上 下
120 / 121
第3章 カストポルクス、真の敵。

第119話 帰還。

しおりを挟む

 ミケの本気とも冗談とも取れる視線におびえていたピルムをなだめて、もはや“普通の大陸”となったここに一泊することにした。

 俺達は、朝から龍人のバケモノ、ハウラケアノス、ギルガンドのバケモノと戦い疲労が蓄積していたし、夕方も迫っていたしな。
 俺達の中では、アニカに傷を回復してもらってからずっと寝ていたアニタが一番元気だ。

「おうユウトよ! まずは風呂じゃ! あの酷いにおいと汁の中で戦ったのじゃ、鼻から臭いが離れんぞ」
「分かってるから。できるまでアニタの《クリーン》で我慢しててくれ」

 俺達は、裂け目の断崖に“巣”と風呂を作って一泊。ピルムには可哀そうだが、“巣”が見下ろせる大地にいてもらった。あとから風呂には入らせたが、もちろんぶっ壊れた。


 日が明けて、俺の魔力も十分回復したので、まずはキースのところに行く。

「龍人領との国境の件では、世話になったね。ありがとう」

 キースは、俺の顔を見るなり感謝の言葉を送ってきた。

「いえいえ。でも、案の定異変が起きていて、放っておいたら被害が拡大していたでしょうね。――ところで、俺達が“黒の大陸”にいた時の“大龍の叫び”の影響は?」
「ああ、叫びは3回あったね? 我が国でも、モンスターの凶暴化とダンジョン氾濫があったけど、押さえ込んでいる内に治まったんだ。日が沈む頃に凶暴化が解けて通常のモンスター並みになったから、討伐できたよ」

「そうか……。昨日の夕方前に決着がついたので、その関係かも?」
「決着?」

 ふふん! キースのリアクションも見たくて、真っ先にここに来たんだ。これを見て驚くがいい!

 俺は、そんな事を思いながらサリムドランの角と、執務室の半分は埋まろうかというほど大きいギルガンドの頭蓋骨を見せて、全て解決した事を伝えた。

「なっ!? き、昨日で全てが解決したと? しかも、“黒き大龍”がサリムドランとその相棒のドラゴンを操っていたと……」

 キースは、目を丸くして俺に聞いてきた。
 そして、“黒き大龍”を消滅させる事が出来たのは、バハムートが手伝ってくれたおかげである事を伝えると、キースは言葉を失って瞳に涙を浮かべていた。

「聖剣技が俺の思っていた倍以上の威力でしたよ。だから、バハムートは死して尚カストポルクスを救った、真の英雄ですよ」
「バハムート殿下もそうですが、やはりユウト殿もこのカストポルクスの英雄です。改めて感謝致します」

 キースの最大級の礼を受け入れると、キースは更にこれから時間を取れないかと聞いてきた。

「すまないが、俺達は今日、“ドラゴンの巣”に行きたいんだ」

 これがあるからね。と、ギルガンドの頭蓋骨をペタペタと叩く。
 ついでにアムートの様子と、魔大陸の様子を見たいしな。

 俺達は、明日また宮殿に来ると約束し、エンデランス王国へ転移する。
 キースのメイドさんが、慌ててお菓子の詰まった袋を持って来て、「あの子たちに食べさせて下さい」と、俺に持たせてくれた。……いい人!

 エンデランス王国でも、アムートに同じような報告をした。
 エンデランスでも異変の影響で人心の変化――謀反的な事があったようだが、ゴーシュの遠征騎士団が鎮圧に成功し、今帰還途中らしい。

 アムートからも最大限の感謝を受けた。
 アムートにとって、実父であるバハムートの聖剣技で世界が救われた事は感慨深かったようだ。

 その後、俺達は早々にエンデランス王城を出立し、“ドラゴンの巣”に移動。
 ドラゴンが棲みかとする山頂付近で、龍人集落を見渡せる場所にサリムドランとギルガンドの骨を一緒に埋めてやった。

