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3.運命の夜
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帯をするりと解いて着物を脱ぎ浴室に入ると冷静になる。
シトラスの香りのボディーソープはライ君が普段使っているものだろう。
彼から常に香る爽やかな香りが好きだった。
(シャワーだけ軽く借りるか⋯⋯)
カチカチの体で渡されたバスローブに着替えて、ダイニングに行くと美味しそうな匂いがした。
「ピザの匂い」
「餃子の皮でピザ生地作ってみたんだけど、どうかな? クリスピーだと思って目を瞑って」
ライ君が申し訳なさそうに出して来た中華風ピザからは、冷蔵庫にあるもので私の要望を叶えようとした彼の優しさを感じた。
横にあるホットケーキにある文字に涙が溢れる。
『ハッピーバースデー』とケチャップで書かれたホットケーキ。
「凄い。ライ君は天才だね。最高の誕生日だよ」
私の言葉に彼が頬を染めた。
期待して良いのだろうか、彼も少しは私を想ってくれている事を⋯⋯。
手を合わせてライ君のお手製ピザを食べる。餃子の皮を円状に敷き詰めて、油でカラッと揚げて野菜炒めにチーズを乗っけて焼いたオリジナルピザ。愛情の味があるとしたら、こんな味なのだろう。心の底まで温かくなりそうな優しい味がした。
「こんな美味しいピザ初めて」
「本当に? 真夏ちゃんって褒め上手だな」
ライ君がクスクス笑う。こん風に好きな人二人きりで緊張する空間は初めてだ。
彼と出会ってから私は彼に夢中でバイト先に押しかけた。それでも、所詮は店員とお客。仲良くしていても距離感があったのは確かだ。
「涼波食品のレトルトの青椒肉絲を載せて焼いても美味しいかも」
「真夏ちゃんって本当に涼波食品が好きなんだね」
「大好きだよ。レトルトとか冷凍食品が多いから利便性ばかりに囚われてると思われがちだけど、凄く子供の健康とか考えてるの。働くお母さんの味方だよ。私、働くお母さんに憧れてるんだ」
私の母は所詮ヤクザの女。ヤクザの女は外で働いたりしないで、独特の世界の中で生きている。
母はその環境を愛しているが、私は居心地の悪さを感じていた。
「ホットケーキも食べてみたい」
私が手を伸ばした時にバスローブの紐がライ君に引っ掛かり、するりと解けた。ライ君が無言でその紐を握りしめる。
彼が私の肌けた体をじっと見つめてきて羞恥でどうにかなりそうだ。
私は慌てて自分の体を隠すように抱きしめた。
「どうして? 綺麗なのに」
そんな言葉をこんな時に掛けられる彼は、実は女慣れしているのかもしれない。
私を一目惚れさせるくらいの見た目の良い男だ。
彼にとっては自分に気持ちを寄せる女の子の一人をお持ち帰りできたくらいの状況だ。
そう思うと虚しさが押し寄せてくる。
心にずっと秘めていた想いを告げたくなった。
「ライ君は私にとって、この四半世紀生きて来た中で一番好きな生き物⋯⋯。ライ君は私の希望だよ。私はライ君が心から好き、でも、私は綺麗な子じゃないから、このバスローブの下を見た人間は卒倒するよ」
私の言葉に彼が目を瞬かす。
「今のって告白? 真夏ちゃんも俺を好きって事で良いんだよね」
「真夏ちゃんもって⋯⋯ライ君、モテるんだね」
私はその他大勢の一人である事を再確認しひどく虚しくなった。
「俺も真夏ちゃんが好きって事だよ。いつからだろう、分からないけれど些細な君との会話を宝物のように感じるようになってた」
お客と店員だった彼と私はそれ程お互いを掘り下げてはいない。ただ、いつも丁寧に車の窓ガラスを拭く彼が好きだった。短い時間で話し掛けて彼の情報を集めては何度も反芻した。
「嘘ばっか。ライ君、女から金を巻き上げる悪いホストみたい」
思わず苦笑いが漏れる。工場見学のガイドをしている時にも、お客様から好意を寄せられることは少なくなかった。私は自分に寄りつく人に距離を置いたが、ライ君は怖いもの知らずに受け入れるタイプなのだろう。誰にでも優しい彼が来る者拒まず、去る者追わずな様は容易に想像できた。
それまでニコニコしていた彼が急に射抜くような真剣な眼差しになる。ふわりと体が軽くなったかと思うと、私は彼に横抱きにされていた。
「ラ、ライ君?」
「嘘じゃなくて、本当に真夏ちゃんの事好きだって証明させて」
私は柔らかなベッドの上に下ろされた。シーツからライ君からいつも香っている爽やかな香りがする。
気がつくと私はライ君に見下ろされていた。
心臓が飛び出そうな程にバクバクする。
彼が私のバスローブの紐を全部引いてしまい、私は慌てて自分の体を隠す。
「男の人って華奢な女の子が好きだよね。実は私、腹筋六つに割れてるの」
私の言葉にライ君が吹き出す。でも、私は自分の体を見られるのが恥ずかしい。私は大した筋トレをしなくても筋肉が異常なくらいつきやすかった。細マッチョがモテるのは男だけだ。
着痩せして見える私は四十キロ台と思われがちだが実際は六十六キロ。
健康診断で体重計が壊れているのかと二度見されるレベルの私の体脂肪率は、アスリートでもないのに一桁台だ。
女の子らしい柔らかさもない体に触れられるのが怖い。がっかりされるに決まっている。
「俺は華奢な女の子じゃなくて、真夏ちゃんが好きなの」
昔の古傷を手当てして貰ったような感覚。
「私もライ君が好き! 本当に大好き」
