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3. 2度目の初夜
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ソフィアは2度目の初夜を迎える事になった。
メイドから請われても彼女は決して湯浴みをして寝巻きに着替えなかった。
寝巻きでは武器を隠し持つことができないからだ。
彼女はメイドを通じてアーネストに今晩は寝室に来ないように伝えて貰ったが、彼はここに来るだろう。回帰前の結婚生活も疲れているから寝室に来るなと伝えても、夫の権利とばかりに彼は寝室を訪れ彼女を毎晩のように抱いた。
アーネストは『人を殺せる人間』だ。
人を殺すことを想像もできない彼女からしたら異質な存在。
そのような相手を丸腰で迎える事などできなかった。
彼女は太ももにバンドをし、鞘に納めた短剣をそこに隠した。
正直、殺し合いになったところで騎士団の団長を務めているアーネストに彼女が勝てるはずがない。
彼女自身それを理解しているので、今日はなんとか上手くやり過ごそうと思っていた。
前回の初夜、ソフィアが避妊薬を使ったことでアーネストと喧嘩になった。
今の彼女は殺人鬼であった彼と喧嘩することさえも恐れている。
そもそも行為自体がソフィアは初夜の義務と経験したことのないことへの好奇心から行ったもので、結果彼女の好むものではなかった。
それでも、前回彼女が夜の夫婦生活を彼と続けていたのは、行為があることが円満である証拠だと彼女が考えていた為だ。
今回はソフィアは行為自体を回避し、この結婚を白い結婚にして離婚に持ち込むことを考えていた。
扉をノックする音がする。
彼女が返事をすると共にガウン姿のアーネストが部屋に入ってきた。
「何か言いたい事がありそうだな」
彼の言葉に彼女はゆっくりと頷いた。
彼はそっと彼女の目の前に赤い薔薇の花束を差し出す。
「えっ? これだけですか?」
彼女が寝室で花束を受け取ったのは初夜と殺された日の2回。
前回初夜に受け取った赤い薔薇の花束の薔薇は100本くらいはあった。
それなのに目の前の薔薇の花束は10数本束ねただけの小さいものだ。
時を戻った確信はあったが、同じ未来を辿る訳ではないようだ。
「花束を受け取る時の台詞がそれなんて、俺の花嫁はつれないな」
憂いを帯びたエメラルドの瞳をゆっくり閉じてアーネストはソフィアに顔を近づけた。
彼女は咄嗟に彼の口づけを避ける。彼女の中で彼に対する恐怖心と懐疑心が生まれてしまい彼を受け付けなくなっていた。
「アーネスト様、私やっぱり結婚には向いていないと思うのです。結婚して早々ですが離婚しては頂けないでしょうか?」
彼女は勇気を出してウェディングドレスの裾を掴みながら絞り出すように懇願した。彼の顔を見るのが怖くて俯いてしまう。
「離婚だと? 向いてないからやらないなんて、君らしくもない。君は挑戦的な人じゃないか。そんな君に俺も惹かれたんだ」
彼がソフィアを挑戦的だというのはビジネスの分野でだろう。
ソフィアは国内市場だけでなく、航路を生かして遠いレベスタ帝国にも宝飾品を輸出している。それは彼女が世界中の富が結集するレベスタ帝国の市場にいち早く目をつけたからであった。
「恋愛とか、結婚は私には不要だった気がするのです。とにかく夜が明けたら実家に戻って宜しいでしょうか? 私の一方的な身勝手で離婚するのですから、もちろん慰謝料はお支払いします」
「冗談だろ、君は俺を馬鹿にしてるのか?」
急に冷ややかな声色に変わったアーネストにソフィアは怯えた。
この声色は彼女が殺された日にも聞いたものだったからだ。
