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開廷
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「裁判長!」
黒い法衣をまとった検事役の内務省警備局長が、通る低い声で冒頭陳述を始めた。
ウィリアムの上司であるオールドマン伯爵である。
裁判長は、王立司法裁判所の長官がじきじきにつとめている。
法廷内の貴賓席には国王陛下と隣国ヴァロア王国の王太子殿下が並んで臨席している。
ヴァロア王国の王太子殿下は、当事者であるシャルル殿下の長兄だ。
「ここにいる被告テイラー家は、娘メーガンを使い、シャルル殿下を篭絡し操ることを画策し、わが国とのヴァロア王国との友好関係を毀損し断絶させることを図りました。
これは国家に対する裏切りに他なりません。」
三百人収容の大法廷に響く局長の声。
傍聴人たちは息をのんで成り行きを見守っている。
「この計画はテイラー子爵夫妻により巧妙に計画されたものです!」
局長は、被告席をズバッと指さしテイラー子爵一家を強くにらみつけながら声を張る。
「われわれは、本法廷で証拠を提示し国家転覆を企てたテイラー一家の罪を白日の下にさらし必ずや正しい裁きを与えるとここ誓います!」
法服の袖が翻る。局長の冒頭陳述は、まるで舞台俳優のセリフのようにかっこよくキマッた。
固唾をのんで見守っていた会場からはホウというため息とともに、小さな拍手も聞こえてくるほどだった。
裁判長が小さな咳払いをすると、再び会場は静かになった。
「わかりました。では、弁護人」
テイラー家の弁護士を務めるグラント氏は、野心家と噂される人物だった。
「検事の主張を認めますか?」
「いいえ、裁判長。私どもは検事の主張を全面的に否定いたします」
ファイルを片手にきっちりなでつけた金髪をかき上げながらグラント氏は会場を見渡した。どうやら若く自信にあふれたグラント氏は会場を沸かせた検事に対抗意識があるようだ。
「では、被告側の主張を述べてください」
「はい、裁判長。われわれは今検事が述べられた疑いのすべてを否定します。
メーガン嬢はただ純粋に高貴な男性に恋をし、両親をその娘の気持ちを後押ししただけなのです。想いの強さゆえに行き過ぎた部分や貴族社会の常識を外れる部分も多少あったかもしれません。しかし、国家転覆などという言いがかりをつけられるとは……あまりにもひどい。
勘違いも甚だしいとしかいいようがありません!」
グラント氏はちらりと被告席をみた。
そこには、長い収監と厳しい取り調べのためか、すっかりやせ細り、顔色が悪くなっているメーガンとテイラー夫妻と思われる中年の男女がいた。三人は灰色の粗末な服を着て、手枷をはめられそこに座らせられている。
メーガンは一年前の自信にあふれた美貌はすっかり色あせているが、目だけは異様に輝いている。誰かを探すように大法廷に集まった聴衆をギョロギョロと落ち着かなく見渡しているようだ。
テイラー夫妻はいまだに自分たちの置かれている状況が理解できていないかのように茫然とした顔をしており、弁護士の言葉も上の空のように見えた。
「私たちはどのような疑いに対しても無罪を主張する準備ができています。……以上です」
弁護士は改めて裁判長に向き直り、主張を終えた。
「両者の言い分は相いれないものだということが明白になったので、これより審議をはじめる。
まずは検事側の証人から!」
そこで検事席の末席に控えていたウィリアムがすっと立ち上がった。
わたしは自分のことのように緊張し、心臓を引き絞られるような感覚を覚えた。
「最初の証人は、テイラー家の元従僕であり、ヴァロア王国出身の渡世人、ドーブレを召喚します!」
ウィリアムが言い終わると同時に彼の背後の扉が開き、人影があらわれた。
……ついに裁判が始まったのである。
黒い法衣をまとった検事役の内務省警備局長が、通る低い声で冒頭陳述を始めた。
ウィリアムの上司であるオールドマン伯爵である。
裁判長は、王立司法裁判所の長官がじきじきにつとめている。
法廷内の貴賓席には国王陛下と隣国ヴァロア王国の王太子殿下が並んで臨席している。
ヴァロア王国の王太子殿下は、当事者であるシャルル殿下の長兄だ。
「ここにいる被告テイラー家は、娘メーガンを使い、シャルル殿下を篭絡し操ることを画策し、わが国とのヴァロア王国との友好関係を毀損し断絶させることを図りました。
これは国家に対する裏切りに他なりません。」
三百人収容の大法廷に響く局長の声。
傍聴人たちは息をのんで成り行きを見守っている。
「この計画はテイラー子爵夫妻により巧妙に計画されたものです!」
局長は、被告席をズバッと指さしテイラー子爵一家を強くにらみつけながら声を張る。
「われわれは、本法廷で証拠を提示し国家転覆を企てたテイラー一家の罪を白日の下にさらし必ずや正しい裁きを与えるとここ誓います!」
法服の袖が翻る。局長の冒頭陳述は、まるで舞台俳優のセリフのようにかっこよくキマッた。
固唾をのんで見守っていた会場からはホウというため息とともに、小さな拍手も聞こえてくるほどだった。
裁判長が小さな咳払いをすると、再び会場は静かになった。
「わかりました。では、弁護人」
テイラー家の弁護士を務めるグラント氏は、野心家と噂される人物だった。
「検事の主張を認めますか?」
「いいえ、裁判長。私どもは検事の主張を全面的に否定いたします」
ファイルを片手にきっちりなでつけた金髪をかき上げながらグラント氏は会場を見渡した。どうやら若く自信にあふれたグラント氏は会場を沸かせた検事に対抗意識があるようだ。
「では、被告側の主張を述べてください」
「はい、裁判長。われわれは今検事が述べられた疑いのすべてを否定します。
メーガン嬢はただ純粋に高貴な男性に恋をし、両親をその娘の気持ちを後押ししただけなのです。想いの強さゆえに行き過ぎた部分や貴族社会の常識を外れる部分も多少あったかもしれません。しかし、国家転覆などという言いがかりをつけられるとは……あまりにもひどい。
勘違いも甚だしいとしかいいようがありません!」
グラント氏はちらりと被告席をみた。
そこには、長い収監と厳しい取り調べのためか、すっかりやせ細り、顔色が悪くなっているメーガンとテイラー夫妻と思われる中年の男女がいた。三人は灰色の粗末な服を着て、手枷をはめられそこに座らせられている。
メーガンは一年前の自信にあふれた美貌はすっかり色あせているが、目だけは異様に輝いている。誰かを探すように大法廷に集まった聴衆をギョロギョロと落ち着かなく見渡しているようだ。
テイラー夫妻はいまだに自分たちの置かれている状況が理解できていないかのように茫然とした顔をしており、弁護士の言葉も上の空のように見えた。
「私たちはどのような疑いに対しても無罪を主張する準備ができています。……以上です」
弁護士は改めて裁判長に向き直り、主張を終えた。
「両者の言い分は相いれないものだということが明白になったので、これより審議をはじめる。
まずは検事側の証人から!」
そこで検事席の末席に控えていたウィリアムがすっと立ち上がった。
わたしは自分のことのように緊張し、心臓を引き絞られるような感覚を覚えた。
「最初の証人は、テイラー家の元従僕であり、ヴァロア王国出身の渡世人、ドーブレを召喚します!」
ウィリアムが言い終わると同時に彼の背後の扉が開き、人影があらわれた。
……ついに裁判が始まったのである。
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