私の夫は救えないクズ〜別れた先に幸福が待ってました〜

専業プウタ

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11.交際0日婚

「久子がそうしたいなら」
離婚の同意が得られたかと思って喜んだ瞬間、スバルは再び私の首を絞めてきた。

思い通りにならない私は気に食わないから殺す。
私が自分と別れるのも許さない。
きっと彼は私に執着しているのだろう。

自分が与えたのと同等の愛が得られなくて苦しくて心中するしかないと思っている。

こんなに早く彼が私を殺しにくるとは思わなかった。
絞殺による窒息死は苦しい。
こんな事ならば、先程の怪しいワインを飲んだ方がマシだったかもしれない。
 
「⋯⋯何も理解できないよ。ただ、どうして久子に僕の気持ちが伝わらなかったのか絶望してるんだ」
ポロポロと涙を流す彼を初めて見た。

「解放し⋯⋯」
必死に抵抗して、声を出そうとするが言い終わらない内に首をより強く思いっきり締め上げられる。

「こんなに愛してるのに。もう、何もかもお終いだ。一緒に死のう。君が僕と同じ重さで愛してくれるまで、何度でも生まれ変わるよ」
遠のく意識の中で「何度でも私を殺すの言い間違いでしょ」と毒つく。
もう、彼に殺されるのは二度目だ。
側から見れば夢見たいな優良物件。他の女には見向きもせず、妻を溺愛してくれる男。

ーー彼に問題があるのではない。きっと問題があるのは私。彼の重過ぎる溺愛と同等のものを返せるようになれば、次こそは上手くいくなどとは到底思えなかった。

薄れいく意識の中で、今度やり直しができたら狂った男に負けないクレイジーな女になろうと決意した。

スバルみたいな狂った男の愛はいらない。私に必要なのは実家の家業を助けられる力と自立できる経済力だけ。

♢♢♢

朧げな意識の中で目を開けると、微かなラベンダーの芳香剤の香りと下水臭がした。
目の前には鏡があって、私と派遣の遠野真美が映ってる。

「篠山さん、子供が作るケーキと一緒ですよ」
遠野さんが私に笑いかける。
どうやら私は遠野さんと会社のお手洗いでお喋りしている時に戻ったらしい。

私は亡くなった父が時を戻しているのかと思っていた。
だとしたら、何故、この時に戻したのだろう。
本当は父が死ぬ前に戻りたいし、せめて遺体を司法解剖できる火葬する前に戻って欲しい。
(どうして、トイレ?)

人の人生は一度きり。
やり直しさせて貰えるチャンスがあるのならば、必ずその瞬間に意味があるはずだ。

「篠山さん、トイレに来たんじゃないですか?」
遠野さんが私に問いかける。

今の私に尿意はない。
トイレに来たと言うより、この時に戻って来たと言う考えがある。

「実は遠野さんを探して来たの。私、貴方に打ち明けたい事があってさ」
「えっ? えっ? 私にですか?」

彼女が戸惑うのは無理はない。
彼女にとって私はお局さん的な口煩い社員。
でも、私にとって彼女は数少ない自然体で話せる人。

「実は私、結婚したの!」
私はスバルとは離婚するつもりだ。
それでも、彼女にこの事実を打ち明けたのは自分の情報を開示して近くなりたいから。

「町田さんと結婚したんですね。もうすぐシンガポールですか? おめでとうございます。私も天空のプール入りたかったです」
私は二ヶ月前に会社に来た派遣社員の遠野さんにまで、町田咲也の女と思われてる事に苦笑してしまう。
しかも、社内でも芸能人レベルの美形と有名な咲也は駐在先まで他部署の派遣社員に知られているようだ。

「違うよ。整形美容外科のドクターと結婚したの」
「ドクター? それは商社マンでも捨てられますね」
遠野さんの返しに私は動揺し、自分がスバルをスペックでしか見てなかった事に気付かされた。

私も遠野さんと同じように、自分に言い寄る男には警戒する人間だった。
グラマラスな遠野さんの場合は男は体目当てだろうが、私の場合は逆玉狙いの男が寄ってくる。
出会ったばかりで「一目惚れした」と私に言ってくる男は沢山いた。

