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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第41話 70階層フロアボス戦。( 1/2 )

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 昨夜の“黒い物質事件”からなんとか立ち直り、昼前には69階層も掃討できた。
 68階層からは、洞窟の景色から墓地のような景色に様変わりし、モンスターの種類も増えた。
 
 ミイラや、騎士の恰好をしたスケルトンナイトがうろつき、襲いかかってくる。
 墓の下からグールやゾンビがモコモコ出て来て、アニカは最初こそびくびくしていたが、落ち着いて魔法で対処していた。
 ミケは時々1人で69階層へ行ったり、自由に動き回っていた。


「調子のいい時、順調な時ほど慎重に!」という事で、60階層まで戻って昼食を摂る。

 昼食後は、ガンダー軍殲滅後以来のステータスチェックをする。

 名前 : ユウト ババ
 レベル: 69
 スキル: S・聖剣技〈10〉 SS・魔法大全〈9〉
      A・言語理解 A・魔力回復‐大‐ A・使用魔力低減‐大‐ B・探知〈3〉 

 名前 : アニカ クマル
 レベル: 67
 スキル: A・言語理解 A・強靭〈9〉 C・槍技〈9〉 C・光属性魔法〈9〉
      C・察知〈8〉
              
 名前 : アニタ クマル
 レベル: 67
 スキル: A・言語理解 A・感知〈9〉 C・短剣技〈9〉 C・無属性魔法〈9〉


 みんなレベルは6~8上昇し、伸びたスキルもある。
 アニカの光属性魔法が〈9〉となって、高等魔法の《ピュリフィケーション浄化》を使えるようになった。
 熟練度が低いので、俺のよりも弱いけれど、充分に役立つだろうな。
 
 俺も念願の《デリートマジック》が解放されたので、ひそかに嬉しかったりする。

 ミケは相変わらずオープンにしないが、レベルが64から70に上がり、【探知】が〈4〉から〈6〉になったそうだ。


 69階層に転移し、70階層へのスロープを下る。

 ゴゴゴゴッと重い音を立てて扉が開いた。

 部屋はガランとしていて、奥には昇り階段があり、その先にはまるで巨人の王の玉座の様に飾り立てられた大きな椅子がある。

 そこには、この部屋の主が座っていた。
 見た目はスケルトンだが、魔導師のローブを纏い、宝石の様な石が填め込まれた巨大な杖を持っている。そして、全身が黒いモヤの様なものに包まれている。

「……リッチだ」

 リッチがゆっくりと立ち上がっていく。

「ユウ――」

「――《ライトドーム》! 全員に《ライトフィルム》、もう一つ! 前面に《ライトウォール》」

 いやな予感がしたので3重に防御魔法を発動する。ミケの呼びかけとほぼ同時だった。

 ソイツは完全に立ち上がったと思ったら、いつの間にか俺達の目の前にいた。
 瞬間移動? いや、転移か?

 リッチが俺達のライトウォールに杖をかざすと、壁が薄まり、消えて行った。
 吸収したのか?

「《ピュリフィケーション》!」

 ひとまず時間が欲しいので浄化を使う。
 清浄な光が放たれると、リッチはそれを嫌い遠ざかった。

「みんな! 大丈夫か?」

 大丈夫では無いようだ。
 アニカとアニタは、リッチの異様なオーラに気圧されて、俺とミケの後ろに隠れている。
 2人とも小刻みに震えている。

 俺達が時間を必要としている事などお構いなしに、リッチが杖をゆらりと振る。
 すると、地面からスケルトンナイト3体がスーッと現れた。

「ユウト! あれは我が相手をしておく故、アニカらをなんとか立ち直らせるのじゃ!」
「わかった! ちょっとの間、頼んだ!」

 ミケが白狐の姿になり、スケルトンナイトに向かっていった。


 俺はしゃがんで2人に目を合わせる。ちょっとしたパニックになっているようだった。

「アニカ! アニタ! しっかりしろ!」

 俺の呼びかけに2人とも我に返った。

「ユウトさん、ごめんなさい! 急に何が何だか分からなくなって……、ねっ?」
「うん。あれが来たら変になっちゃった」
「いや、今は気にしなくて大丈夫だよ。あれは異様な存在だから無理もない」

 慰めはここまでにして、2人にリッチについて教える。

 ミケはスケルトンナイト3体を爪撃で倒しながら、リッチに雷を放って気を引いてくれている。
 リッチは続けざまにスケルトンナイトを呼び出した。

「あれはリッチというモンスターで魔法が使えるようだ。いっぱい魔力を持っていて、相手を怖がらせたり、混乱させたりしてくる。そして、あの黒いモヤモヤに触られたら、魔力とか、元気を吸われちゃうから、常に《ライトフィルム》があるようにしないといけないぞ?」
「「うん」」

 リッチは膨大な魔力量を持ち、闇系統魔法、特に精神干渉系の《フィアー恐怖》《コンフュージョン混乱》《ブレインウォッシング洗脳》を多用。
 更に、身体を覆っているモヤの様なもので相手に触れて、気力や生命力、魔力を吸い取る各種ドレインを使ってくる。

 このことを、雰囲気に気圧されていて冷静さを失っていた2人に解りやすい言葉で伝えると、言葉が呑み込めて落ち着いた様だ。

「よし、じゃあどうするか? だけど、実は、今の2人でも十分戦えるんだぞ? それに、俺とミケもいるんだ。怖がらなくていいんだよ」
「私達でもできるんですか?」
「ほんと~?」

 ミケがどんどんスケルトンナイトを倒しては、リッチが呼び出す、というのを繰り返している。

「本当だ。あれを見てみ?」

 リッチを指差すと、アニカとアニタも見る。

「最初に目の前にきた時よりも少~し小さくなってるのが判るか?」
「う~ん? そう言われれば、そんな気も……」
「うん! 小さくなってる!」
「だろ? リッチに《ピュリフィケーション》を当てたり、スケルトンナイトを呼び出させて魔力を使わせれば、少しずつ弱らせることが出来るんだ。」
「「うん」」

「今は、ミケが1人で頑張ってるから、交代して、アニタがスケルトンナイトを倒して、アニカがリッチに《ピュリフィケーション》を放つんだ」
「はい! やってみます!」
「がんばる~」
「リッチをちゃんと見て、黒いのが伸びてきたら避けるんだぞ!」
「「はいっ!!」」

 アニカとアニタに《フライ》を掛け、《ライトフィルム》を張り直してから送り出す。

 入れ替わりにミケが戻ってきたが……

「どうしたのじゃ? ユウト?」

 俺は、言葉を失っていた。
 ミケが……ミケが、黒いモヤまみれで戻って来たのだから!

「ミケ、……お前大丈夫か? モヤまみれだぞ?」
「モヤ? 別に何ともないぞ? ちょっと身体がダルくてくらくらするがのぅ」

 なんか吸われたからと思うぞっ! それは!

「《ピュリフィケーション》! 一応《リカバー状態異常回復》も」

 ミケの身体からモヤが晴れていく。

「あれでよくピンピンしていたな?」
「まぁ、我じゃからな! それより……」
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