でありながら帝国の皇太子になるような男だ。程々に色香を出して酔わせないと、シラフの状態ではバッサリ切られる。

隠れ家のような小さな建物に入るなり、フレデリックは侍従に渡されたグラスを口に含み私に口移ししてきた。

「ん、んんぅ」
この早い展開は予想外だ。ガッツリ手を出してくるとは思ってもみなかった。

私は彼の胸をトントン叩いて唇を離してもらった。唇の端からツゥと冷たい液が伝う。

飲んだ事のない甘く柔らかい味、アルコールが入っていたのか頭がポーッとした。
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