細雪、小雪

松井すき焼き

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「香代!」
赤目は香代と雪の暮らしていた小屋へ急いだ。
たどり着いたそこにあったのは大量の死体と血まみれで横たわる香代の姿だった。
香代の腹部には深い傷口があった。赤目はかけより、香代を抱き上げた。
「大丈夫か?誰にやられた」
香代は赤目に目を向けると笑った。
「・・・・雪ですよ、あなたを消そうとした」
わずかに赤い目を見開いたが、それだけだった。
「あの子を殺してください」
そう言い残し、香代は静かに目を閉じた。

義久は鈍い痛みとともに、目を覚ました場所は見知らぬ屋敷だった。
「・・・友野様」
義久の主の友野の王が側に正座で座っていた。
義久は夢を見ていた。 
赤い目をした自らが、優しかった母と父を殺しているのだ。そうしていると何故だか満たされたような気がしていた。
何故だろう?こんな気持ちになるなど初めてだ。
満たされた義久の気持ちは友野の怒鳴り声によって打ち消された。
「なんたる失態だ!友野国一とうたわれた剣の使い手がこのざまか!」
「申し訳ございません」
「香代姫が殺されたそうだ。鬼に手垢がつけられた娘だが、利用価値はあっただろうに」
「申し訳ありません」
「この役立たずが!」
義久の髪をつかんで友野は引き上げる。
「次失敗したら命がないと思え」
「はい」
 友野は障子を乱暴に引き上げ、去って行った。
友野の王の弟、友野義久。王にもなれない義久は、ただの政治の道具にしかならない。
義久は王の犬だ。それだけが自分の存在理由だ。
「兄君様はおかえりになりました」
義久の部下、東(ひがし)がそう知らせた。
「兄ではない。王とよべ」
「友野様ですが」
「なんだ」
東は言いにくそうにくちごもっている。
「友野様に都の帝は、すぐに隣国淀に進軍せよとのことを申し渡されました」
「我が国を奪っただけではなく、のうのうと言いうな。艇の良い厄介払いか。父上と母上はどうしている?」
「・・・連絡はございません」
義久は高らかに笑った。夢の中で義久は母やあんなに尊敬しているはずだった父を殺した。
そして感じた気持ちはなんだ。悲哀でもなかった。ただの解放感だけだ。
父と母はもういらぬ存在となっていた。
「東、あの場にいた男はどうした?」
「あの場?」
「あの赤目の男と一緒にいた男だ」
「延が捕えて独房に入れているようです。先ほど友野様からの連絡で、すぐに友野様とともに義久様にもそちらに向かうようにと」
「ではすぐに向かおう面白い話がきけるかもしれん」
「はい。ですが義久様しばらく安静になさったほうが」
「大丈夫だ」
「では今支度をしてまいります」
義久は席を立ち、静かに礼をして障子を閉めた。
長い廊下で見知らぬ顔女御とすれ違った。見たことがない女だ。友野様の新しい愛人だろうか。

王族御用達の牛舎が道を通る。
牛舎の横を歩く、華やかで凛々しい一人の男の姿。人々はそれが友野の国の王の弟、義久であることを知っている。
凛々しい姿。だが義久の右腕には包帯が巻かれていた。義久の痛々しいその姿に下座している女子供は小声で悲鳴をあげていた。

