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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第20話 ちょっとゆっくりする。-みそ汁と漫画本とお風呂-

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 30階層でフロアボス――ゴブリンキングを倒した俺達は、ここで泊まることにした。

「今日の朝の件もあるし、油断禁物だ」

 入り口も31階層への扉も閉まっているが、念の為しっかりと《ロックウォール》を張る。

 SSランクスキル『魔法大全』のレベルが、8に上がって使えるようになった地属性魔法の《ロックドーム》。
 防御系の魔法だが、キャンプでも使えるんじゃないかということで試してみる。


 ゴッゴゴ、ゴゴゴゴゴッ!

 テントがすっぽり入ってもまだ余裕があるくらいの広い“岩のドーム”が出来た。

「出入り口を作ったらカマクラみたいで最高じゃないか。テントも要らないかな。照明はアニカに任せるぞ」
「はい! ……かまくら? って何ですか?」
「ああ、雪をカチカチに固めて中をくり抜いたものだよ」


 寝床の準備もそこそこに、俺は料理の用意をする。
 日本を出て5日? 6日? どっちでもいいが、無性に味噌汁が食べたいのだ! 豆腐の!
 これまでは味噌がアニカやアニタの口に合うか分からないから、パスタやシチュー等を作っていたが、彼女達にも食べてもらおう。
 味噌汁ならば米も、ということで俺が1人で準備する。

 ミケ、アニカ、アニタの3人はマットレスの上で漫画を読んでいる。
 家の家電製品以外の殆どの家具を空間収納に入れているので、2日目以降は俺の小さな本棚を出している。
 と言っても、ボクシング漫画と秦の始皇帝が天下統一を目指す漫画、ロードバイク競技の漫画しかない。


「でんぷし~ろーる」
「シュッシュッ! フリッカーなのじゃ!」
「蛙飛びー!」

 今日はボクシング漫画の真似をして遊んでいる。
 ……女の子が読むような漫画や雑誌なんて持って無いしな。……買っときゃよかったかな。

 しかし、こいつらはレベルが上がってるから身体能力も高くなってて、まるで本物のボクサーの様だな。それにしても、アニカの技のチョイスは何なんだ。

 昼間はアニタが、隙あらばファルファルしようとしてたからな。止めたけど……
 


 途中からミケとアニタの試合の声しか聞こえなくなったと思ったら、アニカが真っ赤な顔で俺の所へやってきた。

「あ、あの……私、私も大きくなったらこんな風になれるでしょうか?」
 1冊の雑誌のページを開いて持ってきた。

――どれ?!!!!!!!!! 豊満なお胸のセクシー系の御本じゃないか!!!!!!!

「あーっ! これは見ちゃダメなヤツー!」

 パッと奪い取り、バーベキューコンロの火に目をやる……燃やそうか迷ったが、空間収納に入れとくことにする。
 本棚に入れっぱなしだったか?

「い、いっぱい食べて、いっぱい寝ると大きくなるよ。だから、本の事は内緒な? なっ!」


 騒ぎを聞きつけたのか、ミケとアニタもやって来た。が、2人は匂いに釣られた様だ。

「さっきから美味しそうな匂いがするのじゃ。ユウトの家の料理と似た匂いじゃのう。今日はなんじゃ?」
「豚肉の生姜焼き定食だよ。あ、ミケが初めて家に来た日の料理だ!」
「おお!あれも美味かったのぉ~」

「初めての匂いです。日本の料理ですか?」
「いいにおい~」
「そうだよ。簡単なものだけどな。もうちょっとで出来るよ。皆で準備を手伝ってくれ」
「「「は~い!」」」


 あ~うまい。久しぶりの味噌汁!

「熱いから気をつけて飲めよ~。豆腐も熱いからな」
「あちゅい!」
「アニタよ、慌てるでない。フーフーして食べるのじゃ」
「んんっ! おいしいです!」
「じゃろじゃろ? ユウトのご飯は美味しいのじゃ! エッヘン」
「ミケが自慢してどうするんだ? だいたいこっちでも晩御飯は俺が作ってただろ」
「「「アハハハハハ」」」

 やっぱり、笑い声のする食卓っていいなぁ。

「ニア、味はどうだ?」
「はい。これも初めての味で、とても美味しいです」

 ニアは別に食事を摂らなくても平気だが、皆と食卓を囲みたいのと、味に興味があるとのことで味見程度に食べている。
 ただ、ニアのサイズに合う食器が無いので、小皿を使ったり、21階層以降は葉っぱで器を作ったりしている。

「さて、後はケーキじゃな」
「はいはい」


 夕食を終え、片付けをアニカとアニタに任せて、俺はもう1つやるべき事がある。
 そう、風呂だ!
 昨日のミケ達の水浴びの時から風呂に入りたくて仕方なかった。
 昨日は我慢できたが、1日で限界だ。

 もう1つ《ロックドーム》を作って、その中で試行錯誤すること30分。
 五右衛門風呂の釜でも、いやドラム缶でも買っておけば良かったと後悔しながら、岩を削り大人2、3人入れるサイズの湯船を完成させた。

 湯船を綺麗にして湯を張って、久しぶりの風呂を堪能している。

「あ~、気持ちいいぃぃぃ。生き返るな~」

 やっぱり《クリーン》だけとは気分が違うな、気分が。


「おい、こら! お主ら、待てぃ!」
 一応見張りに立ってくれているミケの声がする。

「待たぬか! せめて巻けぇい!」

 ん? この間みたいに喧嘩か?遊びか?
 訝しんでいると、アニカとアニタがタオルを巻いて走って来る。

「おいおいおい、待ちなさい。順番に入らせてやるから待ちなさい!」

「お主らには負け~ん!」

 ミケが見張りそっちのけで白狐の姿となって、走っているアニカとアニタの頭上を飛び越えて湯船にダイブして来た。

 バッシャーン!

「うぇっぷ! ミケ! 飛び込むもんじゃ――あっ!?」

 バシャン! バシャン! 2人も飛び込んで来ちゃった。

 念の為にタオルを巻いてた俺の先見の明、グッジョブ!


「……あのさ、四角い風呂なんだからさ、角に入れば4人で丁度いいと思うんだけど、なんでくっついてるんだ?」

 両サイドにアニカとアニタがいて、ミケは俺の懐にいる。

「良いではないか。我は定位置におるだけじゃ」
「いや、そういう事じゃないと思うが……」
「お嫌でしょうか? ユウトさん」
「いや、そういう事はないが……。あ、そうだ! 入浴剤があったはず、……あった!」


「あ~! しゅわしゅわ~」
「おいユウトよ、風呂にはずっとお主と入っておったが、これは初めてじゃぞ? 隠しておったな~? えいっ!」
「うわっ! こらミケ!」
「あはは~、え~い!」
「やったわねーアニタ! それ!」

 お湯のぶっかけ合いが始まってしまった。

「は~、私は初めてですが、いいものですね、お風呂って」

 いつの間にかニアが隣に入っていた。

「うわっ! ニア! いたの? ってかお風呂入れたんだ?」
「ええ。……見ます?」
「あ、いや、……興味はあるけど結構です。……溺れないようにな」
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