結婚を控えた公爵令嬢は、お伽噺の“救世の神獣”と一心同体!? ~王太子殿下、わたしが人間じゃなくても婚約を続けてくださいますか?~

柳生潤兵衛

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第1章 ワンちゃんに変身しちゃう問題、解決?編

23.オリヴィー、君とやりたいことがある

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「終わりじゃ」
「えっ? 」

 エドがキアオラ翁の言葉に「もう?」といった感じに驚く。

「うむ。手応えがあった」

 時間にして数分。ずいぶん呆気ない気がするけど……紋様が光っていたもの成功したのね。

 紋様は今は光っていない。何事もなかったようだけど、どす黒かった色がすっかり抜けている。
 寄り代のぬいぐるみには変化なし。
 このぬいぐるみにお酒をかけると、本物のワンちゃんになるのかしら? ……やらないけど。

 翁によると、もう片付けてもいいそうなので、床に残った紋様を削り取って綺麗に拭き上げる。
 削りカスは、念の為に焼却処分しましょう……
 ワンちゃんのぬいぐるみは……ブッチの家族が入ったようなものなので、あとで祠を建てて祀りましょう。

 翁も、エドとシドの男性陣が大丈夫そうなので、テーブルセットを元に戻して、広いスペースでみんなで寛ぐ。
 ブッチと一緒に外に控えていてもらったアンに、お茶を用意してもらってお茶を飲む。

 ブッチは、テーブルの上に乗せられたぬいぐるみを、しばらくの間眺め続けていた。何か感じるのかしら?

「それにしてもキアオラさん。あの赤黒い光はなんだったのかしら?」

 光を放つ要素は無かったはず。不思議よねぇ?

「光?」
「なんじゃ?」

 わたしの言ったことが聞こえなかったのか、エドも翁も首をかしげる。

「ですから、儀式の最中に紋様が赤く黒く光っていたでしょ? ぽわっと」

「光ったかのぅ?」
「僕には見えなかったよ。シドは?」

 シドも首を横に振った。
 え? みんな見えなかったの? うそ……

 儀式を見ていたのは、キアオラ翁、エドとシドとわたしの四人しかいない。
 なんでわたしだけそう見えたのかしら?

「き、気のせいだったかも……」

 やっぱり目のかすみだった?
 気を取り直して、わたしとエドが完全な動物――犬の姿にならずに、お酒という契機によって変身する理由をみんなで考えていると――

 キアオラ翁が「おそらくじゃが……」と、話し始める。

 あの小屋の地下で呪術を行使したのだけれど、わたしも見た通り、近くに安酒の樽があった。
 それはキアオラ翁が、三年以上前にあそこに移された時点からあって、相当古かったそう。

「長い月日をかけて樽から漏れた酒が浸み込んだ地面に、陣を描き込んだからかも知れぬな」

 地面に浸み込んだお酒が『人間を動物に変える呪術』に作用したのね……
 それ以前、違う場所で行われたわたしへの儀式も、似たような環境だったのでしょうね。

「ある意味、浸み込んでいてくれて良かったってこと?」
「そうよね。お酒が浸み込んでいなかったら、一生ワンちゃんの姿のままだったって事なのだから」

 ワンちゃんに変身する件は、詳しく聞くにつけ気分が悪い話なので、思い出したくもないのだけれど……
 生贄が使われて……それが、ブッチのお母さんや生育の悪かった兄弟だったから。
 あまりに可哀そうで、今でも胸が締め付けられるわ……

 そして、翁は誰の物かを知らされずに、首謀者がどこからか手に入れたわたしやエドの私物や髪の毛を媒介に呪術を行使させられたということ。
 わたしとエドの間に六年近い差があるのは、媒介の入手の困難さがあるのかもしれないわね。王族の毛や爪を短期間で集めるのは不可能だものね。

 ひとしきり話をしたところで、エドが翁に告げる。

「キアオラさん、貴方の今後の事なのだが……弟子達を含めて、外部に触れぬように王家で面倒を見させてもらう」

 魔術や呪術なんていう、空想や神話・おとぎ話だと思われていた物が実在し、結果を出しているということが世間に広まれば大騒動になること必定ですものね……秘匿すべきものよね。

 ただし、なんでも秘密にするのでは無くて、雨乞いや狩猟に関する物などの一部――庶民の生活に役立つようなものを、王家の直属の研究機関を設けて方法論を確立したいそう。

「ワシの残り少ない人生、そのように使ってもらう方がいいじゃろうな。弟子達も、まだ残っておればの話じゃが……そのようにしてもらおう」

 王族に害をなそうとした罪には問われない代わりに、外部と遮断された場所で研究を行いながら余生を過ごすというエドの提案を、翁は受け入れた。

「そして……申し訳ないのだが、翁の持つ本は国王陛下に預けてもらわなければならない」

 本は王城に没収され、解析の上いずこかで厳重に管理されることになるそう。
 けれど、「せめてこの小屋にいる間は、手元に置いて手入れしてやりたい」という翁の願いは、受け入れられた。
 よかったわね、キアオラさん。


 キアオラさんに疲れが見えたので休んでもらうことにして、わたし達は小屋を出る。
 時刻は昼の三時を迎えるところ。
 外は相変わらず曇天で、温く湿った風も吹いていた。

「エドは、これからどうするの? 宮殿に帰る? できれば……屋敷でお茶でも飲みたいな?」

 本当はできるだけ一緒にいたいだけなのだけれど……

「そうだなぁ。バクスター侯爵家の件がどうなったか知りたいところだけど……。実はもっと……オリヴィーとやりたいことがあるんだ」

 エドぉー! なに? 嬉しいわ~。

「な、なんですの? わたしとしたい事……」

 く、くちづけ? こ、ここ、心の準備をしなくては! ドキドキしてきたわっ!

「それは……」
「――それは?」

「それは……乾杯だよ」
「……へっ?」

 か・ん・ぱ・い? かんぱい?
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