私は自分が一目惚れされるような美しさがないと知っていたから、男の下心に虚しくなった。

遠野さんのように警戒心旺盛だった私が、突然言い寄ってきた危険度マックスのスバルと結婚してしまったのは金銭的な不安からだった。

幼い頃から経済的に不自由のない生活を送ってきた。
経済的に困窮する状況を想像できない私は、父が亡くなった後に裕福であるはずの実家が借金がある事に驚愕した。

父は会社が赤字経営になった時から役員報酬を返上していた。
そんな状態で経済水準を下げない生活を続けていたのだから借金ができてもおかしくない。
三千万円の借金さえ即日返せない状態までなっているとは思っても見なかった。

不動産を整理すればお金を作れるのに、わざわざ借金をした理由は分からない。
父は祖父には反発していたから、先代から受け継いだ不動産に手をつけたくなかったのかもしれない。

父は無給で働く事で会社に尽くしていると感じ、赤字経営を打破しなくても満たされていたのだろう。
父も母と似ていて、自己犠牲で満足感を得るところがある。
私はそれは間違っていると考えていた。

何一つ生み出さず、右から左へ物を流す事で利益を生み出す商社で働いていたせいかもしれない。
経営者がすべきことは報酬を返上する事ではなく、稼げる仕組みを作る事だと強く感じる。

「篠山さんのお祝いもしなくちゃいけないですね。結婚祝いは何が良いですか?」
「⋯⋯連絡先! 遠野さんの連絡先が欲しい。私、遠野さんと友達になりたいの」

四歳も年下の女の子に友達になりたいと宣う痛いアラサー女子は私だ。
遠野さんも私の言動に驚いて目を瞬いている。

「一方的な気持ちなんだけど、私、遠野さんとのお喋りが楽しくてさ。結婚の事も噂になるのが怖くて周りに言えてないんだけど、誰かに打ち明けたくて⋯⋯」
「えっと、私なんかが秘密を打ち明ける友達で良いんですか?」
「遠野さんが良いの。私、あなたの事が好きだから」

正直、「友達になって!」なんて人に言ったのは小学校低学年以来だと思う。
今、自分でも変なことを言っている自覚がある。
誰かに相談したいのに、気がつけば周りに現状を相談できる人がいなかった。
いつも何か困ったことがあったら、咲也に話した。

彼がいなくなった今、私は一人。
母親に何でも相談できるような家庭ではない。母は娘想いだが絶対に自分の価値観を曲げないので、相談にならないのだ。


遠野さんは何故か顔を真っ赤にして口元を手で抑えていた。
「すみません、そんな告白受けたことなくて。というか、私、女からは嫌われるタイプなんですけど。いつも空気が読めないって言われて⋯⋯」
「自然体ってことでしょ。藤崎さんも遠野さんのそう言うとこを好きになったんだと思うよ」

藤崎さんが遠野さんで安らぐのは想像できた。
私も咲也にとって、癒しの存在でありがかった。
咲也との時間も私にとっては居心地が良かったけれど、彼にとっては違ったのかもしれない。
永遠の誓いをしたり、異国の地に連れて行くようなパートナーにはなれなかった。

胸が苦しくなり、心臓の辺りを掴む。

唯一何でも話せた咲也を失うと不安が降り積もる今、自分一人で抱えきれない思いに逃げ出したくなる。
私は今まで仕事上でしか関わったことのない相手に、重い話を自分の事のように聞いて一緒に考えて欲しいと図々しくも思っていた。
遠野さんは周りから軽く見られがちだけれども、本音しか言わない人。
いい加減に見られがちだが、実は人に対してしっかり向き合っている彼女に相談したい。

だから、私は恥ずかしくも小学生のように友達申請をし彼女に悩みを打ち明ける。

「実は彼と交際0日婚したんだけど、合わなくて離婚したいと考えてるんだ」
「ええ? 何でですか? 美容医療もお得にできそうなのに勿体無い! 白玉注射にプラセンタ注射打ち放題ですよね」
私は遠野さんの言葉に思わず笑ってしまった。
やはり、彼女はざっくばらんで面白い。

そして、二人でした会話を外に漏らさない人間で信用できる。

藤崎さんが彼女と結婚を決めたのもそういうところだろう。
女は噂話が大好きで、ここだけの話をネタにして吹聴する。

信用できる人をずっと求めていた。
私は彼女と友達になりたいから、話せる範囲で自己開示をすることにした。

「実は子供が欲しくない人なの。お互いがいれば満足的なことを言われて価値観が合わなくて別れたいの」
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