 魔大陸の魔王城に転移したら、魔王城の空濠の外側に大勢の魔人族がいて、その多くは怪我を負っていた。
 俺達の姿を見てビビっている魔人を捕まえて事情を聞く。

「魔大陸の北部に縄張りを移したハウラケアノス様の部下の龍人1体が、バケモノみたいになって暴れたんだ――です」
「それでこんなに怪我人がいるのか……。で、ちゃんと倒せたのか?」
「へ、へい。メルガン様とメルティナ様がやってくれやしたです。それに、メルティナ様の軍団の治療も受けさせてもらえてよかったでやす」
「それで、メルガンとメルティナは?」

 メルガンとメルティナは私室にいるだろうという事で、ミケ以外はここに残ってもらって、アニカが魔人族を回復するのをサポートしてもらう。

 俺とミケで、俺達を怖がる魔人族を横目に城内をズカズカと移動し、メルガンの私室に入った。

「かわいいでちゅね~♪ どうしてお前達はこんなに可愛いの~? お姉ちゃんがチュッチュしてあげまちゅよ~♪ ん~っチュ~」
「キュ~!」「にゃ~お」「くーん」

「……」
「……」

 メルガンはこちらに気付いていないが、メルガンは『ホーンラビット』『ファントムキャット』『シャドーウルフの子供』といったもふもふに囲まれてデレデレしている。

「チュッチュッチュ~」

「ヴヴンッ!」
「キャーーーー! いっ! いつの間にここへ! 旦那様?」

 ピシャン!!

「痛いっ!」
「おうメルガンよ。今度ユウトを旦那と呼んだら、メルティナを殺すと申したのによう言ったのう? メルティナはどこじゃ?」
「ミ、ミケ殿! 申し訳ない! 許してくれ」

「ところで……、この可愛いモンスターたちは?」
「わ、私の使役するモンスター……です」
「こんなに可愛くて戦えるのか?」
「こっ! この子達には戦わせませんっ! わ、私の癒しなんです」

 メルガンが恥ずかしそうに、小声になって答えた。

 俺は、城の外で龍人のバケモノ化があった事を聞いたと伝え、「大変だったろう」と労う。

「で、メルティナは? 大丈夫、殺さないって」
「なんじゃとー!? ユウトよ、こういう事は有言実行が肝心じゃぞ?」

 メルティナは魔力の消費が激しく、隣で寝込んでいるという。

 見舞いがてら部屋に行くと、部屋には『ウォーカメレオン』『ニードルテイルニ尾針いもりュート』『ランススネーク槍ヘビ』といった爬虫類はちゅうるいがびっしりとうごめいていた。

「……あ、来てくれたの?」

 爬虫類がびっしりの床から、メルティナが這い出てきて俺もミケもビックリした。

「何じゃこの部屋は! 気色悪いの~」
「こ、これ、メルティナの使役モンスターか?」
「うん。この子達気色悪くない。……かわいい」

 とにかく、メルガンには“黒き大龍”を消滅させたから異変の心配は無くなったという事と、魔人族のこれからの生き方をきちんと考えるように改めて伝える。

 あと、魔王城の屋根にブッ刺さっているモンスターの死骸だの、血糊だの、汚いしセンス悪いから掃除しなさいとも言いつけた。



「あの大陸の統治者、“王”になってくれないか?」
「はあ?」

 翌日、キースの宮殿を訪ねた俺に、キースが王になれと言いやがった。

「いやいや! この星の全種族共同で、治めるなり開発するなりすればいいじゃないかっ!」
「そうだね。もしユウト殿が“王”になりたくないのなら、せめてその旗頭はたがしらになってくれないか?」

 キースめ~! 最初からこれを落とし所に考えていやがったな?

「だが断るっ! 俺達にはやりたい事があるんだ。いくら推されても、これは譲れない!」

 何度かのやり取りで、やっとキースが折れてくれたが、あの大陸の名称に俺の名を使われてしまった。

 その名も、『 希望大陸ユウト 』!

 ……恥ずかしいっちゅーのっ!
しおりを挟む

処理中です...