友野と義久の二人は、牢屋に入っている赤目の鬼の傍にいたという二人の人物に目を向けた。
一人は小汚い恰好をした中年の男。もう一人は、子供。
「その子供は?」
友野は牢の見張りの男に問いかける。
「香代様の傍にいた子供で、赤い目の男の関係者ではないかと連れてきました」
見張りの男はそう答えた。
友野は牢にいる幼い子供に目を向ける。その見知らぬ子供の姿に友野はくぎ付けになった。なんと美しい子供だろう。
色素の薄い目。
この子供は使えるかもしれないと、友野は確信する。この美しさならば、帝もたぶらかせる。
「そこの子供。お前の名前は何という?」
友野の問いかけに、子供は不思議そうに光の加減によって黄金色に見える瞳を瞬かせた。
「・・俺は雪。お前は」
子供は生意気そうに友野の王の身分も知らず、かしこまらずに答えたのに、友野の王は眉をしかめた。
「私は友野の国の王だ。言葉づかいに気をつけろ。貴様は何故女なのに、俺などという?」
「女じゃない俺は男でもない」
「ふざけるな!どう見ても女だろうが」
くすりと、雪は微笑んだ。
「もういい。もう一人の男は?」
友野が顔を向けると、独房の中の男はこちらを見て笑った。友野の王はその薄汚い恰好の男へ問いかける。
「お前の名は?」
「郷」
「お前はあの赤目の男を知っているのか?」
郷は頷いて答える。
「ああ、化け物だ。あいつは自らを赤目と名乗っていた」
「何故あの化け物と共にいたのだ?」
「さぁ知らんよ。あの男は俺の彫った仏をみたいといっていた」
自らは化け物のくせに、何故か郷を助けた。俺の彫った仏をみたいからなのか?
「異教の神を、か。あの赤い目といいもしかしてあの男は異国からの来訪者なのかもしれない」
日の国にはありえないあの赤い目を友野は思い出す。友野の言葉に、郷は首を横に振る。
「違いますよ、あいつは化け物なのです。野党に襲われ深い傷を受けて死にかけていた私を、あの化け物は自身の血を俺に与えることによって、俺の傷を治してしまったのですから」
「なに?血?」
「あの化け物の血はどんな傷でも治す不老不死の元なのだといっていました。あの赤い目の化け物は不老不死なのかもしれません」
郷は赤目が不老不死だと嘘をついた。自らを不老不死だと郷には赤目は一言も言わなかったが、あの化け物が恐ろしくてならなかったし、郷自身目の前の偉い友野の王に殺されたくはなかったので、洗いざらい話すことにした。
郷の助からないはずの深い傷もあの赤い目の化け物は、自らの血で治した不老不死の血を持つ化け物。
「それは真か?」
「・・・・はい」
そう郷は答えた。郷は真偽を確かめずに嘘かもしれない答えを言った。郷はあの化け物を憎んだ。だからあの化け物は不老不死の化け物として、狩られればいい。こんなことになったのはすべてあの化け物のせいだと思う。
「義久、牢の戸を開けよ」
友野の命令によって義久は門番に牢の扉を開けさせ、牢屋から出てきた友野は郷の腹を刀で刺し貫いた。
「ぐおおおお」
郷は獣のような叫びをあげ転げまわっていたが、すぐに静かになった。
そしてしばらくたつと、郷はなにごとなかったように起き上がった。
「なんと!!」
友野は驚きに息が止まった。本当に郷は死なないのだ。
「本当にあの男は不老長寿の源なのか・・」
「どうして?」
郷は血を吐きながら、言った。
郷は、自らが刀で刺されても死ねない化け物になってしまったらしいことに呆然として、血まみれのおのれの両手を見つめた。
・・・・・俺はしなないのか?
郷の疑問に答えられる、赤目はいない。
友野が刺したはずの人間がしなないという恐ろしい状況に、友野は愕然としていた。
あの赤目の化け物殺さなければというおもいと、永遠の命がほしい想い。友野は二つの相反する気持ちで狂いそうになる。永遠の命もほしいが、あの化け物も殺さなければならない。衝動のまま、友野は郷にむかって刀を振り上げた。
「黙れ!!そんなはずはないっ」
友野の振り上げた刀で郷の右肩は切り裂かれ、鮮血が吹き出した。
実直で穏やかだった友野の気が狂わんばかりの激しい怒鳴り声に義久は友野の王の精神を不安に思う。
「友野の王よ、安心してください。あの化け物はこの義久が必ず捕まえてごらんにいれます」
「あ、ああ、すまなかったな、義久。気が立っていたのでな」
だが友野の目から狂気の色がぬけるわけがなかった。
妖怪など自己の認知をこえるものは友野にとって耐えられない代物だった。
「・・・いえ。ご安心してください。必ず私があの鬼を討ち取って見せます」
義久の力強い言葉に血まみれの友野は強くうなずいた。
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