私の夫は救えないクズ〜別れた先に幸福が待ってました〜

専業プウタ

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15.元カレ

私は思わず彼の手から資料を取り去る。

「そんな事ない! 俺はこうやって篠山が俺に会いに来てくれただけで嬉しい。俺なんて親の会社で既定路線で出世しただけだし、お祝いされるような事じゃないのに⋯⋯」

ふと同級生の岸谷君が神奈川を中心としたスーパーを起業して成功しているのを思い出した。

今、一番勢いのあるスーパーで店舗数をどんどん増やしている。
神奈川の店舗の腐り方次第では、神奈川県内の篠山洋菓子店を縮小して岸谷君のスーパーでコラボ商品を売ってもらうのもありかもしれない。
そうすれば、裏切り者のように出て行った間宮元副社長一味に打撃を与えられる。

自分の頭の中で友達を利用し、復讐をするようなプランが浮かび自分の変化が怖くなる。
でも、現状、私の最大の武器は人脈で、それを利用することは悪い事ではないはずだ。

何も言わない私を眼前の菅野君は私を心底心配そうに見つめていて、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「菅野君は専務になったばかりだもの。こんな大きな仕事を時間もないのに進められないよね。ごめん、本当に私どうかしてる」
その時、菅野君が私の手をぎゅっと掴んできた。想像以上に熱い体温を感じてビクッと体が跳ねる。

「篠山って男を煽る天才? そういうのって咲也から習ったの? この資料もよくできてるけど、咲也の仕事?」
私をじっと見つめる彼の少し潤んだ瞳を見つめ返す。
そこにはいつになく動揺している弱々しい私が映っていた。

「町田咲也とは別れたんだ」
「はぁ? この間まで付き合ってたよな。一緒にシンガポールに行かないの?」
十年も付き合ってた大学時代からの公認カップルが別れた。
菅野君も驚いているが、私も咲也に捨てられるとは夢にも思ってなかった。

「行かないよ。駐在の前に結婚をしようって迫ったら振られちゃったよ」
自分の頬に熱いものが伝うのが分かる。
この涙は咲也に振られたのが悔しいからだけではない。

父を失っても私はなかなか思いっ切り泣けなかった。
母が壊れていく中で、自分はしっかりしなければと思った。

私を救ってくれる王子様、富永スバルが現れてホッとした。
しかしながら、彼は私を二度も殺した。

私がしっかりして、母と篠山洋菓子店を守らなければならない。
そうやって動いてきたけれど、ずっと仲良くしていた友達を利用するのは一番したくない事だった。

ドンッ!

その時、菅野君がテーブルを強く叩いた。

「ふざけんなよ。咲也」
私の為に怒ってくれる彼を見て、私は再び涙を流した。

「菅野君、クリスマスの配送の件、宜しくね。もう、みんなの元へ戻って。今日は菅野君のお祝いなんだから」
「⋯⋯篠山」
菅野君が私を心配そうに見つめている。
私に釣られて彼まで泣きそうな顔をしていた。

「私、お化粧直しいってくる。こんなお化けみたいな顔じゃいられないし」
「篠山はいつだって可愛いよ」
私を庇うような事を言ってくれる菅野君は本当に優しい人だ。

「ふふっ、菅野君がモテる理由が分かった気がした」
「俺がモテてるのって玉の輿狙いの強かな女ばかりなんだけど⋯⋯」
「違うよ。菅野君は情が深く優しいもん。今の私を可愛いなんて言ってくれるなんて相当だよ」

私は彼にひらひらと手を振りながら、お手洗いに向かった。
お祝いの日なのに突然仕事の話を持って来られた挙句、泣かれて菅野君も困っただろう。

それなのに、仕事の話を最後に念押しする私は随分現金だ。
菅野君の優しさを利用して、この短期間では無理筋なお願いを通そうとしている。

ずっと我慢してた涙を流すと、なかなか止められなかった。
(やらなきゃいけない事は山積みなのに⋯⋯)

私は軽くメイクを直し、頬を両手で叩いて喝を入れお手洗いの外に出る。

そこには、今、絶対に会いたくない人がいた。
お手洗いに入ってくる女の子たちが、嬉しそうにキャッキャしているから嫌な予感はしていた。
イケメンを見ると女の子は幸せホルモンが出るのだろう。
私は目の前のイケメンは見飽きてるし、会うと気持ちが落ち込む。

「久子、ちゃんと話そう。俺のこと避けないでくれよ」
「町田さん、来週にはシンガポールでしょ。ご活躍応援してますね」
「⋯⋯町田さんって何だよそれ。いつもみたいに咲也って呼べよ」

彼が今日ここに来る確率は五十パーセントくらいだった。
彼は菅野君とは仲良しだが、来週、渡星する彼は多忙を極めてるはずだ。

彼に手首を掴まれ、咄嗟に振り解く。

「気安く触らないで」

「久子、涙が⋯⋯」

せっかく止めたはずの涙が咲也に会ったことでせり上がってくる。

恋した時間は終わっても、愛情という情があった。
彼は私に恋はしていないと知っていたが、居心地の良さを感じ結婚を考えてくれていると信じていた。

町田咲也と別れた時から私の地獄のような日々が始まっている。

咲也には、今まで涙は見せたことがない。
忙しい彼が私を見て落ち着くように、常に感情の起伏を自分の中に抑え込んできた。

「店を出よう。久子の涙を誰にも見せたくない」
今度は私の腕を掴んで引っ張る咲也。

今日は菅野君のお祝いの場なのに、私たちが揉め事を起こしたら迷惑だ。
私は唇を噛んで目に力を入れ涙を止め、彼についていった。
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