真夏のリベリオン〜極道一家壊滅計画〜

専業プウタ

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1.お見合い

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一月二十日大寒。
東京を暴風雪が襲った。

冬城真夏、二十五歳。
大雪の日に生まれた私は、この世界に反逆して生きろという意味で真夏と名付けられた。
そんな意味不明な名付けをした私の父親は泣く子も黙る冬城組の組長、冬城源次郎。
幼い頃から、人の業の深さを見せられてきた私は普通の家庭を求めた。
堅気の世界に憧れを求めた私は大学卒業と同時に家を出て、涼波食品に就職しの社員寮で暮らしていた。

涼波食品では入社して三年は、工場見学のガイドをする事になっている。
手当たり次第受けた中でやっと出た内定。でも、涼宮食品は働けば働く程、好きになる職場だった。

二十五歳の誕生日でもある今日。
私は学校のPTA主催の工場見学をしに来ている小学四年の団体様の可愛いお客様をお出迎えしていた。

「『安全で美味しい食品を大切な人に』今日も皆さんの食卓に幸せを届けるべく、私達は日々研究を重ねています」
拍手と共に今日の工場ガイドの業務が終了する。

引率の担任の先生が近付いてくる。アラフォーくらいのメガネ姿の真面目で少し気弱そうな男性だ。
如何にも学校の先生と言った感じの男。

「ありがとうございました。子供たちも楽しかったみたいです」
「それは良かったです」

突然、握手を求められ戸惑いながらも手を握ると、メモ帳を千切ったような紙を握らされた。

『冬城さん今日は楽しかったです。宜しければ個人的にまたお会いしたいです』

恋愛など疎そうな堅物そうな学校の先生の勇気を出したお誘い。
裏に連絡先が書いてある。

私は人の目を惹く美人でも何でもないが、巷でいう雑魚モテをする女。
ただ、大人しそうで従順に見られるせいか自信のなさそうな男の「ちょうど良い」ターゲットになりがちだ。
従順に見られるせいか、草を食べてそうな男だけは私には頻繁に言い寄って来た。
幼い頃から厳つい男に囲まれてるせいもあり、大体の男は華奢な女のように見える。

人は見た目が九割と言うが、私の中に隠している一割を知ったら皆が尻尾を巻いて逃げ出すだろう。

私は特に筋トレをしていないが、腹筋は割れてシックスパック。
着痩せして見られるが大抵の男より筋肉質な良い体をしている。

故に中々女として、身体を見せるのには勇気がいった。
お付き合いはした事があるが、この歳まで処女を貫いている。

小学生の団体様のバスを見送ると、今日の仕事はおしまい。
ふと、バスの影から黒塗りの見慣れた車が見えた。ロッカーで制服から私服に着替えると、私は慌ててトイレの方に向かう。

「冬城さん、お疲れ様。どうかしましたか? 今から、お帰りですよね?」

出口ではない方向に向かう私に同僚の佐々木雫が声を掛けてくる。
ツヤツヤのボブカットの彼女は私の一年後輩で人目を惹く美人。

足も長くで凹凸のはっきりした女性的な体をしている。私の統計によると天然美人は前髪のないボブ率が高い。
彼女のような女に寄ってくるのは自信のある男。
でも、彼女が好きなのはペット系男子だと聞いた。男と女の需要と供給の不一致がこの国の成婚率を下げている。

「私は、ちょっとお花を摘みに」

私は適当な言い訳をつけると、小走りで一目散に女子トイレに向かう。
一番奥の個室の扉を開けて、スニーカーを脱ぎ手すりに足をかける。
幸いにも伸縮系素材のジーンズで着たので動きやすい。
窓からスニーカーを外に放りなげ、小さな窓に体を捩じ込みギリギリ抜け出して地面に降りた。
気分はプリズンブレイクだ。