溢れ出す好きという気持ちに従い私は彼に抱きついた。柔らかなベッドの上、天使の羽のように雪が舞う二十五歳の誕生日。私は愛する人と結ばれた。
シトラスの香りのボディーソープはライ君が普段使っているものだろう。
彼から常に香る爽やかな香りが好きだった。
(シャワーだけ軽く借りるか⋯⋯)
カチカチの体で渡されたバスローブに着替えて、ダイニングに行くと美味しそうな匂いがした。
「ピザの匂い」
「餃子の皮でピザ生地作ってみたんだけど、どうかな? クリスピーだと思って目を瞑って」
ライ君が申し訳なさそうに出して来た中華風ピザからは、冷蔵庫にあるもので私の要望を叶えようとした彼の優しさを感じた。
横にあるホットケーキにある文字に涙が溢れる。
『ハッピーバースデー』とケチャップで書かれたホットケーキ。
「凄い。ライ君は天才だね。最高の誕生日だよ」
私の言葉に彼が頬を染めた。
期待して良いのだろうか、彼も少しは私を想ってくれている事を⋯⋯。
手を合わせてライ君のお手製ピザを食べる。餃子の皮を円状に敷き詰めて、油でカラッと揚げて野菜炒めにチーズを乗っけて焼いたオリジナルピザ。愛情の味があるとしたら、こんな味なのだろう。心の底まで温かくなりそうな優しい味がした。
「こんな美味しいピザ初めて」
「本当に? 真夏ちゃんって褒め上手だな」
ライ君がクスクス笑う。こん風に好きな人二人きりで緊張する空間は初めてだ。
彼と出会ってから私は彼に夢中でバイト先に押しかけた。それでも、所詮は店員とお客。仲良くしていても距離感があったのは確かだ。
「涼波食品のレトルトの青椒肉絲を載せて焼いても美味しいかも」
「真夏ちゃんって本当に涼波食品が好きなんだね」
「大好きだよ。レトルトとか冷凍食品が多いから利便性ばかりに囚われてると思われがちだけど、凄く子供の健康とか考えてるの。働くお母さんの味方だよ。私、働くお母さんに憧れてるんだ」
私の母は所詮ヤクザの女。ヤクザの女は外で働いたりしないで、独特の世界の中で生きている。
母はその環境を愛しているが、私は居心地の悪さを感じていた。
「ホットケーキも食べてみたい」
私が手を伸ばした時にバスローブの紐がライ君に引っ掛かり、するりと解けた。ライ君が無言でその紐を握りしめる。
彼が私の肌けた体をじっと見つめてきて羞恥でどうにかなりそうだ。
私は慌てて自分の体を隠すように抱きしめた。
「どうして? 綺麗なのに」
そんな言葉をこんな時に掛けられる彼は、実は女慣れしているのかもしれない。
私を一目惚れさせるくらいの見た目の良い男だ。
彼にとっては自分に気持ちを寄せる女の子の一人をお持ち帰りできたくらいの状況だ。
そう思うと虚しさが押し寄せてくる。
心にずっと秘めていた想いを告げたくなった。
「ライ君は私にとって、この四半世紀生きて来た中で一番好きな生き物⋯⋯。ライ君は私の希望だよ。私はライ君が心から好き、でも、私は綺麗な子じゃないから、このバスローブの下を見た人間は卒倒するよ」
私の言葉に彼が目を瞬かす。
「今のって告白? 真夏ちゃんも俺を好きって事で良いんだよね」
「真夏ちゃんもって⋯⋯ライ君、モテるんだね」
私はその他大勢の一人である事を再確認しひどく虚しくなった。
「俺も真夏ちゃんが好きって事だよ。いつからだろう、分からないけれど些細な君との会話を宝物のように感じるようになってた」
お客と店員だった彼と私はそれ程お互いを掘り下げてはいない。ただ、いつも丁寧に車の窓ガラスを拭く彼が好きだった。短い時間で話し掛けて彼の情報を集めては何度も反芻した。
「嘘ばっか。ライ君、女から金を巻き上げる悪いホストみたい」
思わず苦笑いが漏れる。工場見学のガイドをしている時にも、お客様から好意を寄せられることは少なくなかった。私は自分に寄りつく人に距離を置いたが、ライ君は怖いもの知らずに受け入れるタイプなのだろう。誰にでも優しい彼が来る者拒まず、去る者追わずな様は容易に想像できた。
それまでニコニコしていた彼が急に射抜くような真剣な眼差しになる。ふわりと体が軽くなったかと思うと、私は彼に横抱きにされていた。
「ラ、ライ君?」
「嘘じゃなくて、本当に真夏ちゃんの事好きだって証明させて」
私は柔らかなベッドの上に下ろされた。シーツからライ君からいつも香っている爽やかな香りがする。
気がつくと私はライ君に見下ろされていた。
心臓が飛び出そうな程にバクバクする。
彼が私のバスローブの紐を全部引いてしまい、私は慌てて自分の体を隠す。
「男の人って華奢な女の子が好きだよね。実は私、腹筋六つに割れてるの」
私の言葉にライ君が吹き出す。でも、私は自分の体を見られるのが恥ずかしい。私は大した筋トレをしなくても筋肉が異常なくらいつきやすかった。細マッチョがモテるのは男だけだ。
着痩せして見える私は四十キロ台と思われがちだが実際は六十六キロ。
健康診断で体重計が壊れているのかと二度見されるレベルの私の体脂肪率は、アスリートでもないのに一桁台だ。
女の子らしい柔らかさもない体に触れられるのが怖い。がっかりされるに決まっている。
「俺は華奢な女の子じゃなくて、真夏ちゃんが好きなの」
昔の古傷を手当てして貰ったような感覚。
「私もライ君が好き! 本当に大好き」
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