私の死を覚えている人〜鮮血の赤い糸は、私を逃がさない〜

専業プウタ

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7.タイムリープ

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 目を開けると斉藤さんが百本近くある大きな真っ赤な薔薇の花束を抱えている。

 私は再びダイニングルームにいた。朝日が差し込むテーブルの上には相変わらずエッグベネディクトが用意されている。

「凛音お嬢様、赤い薔薇の花束が婚約者の曽根崎玲様より届いてますよ。17歳のお誕生日おめでとうございます」

 斉藤さんの言葉に私は深く深呼吸した。

「斉藤さん。いつも色々私の身の回りの事を気遣ってくれてありがとね。今日は結婚記念日でしょ。特別休暇ということで手当てを出すからご主人と素敵な時間を過ごして」
 私の言葉に余程驚いたのか、斉藤さんは目を見開きながら涙した。

「凛音お嬢様⋯⋯。そんな多大過ぎるお気遣いをありがたく頂いてしまったら、バチが当たらないでしょうか?」

「良い事があると、悪い事が起きるの? きっと、幸運は幸運を呼ぶわ」
 私が薔薇の花束を受け取りながら告げた言葉は、私の祖父がいつも言っている言葉だ。「運は運を呼ぶ、金は金を呼ぶ」という言葉の通り、祖父が会長を務める柏原グループは富を増やしてきた。

 私は祖父にお願いして玲さんとの婚約を破棄して貰うつもりだ。

 私と玲さんとの婚約は祖父の一声で決まったものだ。
 おそらく様々な事業の利益を鑑みて決めたのだろう。

「凛音お嬢様、この御恩は一生忘れません。お嬢様の幸運を私も心より願います」
「ふふっ、大袈裟ね。私はお腹も空いてないし部屋に戻るわ」

 はっきり言って、胸が詰まってしまい食事が喉を通りそうない。
 玲さんに殺されたという事実は私にとってショックが大きかった。

 私は薔薇の花束を抱えながら、部屋に戻った。
 おそらく私は再び時を戻ることができた。
 そして、今、この薔薇の花束から異様な視線を感じている。
 
 部屋に戻り薔薇の花束を解体する。
「小型カメラ⋯⋯」
 私は薔薇の花束の中に小型カメラを見つけてしまった。
 
 玲さんは何かにつけては薔薇の花束を送ってきた。

 私はお手伝いさんが花瓶に生けようとするのを断り、いつも無造作にベッドサイドに花束を置いていた。

 玲さんが来訪した時に枯れゆく薔薇を見れば、また新しい花束を持って私に会いにくると思っていたからだ。
 私は彼への恋心は冷めていても、唯一私を見捨てずにいてくれる彼に依存していた。
 おそらく私のそういった行動を利用され、薔薇の花束にカメラを仕込まれ監視されていたのだろう。

(そうだ、おそらく学生鞄にも盗聴器とか隠してあるはず⋯⋯)
 私はカッターを用意し学生鞄を切り裂く。
 カバンの底はいつの間にか二重構造にされていて、盗聴器らしきものが仕込まれていた。
 
(スマートフォンも確認してみなきゃ!)
 スマートフォンを確認してみると、GPSアプリが仕込まれているのが分かった。

(他にも何か仕込んでいるよね⋯⋯)
 玲さんは私の家族をはじめ周囲からの絶大の信頼を得ている。
 私がいない間にこの家に訪ねてきた時に、勝手に私の部屋にあげられていた事もある。 その事を母に抗議しても、結婚する間柄なのだからと一笑されていた。
 
 コンセント部分、玲さんからプレゼントされたブランドバッグやジュエリー、その殆どに盗聴器が超小型カメラが仕込まれていた。

 自分が常に監視されながら暮らしていたと思うと気が狂いそうだ。

(どうしよう⋯⋯絶対、まだ私が見つけられていない盗聴器とか仕掛けてあるよね⋯⋯)
 