彼の顔つきも普段対外的にみせる穏やかなものではなく、怒りを抑えるような強張ったものに変わっている。
「す、すみません。ただ、私は男の人と一緒に過ごすことに慣れていなくて⋯⋯」
「その割には君は美しい男を侍らせて宝飾品店をやっているな」
アーネストの言う通り、ソフィアは宝飾品店の店員を男女とも顔採用していた。美しい男の前では貴婦人は財布の紐が緩む。そして美しい女の前では男たちは良い顔をしようとして大金を使う事を知っていたからだ。
「美しい男を使っているのは営業戦略でして⋯⋯私は本来男性が苦手なのです。初夜ですが心の準備が整うまでは先延ばしにしても構いませんでしょうか? それから、心の準備が整うまでは別居させて頂きたく⋯⋯」
ソフィアが全てを言い終わらない内に、アーネストは彼女の両手首を乱暴に掴みベッドに押し倒した。見上げた彼の表情の恐ろしさに彼女は体が震え上がり、パニックになる。彼女は彼の鋭い目つきから人を殺せる凶暴性を感じ取っていた。彼の美しさに身惚れた時もあったが、今はその美しさも恐怖の対象だ。
「本当に俺に怯えているのだな。分かった。心の準備とやらを実家に戻りしてくると良い。ただし、俺は君を愛している。離婚をするつもりはない」
アーネストは彼女の本気の怯えを感じ取ったのか、そう言い捨てると部屋を出ていった。ソフィアは脱力して、そのまましばらく動けなかった。
彼女はひたすらに考えた。
なぜ、今回の薔薇の本数は少なかったのか。
なぜ、鈴木未夢はユリカに殺され、ソフィアはアーネストに殺されたのか。
自分が殺人鬼を引き寄せているのか、自分が相手を狂気に駆り立てているのか。
卵が先か鶏が先か考えている内に瞼が重くなり眠りについた。
翌朝、メイドが花瓶に薔薇を飾った。数えてみると16本しかない薔薇にソフィアは希望を持った。もしかしたら、薔薇の数がアーネストの愛情のパラメーターなのかもしれない。
早いところ自分に冷めて貰って離婚を成立させようと決意しながら彼女は実家に向かった。
メイドから請われても彼女は決して湯浴みをして寝巻きに着替えなかった。
寝巻きでは武器を隠し持つことができないからだ。
彼女はメイドを通じてアーネストに今晩は寝室に来ないように伝えて貰ったが、彼はここに来るだろう。回帰前の結婚生活も疲れているから寝室に来るなと伝えても、夫の権利とばかりに彼は寝室を訪れ彼女を毎晩のように抱いた。
アーネストは『人を殺せる人間』だ。
人を殺すことを想像もできない彼女からしたら異質な存在。
そのような相手を丸腰で迎える事などできなかった。
彼女は太ももにバンドをし、鞘に納めた短剣をそこに隠した。
正直、殺し合いになったところで騎士団の団長を務めているアーネストに彼女が勝てるはずがない。
彼女自身それを理解しているので、今日はなんとか上手くやり過ごそうと思っていた。
前回の初夜、ソフィアが避妊薬を使ったことでアーネストと喧嘩になった。
今の彼女は殺人鬼であった彼と喧嘩することさえも恐れている。
そもそも行為自体がソフィアは初夜の義務と経験したことのないことへの好奇心から行ったもので、結果彼女の好むものではなかった。
それでも、前回彼女が夜の夫婦生活を彼と続けていたのは、行為があることが円満である証拠だと彼女が考えていた為だ。
今回はソフィアは行為自体を回避し、この結婚を白い結婚にして離婚に持ち込むことを考えていた。
扉をノックする音がする。
彼女が返事をすると共にガウン姿のアーネストが部屋に入ってきた。
「何か言いたい事がありそうだな」
彼の言葉に彼女はゆっくりと頷いた。
彼はそっと彼女の目の前に赤い薔薇の花束を差し出す。
「えっ? これだけですか?」
