私の夫は救えないクズ〜別れた先に幸福が待ってました〜

専業プウタ

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18.お金目当て

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「えっ? 結婚? 俺と別れたばかりなのに? お父様が亡くなったばかりなのに?」
悪気はないのかもしれないが、咲也が咄嗟に発した言葉に私は少なからず傷ついた。

私は咲也と結婚するつもりで、十年付き合ってきた。
父が亡くなったばかりで入籍した私を彼は責めてるのだろうか。

「そうだよ。もう、私と町田さんはなんの関係もない他人だから。既婚者に声なんてかけてないで、急に結婚する気になったなら他の女を探してね」
急に咲也が私の手首を力強く握ってくる。

「冗談言うなよ。俺は、久子と結婚すると思って、ずっと付き合ってきたのに⋯⋯」
その真剣な瞳に思わず射抜かれそうになった。
(久しぶりにドキッとさせて貰ったわ、やっぱりイケメンね)

彼は私を甘く見過ぎだし、自分は私に恋もしたことがない癖に深く愛されている自覚を持っている。
私には永遠を感じさせる安心感をくれなかった癖にズルい男だ。
三年、五年待たしても、私は誰の女にもなっていないと思われていたのだ。

「私もそう思って付き合ってきたよ。でも、責任持てないから別れるって言ったのは誰だった?」
「別れるとは言ってない! 今は結婚できないって言ったんだ。結婚したのに、駐在に連いて行かなかったら久子が叩かれるだろ」

彼は私を庇っているつもりかもしれないが、私は彼に何にもできないお嬢様と思われていたのが辛い。
それは私が母に対して思っている感情と同じだ。

「何を今更、そもそも、私はあの時点で結婚しなかったら別れると言ったはずだよ。どうして、私が自分を何年も待っていると思うの? とっくに町田さんへの恋心も冷めてるのに無理に決まってるでしょ」
「恋心が冷めてる? そんなはず⋯⋯」
「そもそも、町田さんは私に恋愛感情も持ったことないよね」

咲也は元々恋愛感情というものが分からないと言っていた。
そんな彼に「女避けに私と付き合ってみない?」と提案した大学一年の秋。
受け入れられて一ヶ月後に、「本当は咲也に恋してあんな提案をした」と自白した私を彼はヨシヨシした。

「恋愛感情⋯⋯よく分からないけど、久子は俺にとって家族のようなものだったから」
「そうだね。もう二年くらいはキスもしてなかったもんね。私もちょうど良かったよ。町田さんのルックスに一目惚れしたけれど、恋心なんて一ヶ月で消えたもの。でも、結婚するには良いと思って付き合い続けていただけ」
私の恋心は本当に付き合って一ヶ月で消えた。
学部も同じで毎日のように顔を合わせていたせいか、イケメンも見慣れてしまった。
ただ、彼は浮気をできるような男でもなければ、社交的で人当たりも良く結婚相手として合格点だった。

篠山家の一人娘の私は町田咲也を結婚相手としても繋ぎ止めておきたかった。

私の夫になる男は父に何かあれば、篠山洋菓子店の跡を継げるような優秀な男でないといけない。

町田咲也ほど私の結婚相手として適任な男はいなかった。
彼に対しての恋愛感情は消えても、愛情のような気持ちがあったのも確かだ。

私は専業主婦の母を見てきたこともあり、女の自分が跡を継ぐ事は全く考えていなかった。
でも、父が亡くなり母が篠山洋菓子店を継いだ今、その跡を継ぐのは自分だと思っている。

「男を頼る」という私の甘い考えが、全てを狂わせたのが悔しい。
私に実家の家業を継ぐ気概があれば、咲也の駐在に合わせて結婚を迫り振られることもなかった。
咲也も父もいないと思うと、突然現れた経済力のあるスバルに縋る。
スバルとの結婚が失敗だったことは明白だ。


「酷くないか? ずっと、そんな気持ちで俺といたのかよ。結婚したいって言ってたのは、俺のこと好きだったからじゃなかったのかよ」
突然、被害者ヅラをしてくる咲也には呆れるしかない。
彼は常に女性に付き纏われる人生を送っていたから、自分に惚れていない女が存在することが想像できない。
自分は私に一度も恋していない癖に狡い男だ。

「違うよ。町田さんが一流商社に就職したし、安易に起業したいとか言い出さない安定思考だったからだよ。私、経済的に苦労する生活を想像できないもの。町田さんが何にもできないお嬢様と結婚を考えていたのは、財産目当て?」
極端に彼を突き放す言い方をしたが、自分の気持ちを正直に突き詰めればそういう事だ。

一緒にいて家族のようで浮気もしない上に、安定した生活を得られる。
私は社長令嬢として育ったが、会社を優先する父に寂しさも感じていた。

社長というのは常に従業員の家庭にも責任を持つ。

だから、私は安定した一流企業の会社員と結婚するのが実は一番幸せなのではないかと打算的にも考えていたのだ。

打算的だったのは咲也も同じだ。

私に対する恋心もいないが、浮気性でもなければ変にベタベタしない私は彼にとって居心地が良かった。
「何もできないお嬢様を守る自分」というのは彼の庇護欲を満たしていたかもしれない。

「財産目当てな訳ないだろ! 俺が一生守っていくのは久子だって、ずっと思ってたよ」
咲也が私を突如骨が折れるくらい強く抱きしめてきた。
(何にもできないお嬢様って方は否定しないのね)

咲也が金目当てでないのは本当だろう。
私は散々逆玉狙いの男に言い寄られてきたから、その辺りは見極める事ができる。

「離してくれる? 今の私は咲也に対する気持ちもない上に結婚してるの!」
「離さない! 本当に結婚なんかしたのかよ。一体、どこの誰と!」

「久子!」
突然したスバルの声に私は慌てて咲也を突き放す。
(どうして、私がここにいるって分かったの?)

声のする方向を見て咲也が息を呑んだのが分かった。
自分にも勝るとも劣らないイケメンがいる事に驚いたのだろうか。

スバルが何故ここにいるのか考えるだけで怖いが、私は彼に駆け寄ろうと咲也の身体をすり抜けようとした。
突如、私の手首を掴んでくる咲也に心臓が早くなる。

「町田さん、離して! ちょっと本当に離してよ! 咲也!」
咲也は何も分かっていない。今、目の前に来た私の夫は人が殺せる男だという事を⋯⋯。
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