 早く監視されまくった部屋から逃げ出したかった。
 学校に行こうにも学生鞄を切り裂いてしまっている。
 私は取り合えず学校に欠席連絡と学生鞄を新たに注文したい旨を連絡した。
 私は電話を切った後、自分が本当はもう学校に行きたくない事に気がついた。

 美湖ちゃんという友達ができて学校が楽しくなった。
 そのような友達がいる楽しさを知ってしまうと、ボッチを痛感する生活を送るのが途方もなく寂しく感じてしまう。

 再び『スーパーブレイキン』の会報をめくっていても、彼女が話しかけてくれるかは分からない。自分から話しかけて、怪訝な顔をされるのも怖い。

 私はとりあえずHIROを助ける為に彼の事務所に向かった。

 私を襲おうとした上に、「嫌い」とまで言って私を傷つけた彼をなぜまだ助けようとするのか自分でも不思議だ。

 でも、彼が私の孤独を埋めてくれたヒーローであるのは事実。

 彼を推してテレビや雑誌を見て応援していた時間は沢山私を癒してくれた。私はまだ何か仕込まれているかもしれないスマホを机の上に置いたままにして、私服に着替え財布だけ持って家を出た。

 ♢♢♢

 HIROの芸能事務所の扉をノックする。
 
「あの、何か御用でしょうか?」
 迎えてくれたのは美湖ちゃんの父親だ。
 
「『JKロック』のキーボードがこないだ引退しましたよね。私、その後釜に立候補したいのですが!」
「えっえっと⋯⋯あの、『JKロック』の補充メンバーのオーディションの開催は今計画中でして⋯⋯」
「私は黒蘭学園2年柏原凛音です。私のルックスと技術を見ればオーディションの必要はないと思います」

 私は『JKロック』の曲を弾けと言われれば、直ぐに弾ける。それに顔だけは自信があるし、現役女子高生だ。


「ふふっ、なんか面白い子じゃない。マネージャー、その可愛い子ちゃんの自信の技術とやらを披露して貰ったら」
 事務仕事をやっているように見えたメガネをかけた事務員は草井奈美子だった。
 学生ではないからメンバーが揃わない時間は事務仕事を手伝ってるのだろう。初めてHIROの部屋で対面した時の彼女は狼狽していたが、今はとっても偉そうだ。

 私はHIROを殺したのは彼女だと思っている。

 一度目はHIROの自殺の第一発見者であり、二度目は心中相手だった女だ。
 恐らく一度目はファンに手を出していただろうHIROに怒りを向け殺してしまい自殺と偽装したのだろう。
 二度目は言わずもがな恋人である彼の浮気現場を目撃し発狂して心中したに違いない。

 HIROを助けるならば、まず草井奈美子を彼から遠ざけられるポジションに行こうと思った。

「では、早速スタジオに向かいましょうか」
 目にモノ見せてやるという気持ちで、草井奈美子を睨みつけると鼻で笑われた。
「どうせなら、私の歌に合わせて弾いてよ。本番さながらにさ」

 挑戦的で敵意を感じる視線を受けながら、私と草井奈美子に加え、美湖ちゃんの父親と社長らしき人はスタジオに入った。

「はい、これ楽譜!」
「MINA、それは未発表の!」
 キーボードの前に行くと楽譜を渡される。
 未発表楽曲らしく美湖ちゃんの父親は焦っていた。

「私、別にここで自分の技術を披露したいだけで、この曲を外部にバラしたりしませんよ。MINAさん、思う存分歌ってください」
 私は楽譜を見ながら前奏から弾き始める。
 なかなか、疾走感のある楽しい曲だ。
 私が演奏を始めたので、彼女は慌ててマイクの前にいき歌い出した。

 彼女の伸びやかで澄んだ高音がメロディーと混ざり合い気持ち良い。
 
 演奏が終わると何処からともなく拍手が聞こえた。その方向を見ると目を輝かせたHIROが頬を染めて立っていた。
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