【完結】私の可愛い大神官さま!~念願叶って大神官様の『花嫁』に選ばれたので絶対トリコにして差し上げます~【R18】

しゃでぃや

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六話目 儀礼長の進言

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”恋に悩む女の溜息ほど、この世に美しいものはない
けれど恋に悩む男なんぞは、腐った林檎のようなものだ
幾ら往生際悪くぶら下がったとて、溜息一つで真っ逆さまに落ちるだけ
 
『ケイラム・オルハーン言行録』より”
 
※※※
 
 王都イズファハーンの夏といえば、神聖王国の主神である太陽に最も愛された季節である。それゆえ、太陽の男神を称える宗教儀式や祭り、市民主催の花火や夜市など、朝から晩で連日連夜行事が目白押しだ。
 そうなると、その数多ある祭礼を差配する神官達はその準備に走り回ることになる。この夏の盛り、王都で最も忙しいのは氷屋でも祭りの露店でもなく、儀式や祭礼を取り仕切る太陽神殿の儀礼長だと言われるほどである。
 その日、大神官イルディスの書斎を訪れたのは今王都で最も引っ張りだこの儀礼長その人であった。
 
 ※※※

 「やぁやぁ!神聖王国の偉大なる太陽、大神官猊下におかれましては、本日もご機嫌うるわしゅう!」
 「………ケイラム……再三言うが、その道化者みたいな馬鹿げた挨拶は何とかならんのか?」
 「猊下のお立場に相応しく、気分を高めることも必要かと愚考致しましたゆえ」
 「……必要ない」
 
 書斎で机に向かうイルディスの渋面に対し、宗教画からそのまま飛び出してきたかのような美しい金髪碧眼の男は、にこやかに笑顔を向ける。完全に面白がっている。
 ケイラムと呼ばれたその男はイルディスと同じく先の代替わりの際に神託によって儀礼長を拝命した。イルディスとは見習い時代から付き合いのある、数少ない同期の正神官であった。
 儀礼長は大神官の補佐役のひとりであり、一般の信徒たちも多く参加する祭礼で中心的役割を担う太陽神殿の顔である。普段から神殿に参拝する信徒たちの目に触れる機会も多く、容姿端麗かつ堅物過ぎず適度に気の抜けた人好きのする性格のケイラムは、まさのうってつけの男だ。

 「まぁ、冗談はさておき……」
とケイラムは素知らぬ顔で夏の祭礼行事の進展具合を説明しつつ、大神官の署名が必要な書類を机の上に次々積み上げる。
 「…………では以上、お目通しの上ご署名頂きたく存じます」
 そしてわざわざ足を運んだ用事がひと段落したのか、許可を求めるでもなく対面の椅子にどかりと幾分乱暴に腰を下ろした。
 ケイラムほどの美形となると、足を投げ出す粗雑な仕草さえ絵になる。
 青年時代は初心な乙女を一ダース纏めて一目惚れさせる程の輝く美貌であったが、年を経て衰えるどころか益々磨き抜かれ、今や乙女とその母親も二ダース纏めて一目惚れさせそうだ。年はイルディスとさほど変わらない筈であったが、身に纏う空気は自信と余裕に満ち溢れて若々しい。イルディスからすれば、眩し過ぎてすこぶるいけすかない美中年である。

 「……用が済んだならさっさと帰れ。『王都で一番お忙しい』儀礼長殿」
 「ふ、ははっ!つれないこと言うなよ、イルディス。どんな高貴な貴婦人でさえ引き留めたくとも叶わないお忙しい儀礼長殿を早々に追い返そうだなんて、とんだ贅沢者だ」
 長い付き合いの上、同期で気の置けない仲だ。へらへら笑って冗談めかす。勿論ケイラムはこっちが素である。つくづく調子の良い男であった。
 「毎日毎日、むさ苦しい神官共に追い回されているのだ。少しくらい休憩したってバチは当たるまい。どうせ追い回されるなら美女の方が絵になるだろうに……神の思し召しとは皮肉なものだ」
 ケイラムはうんざりした様子で溜息をこぼす。忙しいのは事実のようだ。
 「そんなことより、頼んでいた『聖婚』の無効と廃止に関する訴状はどうなっている?」
 友であり部下を労うでもなく相変わらず厳めしい表情のまま尋ねるイルディスに、ケイラムは形の良い片眉をわずかに歪め、書類の束を差し出した。受け取り、軽く目を通せば、頼んだ通りの内容がそつなく纏められている。
 「でも、そこまでする必要ないんじゃないか?巫女様……ララファ様だったか。可愛いし、いい子そうだ」
 可愛いのは確かにそうだ、と一瞬深く頷きかけた己をイルディスは心の中で叱責する。軽く咳払いして厳めしい顔を保つことに何とか成功した。
 「……そういうことではない。幾ら神殿の伝統とはいえ、人倫に反し人道にもとる、個人の尊厳を冒す旧習は廃すべきなのだ。民草の安寧の為とはいえ、この神聖王国の平安が一人の乙女の献身と犠牲の上に成り立っているのだぞ!」
 「貴族や王族の婚姻なども、どこも似たようなものだと思うがなぁ。それに、あの巫女様はこの王国の犠牲というには……」
 
 ケイラムは理解できない、とばかりに肩を竦めた。
 イルディスとララファが太陽神殿の祭壇で『聖なる婚姻』を神に誓う際、儀礼長として最も近くに立ち会ったのはケイラムだった。
 ケイラムは知っていた。あの娘、国家安寧の贄となる悲壮感どころか、今にも舞い上がりそうなくらい嬉しそうに震えていたではないか。緊張だか何だかで上の空だったイルディスは気づいていなかったのだろう。この陰気で拗らせた友人が何を勘違いしているのか、とにかく面白そうなので暫く黙っていることにしよう、とケイラムは思った。
 面白いことは良い事だ。
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