彼女が寝室で花束を受け取ったのは初夜と殺された日の2回。
前回初夜に受け取った赤い薔薇の花束の薔薇は100本くらいはあった。
それなのに目の前の薔薇の花束は10数本束ねただけの小さいものだ。
時を戻った確信はあったが、同じ未来を辿る訳ではないようだ。
「花束を受け取る時の台詞がそれなんて、俺の花嫁はつれないな」
憂いを帯びたエメラルドの瞳をゆっくり閉じてアーネストはソフィアに顔を近づけた。
彼女は咄嗟に彼の口づけを避ける。彼女の中で彼に対する恐怖心と懐疑心が生まれてしまい彼を受け付けなくなっていた。
「アーネスト様、私やっぱり結婚には向いていないと思うのです。結婚して早々ですが離婚しては頂けないでしょうか?」
彼女は勇気を出してウェディングドレスの裾を掴みながら絞り出すように懇願した。彼の顔を見るのが怖くて俯いてしまう。
「離婚だと? 向いてないからやらないなんて、君らしくもない。君は挑戦的な人じゃないか。そんな君に俺も惹かれたんだ」
彼がソフィアを挑戦的だというのはビジネスの分野でだろう。
ソフィアは国内市場だけでなく、航路を生かして遠いレベスタ帝国にも宝飾品を輸出している。それは彼女が世界中の富が結集するレベスタ帝国の市場にいち早く目をつけたからであった。
「恋愛とか、結婚は私には不要だった気がするのです。とにかく夜が明けたら実家に戻って宜しいでしょうか? 私の一方的な身勝手で離婚するのですから、もちろん慰謝料はお支払いします」
「冗談だろ、君は俺を馬鹿にしてるのか?」
急に冷ややかな声色に変わったアーネストにソフィアは怯えた。
この声色は彼女が殺された日にも聞いたものだったからだ。
彼の顔つきも普段対外的にみせる穏やかなものではなく、怒りを抑えるような強張ったものに変わっている。
「す、すみません。ただ、私は男の人と一緒に過ごすことに慣れていなくて⋯⋯」
「その割には君は美しい男を侍らせて宝飾品店をやっているな」
アーネストの言う通り、ソフィアは宝飾品店の店員を男女とも顔採用していた。美しい男の前では貴婦人は財布の紐が緩む。そして美しい女の前では男たちは良い顔をしようとして大金を使う事を知っていたからだ。
「美しい男を使っているのは営業戦略でして⋯⋯私は本来男性が苦手なのです。初夜ですが心の準備が整うまでは先延ばしにしても構いませんでしょうか? それから、心の準備が整うまでは別居させて頂きたく⋯⋯」
ソフィアが全てを言い終わらない内に、アーネストは彼女の両手首を乱暴に掴みベッドに押し倒した。見上げた彼の表情の恐ろしさに彼女は体が震え上がり、パニックになる。彼女は彼の鋭い目つきから人を殺せる凶暴性を感じ取っていた。彼の美しさに身惚れた時もあったが、今はその美しさも恐怖の対象だ。
「本当に俺に怯えているのだな。分かった。心の準備とやらを実家に戻りしてくると良い。ただし、俺は君を愛している。離婚をするつもりはない」
アーネストは彼女の本気の怯えを感じ取ったのか、そう言い捨てると部屋を出ていった。ソフィアは脱力して、そのまましばらく動けなかった。
彼女はひたすらに考えた。
なぜ、今回の薔薇の本数は少なかったのか。
なぜ、鈴木未夢はユリカに殺され、ソフィアはアーネストに殺されたのか。
自分が殺人鬼を引き寄せているのか、自分が相手を狂気に駆り立てているのか。
卵が先か鶏が先か考えている内に瞼が重くなり眠りについた。
翌朝、メイドが花瓶に薔薇を飾った。数えてみると16本しかない薔薇にソフィアは希望を持った。もしかしたら、薔薇の数がアーネストの愛情のパラメーターなのかもしれない。
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