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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第33話 グンダリデ、激昂する。

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「ユウトよ、釣れたぞ? 指揮官」

“ミケ、お前がそいつとやるか?”
“いや、我は下に行きたいのじゃが……いいかの?”

「お、お前達! 何を黙っている! 私の隊はどうした!」

 女が喚いているが無視だ、無視。

“そうか、いいぞ。ここは俺がやろう。スロープは塞いでいないかわりに、出た所に20階層の時みたいに三角になるように壁を立ててあるから”
“20階? どんなじゃったかの?”
“アレだアレ、モンスターがわらわら出て来た時のセーフティーゾーン”
“ああ! 思い出した。了解じゃ”

“今、アニカ達にも念話するから待っててくれ”
“うむ、引き付けておく”

 無駄な情報を敵に与えないように《テレパシー》をスマホで発動する。

“アニカ、アニタ、聞こえるか? テレパシーを使ってるから、声にしなくてもいいぞ”
“はい、聞こえます。ユウトさん”
“くるしー! お姉ちゃん苦しーって!”
“どうした? アニタ!”
“いえ、アニタったら、さっきからミケさんやユウトさんに声を掛けようとしていたので、口を塞いでるんです”

“くるしー”

“こいつらにテレパシーみたいな魔法やスキルがあるかも知れないから、こちらの情報はなるべく隠しておきたいんだ。もうしばらく隠れててくれ”
“はい。わかりました”

“くるしー”

“……アニカ、アニタが声出さないって約束したら、手を離してやってくれよ?”

“くるしー”

“で、でもアニタは飴の事をとぼけてましたから……”

“きびしー”
 
 ……許したはずなのでは? 相当根に持ってるな……。アニタにもまだ余裕がありそうだし、いいか。

“じゃあ、大人しくしててくれ”


 ミケに目配せをする。
 ミケも俺と同じ事を考えているようで、アニカ達の存在を悟られないように、巣の方向に女の背中を向けさせるような方向に跳ねた。

「お、おい! どこへ行く!」

 そして俺が入れ替わりで女の前に立ち、ミケは巫女姿に戻って下に向かった。

「ヒト族の男! 邪魔をするな! そこを退けぇ!」
「退けと言われて退く奴がいるか? それにさっき聞いていただろ、俺にはユウトという名前がある。お前は?」

 女の目に力が宿った。

「自ら名乗り、私にも名乗りを求めるという事は、私と戦うという事か?」
「ああ、そうだ。お前も早く俺を倒さないと、部下が蹂躙されるぞ?」
「ふふっ! 面白い事を言うではないか。確かにあのじゅうじ――獣が強かろうが、我が隊は3,000だぞ? 必ず仕留められよう」

 そして、思い出したかの様に聞いてきた。

「お前たちは上から……、外からやって来たのか?」
「どうだかな」
「私の弟の隊とすれ違ったはずだ! どこですれ違った!」

 弟? ……もしかして、あの馬鹿の姉か?