屈んでスニーカーを履いていると、頭の上から聞き慣れた低い声がする。

「お嬢、二十五歳のお誕生日おめでとうございます」
「園崎、あんた何しに来たの?」

園崎はツナギでも着ていればガテン系に見られるが、今はガッチリ黒スーツ。
スーツを着込んでいても手首の辺りからは刺青が見えてしまっていて、一目で堅気の人間には見えない容貌をしている。
眉毛もはっきりいって、平成初期を思わせる細眉にし過ぎだ。
極道の世界では流行に惑わされず、細眉が流行り続けている。

「お嬢のお誕生日をお祝いしたいと、親分が祝いの席をご用意しております」

私は強張った顔で縋るように見つめてくる園崎の目をまじまじと見つめた。
大学卒業してから、強引に家を出た私はほぼ父と絶縁状態。
誕生日だからといって、急に祝いの席を用意するとは不自然だ。

「何なの。急に? 自分の車で来てるし私は家に帰るわよ」

今日、私は誕生日で、片想いしている彼に会いたい。

この近くのガソリンスタンドで働いている早瀬ライ君だ。
三年前の雨の日に走って駅まで走る私を、バイト中の彼追いかけて傘を貸してくれた。
爽やかな笑顔に服の上からでも分かる筋肉質な肉体。
初めて一目惚れを経験した私は、免許を取り通勤を車に切り替え彼のバイト先に通っている。

「いえ、すみません。今日はどうしてもとの事でして⋯⋯」

小刻みに震える園崎にとって組長の命令は絶対だ。
私を連れて行かないと彼がどんな目にあうか想像できてしまった。
(車は後でとりにくれば良いか⋯⋯)

私が駐車場の方を見たのを逃げるつもりだと解釈した園崎は私を米俵のように持ち上げると、近くに寄せてきた黒塗りの車にのせた。

「ちょっと、園崎! 防犯カメラにでも映ってたらどうするの? 完全に誘拐みたいじゃない」

「防犯カメラについては対策済みです」

用意周到な彼に溜息をつく。十五分程車を走らせ、とある赤坂の料亭に到着した。
幼い頃から何度か祝い事の時に使った料亭。父は娘が四半期生きた事を馴染みの女将にでも報告させたいのだろうか。

私は控え室のような部屋に連れてかれて着替えをさせられた。縦縞の模様、黒地に流水が入った着物だ。

「わざわざ、着物って⋯⋯」

一つ結びに括っていた髪が解かれ丁寧に纏め上げられると季節外れの花見鶴の簪をつけられる。
三人がかりで支度をされる事、二十分。園崎が部屋に現れた。
「お嬢、先方が到着して既にお待ちです」

私は園崎の言葉に嫌な予感がした。

(ああ、これは私の誕生日祝いじゃない)

思わず逃げ道を探す私の前に園崎が膝をついた。

「お願いします。お嬢」
大きな巨体をしながらも畳についた手が震えている。

「顔を上げて園崎。お前の立場は分かってるわ。先方にお会いするだけよ」

私は膝をついて彼の手を握る。彼はほっとしたような顔で私を見た。
彼は恐怖で私を支配しようとする父親の代わりに、私を優しく見守ってきてくれた男。
そんな彼が極限に追い詰められている今、見捨てて立ち去る無慈悲な女ではない。

少し軋む長い廊下を歩いていると、奥の特別室に着く。

襖を開けられた先にいたのは父と、京極組の組長である京極豪鬼。そして、その隣にいるのは私のお見合い相手だろう。
ヤクザの癖に弁護士バッチをつけていて、思わず笑いが漏れてしまった。
精悍な顔立ちに涙ぼくろのある色っぽい男。一見すると育ちの良い御曹司に見えるが、服を脱げばきっとお絵描きだらけだ。

私を見るなり立ち上がった男は一瞬鋭い目つきで睨んだかと思うと、ニッコリと笑った。

「真夏さんが美しくて一瞬見惚れてしまいました。京極清一郎と申します。どうぞ以後お見知り置きを」

彼が差し出してきた手に気がつかないふりをして、私は父の隣にゆっくり正座した。「美しい」などと社交辞令を言われるのは気分が悪い。私は自分が華やかさのかけらもない地味な女だとよく知っている。


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