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第1章 ワンちゃんに変身しちゃう問題、解決?編
10.ニオイを覚えて捜索開始よ
しおりを挟むシドが真新しい清潔な革袋から、キアオラの弟子から預かっていたキアオラ翁のローブを取り出す。
下着じゃないだけよかったけれど、見るからに臭いを放っていそうなローブなのよねぇ。既に漂ってきているけどね……
シドが子犬のエドの高さに合わせてローブを差し出す。
すでに臭いは小屋に漂っているけれど、エドと二人で嗅ぐ。
やっぱりクサイィィッ!
クラクラするほどの、刺激臭と言ってもいいほどのおじいさん臭!
わたしはすぐに顔を背けたけれど、エドは鼻までくっつけてクンクンしている。
さすがエド。仕事には手を抜かないのね……
と思ったら――
ずっと同じ姿勢?
……これはおかしい。
「ブワウ!」
(エド!)
わたしが声をかけたら、エドがコテンと倒れた……
「ブワウ!」
(エド!)
「エドワード!」
「殿下!」
陛下やお父様が駆け寄って確認すると、エドはあまりの臭さに気絶していたのでした。
小屋内は右往左往、上を下への大騒ぎになったけれど、しばらくするとエドが呻きながら目を醒ました。
(強烈なニオイだった……ぼ、僕はどれくらい気絶していた?)
(三分くらいよ。もう大丈夫なの?)
(あ、ああ。心配かけたね、オリヴィー)
(エドったら、あそこまで鼻をくっつけなくても良かったのに……)
わたしとエドの会話が分からない陛下達が、中止の判断を下そうとしていたので慌てて止める。
「覚えたか? 本当に無理していないか?」
まだ心配が拭えていない陛下の問いに、わたしもエドも吠えて「大丈夫です」と答える。
……やっぱりわたしの声が太くてエドの声が可愛いなんて、理不尽!
そして、いよいよ外に出る為の準備に入るのだけれど……これも気が進まない。
その準備とは、首輪!
もう一度言うわ。首輪!
散歩という体なので、仕方ないと自分に言い聞かせて我慢我慢。
「お嬢様……申し訳ございません」
アンが申し訳なさそうに、わたしの首に輪を装着する。
……アン。あなたが気にする事ではないわ。でも、ありがとう。
せめて目を瞑って我慢するわ……
無事に? 首輪が装着されて、ついでにリードまで……屈辱!
泣くなわたし! 耐えるのよ!
エドはと言えば、アンが持ち歩く小さなバスケットの中。
柔らかい布が敷かれていて、その上にちょこんと座っている。
いいなぁ……本人としては気合を入れたキリっとした表情なのだろうけれど、かわいいし。
「ではエドワード、オリヴィア嬢。今日からのキアオラ捜索、頼むぞ」
「オリヴィア、殿下にご迷惑をお掛けするんじゃないぞ?」
陛下とお父様の見送りを受けて、いざ捜索開始!
表門は開閉の段階から目立つので、カークランド公爵邸の裏門から、ひっそりと出て行く。
まずは鼻で大きく空気を吸う。
風は王城方面から吹いてくる。
風上からの空気にはキアオラのニオイは混じっていないわ。
捜索場所の決定権はワンちゃんになったわたし達にあるので、必然的に風下側に進路を取る。
リードを引かれて歩くのは嫌なので、わたしが先導しようかとも思ったけれど……
シドの隣で歩くアンが、無口な彼をチラチラ見ながら嬉しそうにしているのと、無意識だろうけれどバスケットの中にいるエドのことをずっとお触りしているので、イタズラ心が湧いてお二人さんの間に身体をねじ込む。
エドも、アンのなでなでに気持ちよさそうにしつつ、鼻をクンクンしている。
(エド様~? アンの手がお好きなのですか?)
(ん? ――ハッ! オリヴィー! そ、そんなことはない!)
わたしの唸り声で我に返ったエドは、アンの手から逃れた。
アンも察しが良くて、「す! すみません。お嬢様! 私ったら、つい……」と、手を引っこめてくれた。
ワンちゃんに変身していると、無意識に犬の習性みたいなものが出てしまうことがあるのよね……
(さ! 早くキアオラを見つけられるように、頑張りましょう?)
(あ、ああ)
わたし達は、数日かけて広大な王都の城壁内を捜索したけれど、成果はなかった。
余談だけれど、シドの無口さには驚いたわ……
数日間一言もしゃべらないの! アンの問いかけに頷いたり首を振ったりはするけれど、ついぞ声を発しなかったわ。
エドに聞いても、「言葉を話せないわけではないよ。職務上、そういう風に訓練されているのさ」とのこと。
嫌われているのでは? と、気落ちしているアンを宥めるのに苦労したわ……
今度は、拠点を“王家の隠れ家”に移して、王都外の捜索。
散歩を装う必要が無くなったので、わたしとエドだけで動く。
アンは隠れ家で待機。シドも別のお役目に。
ちょっと残念そうにしていたわね……アン。
首輪を外す代わりに、万が一変身が解けてしまった場合に備えて、首にはお酒を入れた小さい樽を括りつけたスカーフを巻かれたので、実質首輪をされているのと変わらないわ……
当初は、アンが持っていたバスケットにエドも樽も入れて咥えて移動する案もあったけれど、重いのとブラブラしてバランスが悪いので、こういう形になった。
(さあ、行きますよ、エド?)
(うん。頼む)
エドはちょこんとお座りして、わたしに咥えられるのを待っている。ウズウズしている。
首根っこをわたしに咥えられると、全身を脱力させて――
(ああ! やっぱり安心感があるなぁ)
(…………)
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