「ここから結構上ですれ違ったぞ。俺は」

 嘘は言っていない。俺はすれ違っただけ。

「ちっ! あの子ったら! ……いいわ、相手してあげるわ。そして、すぐに追いついて取っ捕まえてやるわ」

 口調が変わったな。あれか、弟思いの姉ってところか。

「あー、弟に思いを馳せるのはいいが、これに見覚えはあるか?」

 ストレージから角を取り出し、ポーンと前に放る。
 カラーンと転がる角を見た女の顔色が青ざめる。

「こ、これは! ……どういう事だ?」
「さっきも言ったじゃないか、蹂躙されるって、2,000をやれたら3,000だってそう変わらないだろ?」

 俺の言葉が聞こえているのか聞こえていないのか判らないが、また女の顔色が変わっていく。
 今度は真っ赤になり、髪の毛も若干逆立っている。

「許せん! これは我が弟グンガルガの角! 殺したな! 奪ったな! 私の弟をーーーー!」

 怒気溢れる声をあげ、俺を睨みつけている。

「我が名はグンダリデ、我が兄ガンダーに代わり、弟グンガルガの仇を討ぅぅーーーーーつ!」

 正確には俺じゃないけどな、……仇。

「来い!」


 グンダリデが、髑髏どくろをさながら携帯ストラップの様に垂らした大斧を構えて、俺に一直線に突進してきた。
 俺も刀を抜いて、構える。
 
 ……本当は《センスブースト》を使いたいところだが、それに慣れてしまうと普段の剣の腕が鈍りそうなので使わない。
 【聖剣技】と同じようにいざという時には頼るかもしれないが、どちらも地力があった方が効果が高くなると思うからな。

「死ねぇーい!」
 
 俺から見て左上から右下への袈裟斬り。
 頭に血が上った状態での大振り、仮にも3,000の将ならば、もっと冷静でいなければダメだろう?
 俺が動かないと思っている。
 
 ちょっと左後ろに引くと、当然空振って地面に斧が刺さる。
 ガラ空きになったグンダリデの鎖骨に刀を振り下ろし、素早く刀を引く。

「ぐわっ!」

 体勢を崩した所に重い一撃をくらったグンダリデは苦痛に顔をゆがめて膝をつく。
 これで首が丁度いい高さに下がって来た。

“アニカ。アニタの目を塞いで、アニカも目を閉じていてくれ”
“えっ? は、はい、わかりました!”

「おのれ~」

 キッと俺を睨むが、無駄だ。
 野球のバッターのレベルスイングのように刀が水平にグンダリデの首めがけて走り、スパッと両断した。

「感情にまかせて突っ走ってはいけない」

 すぐさま頭と、心臓の鼓動に合わせて血を出している胴体を収納する。

 刀を納めると、上から2人が下りてきた。

「すぱーって切れたね! すぱー!」
「きれいな動きでした」
「あの~、目をつむっててって言ったつもりなんだけど。……それはさておき、2人もよく大人しくしていたな、特にアニタ」
「くるしーかった」
「もう! 鼻は開けてたでしょ? 次から鼻も塞ぐよ!」

 いや、それは殺人行為に近いぞ?


 せめて姉弟で弔ってやるかと、グンガルガの角も拾っておく。

「よし、こっちは片が付いたから、下に行こうか。2人も出番だぞ?」
「はい、頑張ります!」
「がんばる~!」



 下に行くと、魔王軍のほとんどが倒れていて、51階層のモンスターのロックリザードがひっくり返っていた。

「ミケさんの雷ですね」
「ああ、死んでるわけではなさそうだ。2人は手前からトドメを刺していってくれ」
「「はい!!」」

 さて、ミケは……っと、いた!

「ミケ、ここにいたか」
「な、なんじゃ、早かったのぅ」
「いやいや、ミケも凄いな。みんな倒れてるじゃないか……ん?」

 ミケがトドメを刺した魔人族やモンスターの損傷がひどい。

「これ、やり過ぎたの?」
「ま、まぁ、そうじゃ、手加減を間違っての。これからは間違わんじゃろ」
「そうか? まあ別にいいんだけど。……昼飯が遅くならないようにちゃちゃっとやっていくか」
「うむ。ここら辺は我に任せるのじゃ」

 ……挙動不審だったり、ほっとしてたり、面白いな。


 その後、何回か雷を放ったり、俺の魔法で動きを止めたりして、4人で3,000近くの敵を3時間ちょっと掛けて葬っていった。
 俺は途中から、穴を掘って魔人族の墓を作ってやり、グンダリデもグンガルガの角と一緒に弔ってやった。
 斧は貰ったけど……

「ふ~、頑張ったな、みんな」
「そうじゃぞ? 昼は特別なものを食べないとな? アニカ達もそう思うじゃろ?」
「「うん!」」
「そうだよなー。じゃあ、ホールケーキでも出そう」
「「「やった!」」のじゃ!」

「1人1つじゃろ?」
「1つをみんなで分けるに決まってるだろ!」
「何じゃ~」

 本気で残念がってるから……ミケ、恐ろしい子。
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