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第3章 カストポルクス、真の敵。

第102話 アニカとアニタが下す罰。

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 メルガンにもメルティナにも抵抗の意思は無さそうだが、とにかく2人を縄で縛る。
 首輪には鎖を繋ぐ為のフレームというか輪っかがあるが、なんか可哀そうなのでそこは使わないで、腕と腰を縛る程度にしておく。

 また『旦那様』などと言い出さないように、話を戻す。

「理由や経緯がどうであれ、お前らの作った門が、地球にダンジョンを作って、その出入り口に落ちたりい出て来たモンスターに殺されたりで、地球の人間もそれなりに死んでいるんだ」
「――ま、待て! ち、チキュウとはバハムートの魂のおった世界なのか? な、何故そこで死んだ者がいるなどと言える?」
「は? そこから来たからに決まってるだろ?」
「えっ!?」
「実際に見てるんだよ」

 俺の言葉を聞いて、メルガンは明らかに動揺している。目が泳いで、考えを巡らせているようだ。

「だっ! 旦那様は……その世界から来たというの……か?」
「お姉様……」

「そうだが?」
「カンダー。――ガンダーは?」
「……ガンダーか」

 俺はストレージから、ガンダーの槌とグンダリデの斧を取り出す。

 ドシーン! ダンッ!

「これは……ガンダーと妹御いもうとごの得物」
「ガンダーは見事な死に様だったよ」
「し!? 死んだ? ……あのガンダーが?」
「お姉様……」

「1万だぞ?」
「そうだ、1万だった」
「……全て倒したというのか?」
「全てだ」
「…………」
「お姉様……」

 メルガンはショックを受けているようだ。メルティナが心配そうに、そっとメルガンへ寄り添う。
 だが、そんな事は俺にはどうでもいい。

「さっきも言ったが、お前達が作ったダンジョンのせいで人が死んだ。あそこにいる幼い2人の父親も死んだ。お前はあの2人の仇なんだ」

 メルガンは、俺の言葉にハッと息を呑み、俺の指差すアニカとアニタの方を見る。

「それに……」

 これははっきりと伝えておかなくてはいけない。

「お前の探しているバハムートの魂は、俺の中にあるっ!」

「――なっ!」「――えっ!?」

 俺の大声につられ、ミケもアニカもアニタも側にやってきた。ピルムは挟まったままだ。

「お前たちの目論見は果たされなかったばかりか、ガンダーを始めとする忠誠心に厚い兵1万を失ったんだ。いくら俺達が弔ったとはいえ、今となっては何処か次元の狭間にあるか、消滅してしまったかもしれない」

 約1名馬鹿が混じっていたがな……
 
 メルガンは手を震わせて、しばらくの間黙り込んだ。

「お姉様……」

 ようやくメルガンが顔を上げた。そしてアニカとアニタの方を見詰めた。

「私のせいで、貴女達の父上が亡くなったそうだな。……申し訳ない事をした。すまなかった!」

 メルガンが膝立ちになって、アニカ達に深々と頭を下げた。
 メルティナもメルガンに倣って頭を下げる。

「私の命をもって償いとさせて貰えないだろうか?」
「お姉様っ!」
「いいのだメルティナ」

 メルガンはそこまで言うと、俺に向き直った。

「メルティナは私の指示に従ったまで……。どうか許してやっては貰えまいか」
「お姉様! なりません! わたしもご一緒します!」

 メルティナが初めてまともにしゃべった!

「いいのだ、メルティナ。旦那様の手にかかって死ぬなら仕方ない……」
「何をお前達で盛り上がっておる! ユウトの事を旦那じゃの何のもそうじゃが、お主らの生き死にを決めるのはアニカじゃ! アニタじゃ! お主たちの意思など微塵みじんも聞く必要など無いわっ!」

 ミケがアニカとアニタを両脇に置き、メルガン達に怒鳴った。

「そうだ。……アニカ、アニタ、お前達はどうしたい?」
「……お姉ちゃん?」

 アニタが、アニカを覗く。

「ユウトさん……。ユウトさん言ってましたよね? テミティズって人がこの人を操って、そのテミティズって人もハウラケアノスって人に操られていたかもしれないって……」
「ああ」
「この人だけが悪いのでしょうか? この人が一番悪いのでしょうか?」
「アニカ……」

 アニカはこんなにも思慮深い子だったのか。

「アニカよ、何を言っておる! 後ろで誰が糸を引いていようが、端から殺していけばよい! それで綺麗に収まるじゃろ?」

 ……久々に過激なミケを見た。

「ミケさん……。でも、やっぱりテミティズって人がいなかったら、この人はバハムートさんの魂を探すのを諦めていたかもしれませんよね?」

「……どうなんだ? メルガン」
「もしもなどとは私の立場では何とも言えないが、テミティズのしらせに舞い上がって踊らされたのは事実だ」
「お姉様……」

 そして、アニカもしばらく考え込んで、口を開いた。

「ユウトさん。この人をどうするか、少し待ってもらえませんか?」
「はあ? 何を言っておるアニカよ! 血迷うたか?」
「ミケさん、いいの。ハウラケアノスって人の企みを知ってから決めたいの」
「甘い! 甘いぞアニカ」

「ミケ、いいから! アニカはそれでいいのか?」
「はい。それに、これから変な事が起きたりするかもしれないんですよね? だったら、この人に魔人族が暴れないようにまとめてもらって、ここで何かあった時に抑えてもらった方がいいと思うんです」

 アニカ……、そこまで考えているのか。

「で、後から殺すのじゃな?」
「……」
「し、執行猶予ってヤツかな?」
「そうです。もちろん、何かこの人の大切なものを預かっておくと、安心できます」

 メルガンに目をやる。
 メルガンもアニカの考えの深さに驚いているようだった。そして、アニカを見つめて言った。

「私は……貴女の考えに従おう。従うあかしが欲しければ、妹のメルティナを預ける」
「お姉様!」
「メルティナは私の命よりも大切な妹だ。それを誓約の証とする」

「だとさ、それでいいのか?」
「わかりました。でも、私が決めて良かったのですか?」
「良いに決まってるだろ?」

 結局、メルティナを人質にメルガンの執行猶予的な判決になった。

「よいか? 貴様が変な真似をすれば、この女子おなごの首が飛ぶのだからな?」
「わかっている。妹を、メルティナを頼む」

 メルティナを拘束したまま俺達が預かり、メルガンの拘束を解いた。
 ついでにそこらに転がっている杖を2本とも回収し、預かる事にする。

「この杖は返すか?」

 メルガンに確認する。

「そ、それはバトルメイスだ! それは私と戦場を共にし、先程は旦那様の攻撃から私を守ってくれた大切な相棒。……それも誓約の証として預ける」
「わかった」
「おのれ~! またユウトを旦那様と言ったな! 次言うたら、この女子おなごを殺す!」
「なっ! やめてくれ!」
「……お姉様」


 俺達は、事の次第の報告とこれから起こる事に対処するために、まずはキースのところに向かうことにした。
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