結婚を控えた公爵令嬢は、お伽噺の“救世の神獣”と一心同体!? ~王太子殿下、わたしが人間じゃなくても婚約を続けてくださいますか?~

柳生潤兵衛

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第2章 とんでもない異変!編

29.報告

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 わたしとエドの乗った馬車は城門を抜け、そこから王族のみが使用できる通用門へ鼻先を向ける。
 これまでは人目を避けて王宮や王太子宮殿に向かっていたけれど、エドに関しては呪術の影響下から脱しているので、王城に正面から堂々と姿を晒して陛下と会うことにしました。

 王族専用通用口も使わないということで、わたしは念のため、キアオラ翁の為に数枚仕立てていたローブを一着借りてフードも被っている。

 問題は、わたしの髪の色。
 というのも、『銀狼公』たるカークランド本家は初代から血統が途絶えたことはなく、その直系子孫は皆ことごとく銀髪なので、この銀髪を見ればカークランド家の人間だと分かってしまうからである。
 他家に嫁いだり、分家して傍系になると、その子孫は銀髪で無くなるの。だから、公爵家を継ぐお兄様に子が出来ればその子は銀髪に、わたしが子をせば……恐らく違う髪色の子となる。

 だから、わたしの年代の銀髪の女性はオリヴィア・カークランドただ一人であり、『バートン第二王子殿下の誕生を祝う夜会で犬になって以来姿を見せない』公爵令嬢と結び付いてしまう……
 それを避ける為に、出発前にメイド長を呼んで修道女のように頭巾ウィンプルを着けてもらって頭髪を完全に隠し、さらにフードで顔も隠している。

 正面エントランス前には、先触れを受けた近衛騎士が待ち受けていて、彼らの先導・護衛の下、城内へ入る。
 入城に際しては身分や地位別に所持品や身体の保安検査や、武器になり得る物品の一時預かりを行うのだけれど、エドと一緒にいる時に限って婚約者のわたしも素通りが許されている。

「凄い人……まるで大規模な夜会の入場を待っているみたいね?」
「ご婦人方はほとんどいないけど……ね」

 そう、本来ならば終業を迎えている時刻だというのに、エントランスは人でごった返している。
 夜会とは違って、ほとんどが成人の男性で、しかも文官や鎧を身に纏った騎士ばっかりなのだけど……
 今回の“負密ふみつ直列の月による日蝕”という、数千年に一度の天文現象によって起こるかもしれない事態への備え・対応に追われていて、王城に控える閣僚の決裁、若しくは国王陛下の裁可を求めに来ているそうです。

 エントランスホールで保安検査を待つ列を成しているそれらの人達のうち、エドに気付いた人の間でざわめきが起こった。

「王太子殿下だ!」
「姿を消したと聞いていたが、いらっしゃるではないか」
「いや、私の縁者は、消える瞬間を見たと言っていたぞ?」
「貴殿ら、王太子殿下がどうしたのだ?」
「い、いや、なんでもない」

 箝口令が敷かれたとはいえ、人の口に戸は立てられないもの、随分と噂が広まっているみたい。
 このざわめきは、城内を陛下の執務室に向かう最中も続く。
 執務室の手前では、わたしからの文を読んだお父様が待っていた。その後ろには、馬車を収容庫へと運び終えたシドも既に控えている。

 お父様は開口一番、私と同じようにエドに謝罪する。

「頭をお上げくださいカークランド卿。オリヴィア嬢にも言いましたが、僕は気にしていませんし、陛下にも取り成すつもりですから」
「殿下のご配慮、誠にかたじけなく存じます」
「とんでもないです。卿はこれから僕の義父となるのですから」
「殿下……」
「エド……本当にありがとう」


「王太子殿下およびカークランド公爵閣下、カークランド公爵令嬢が参られました」
「うむ。通せ」

 わたし達が執務室に入ると、陛下は執務面の補佐をしている侍従たちを執務室直前の待機室に控えさせ、裁可待ちの書類が積まれた執務机から備え付けの応接室へ場所を移す。

 まずはエドから、自身の呪いが解かれた報告。

「オリヴィア嬢やカークランド卿の力添えもあり、無事に呪術を脱することができました」
「まことか?!」
「はい! すでに祝杯も挙げて確かめております」
「おおっ! それは良かった。これでようやく余とも酒を酌み交わせるな」

 せっかく陛下がお喜びになっているけれど、わたしの解呪の失敗と、六年以上も隠していたことをお伝えし、お父様と一緒に謝罪申し上げる。

「なっ! 六年も……」
「申し訳ございません! この責は、全て当主である私にございます。処罰はこの身がいかようにも受けますので、オリヴィアのことはどうか御赦しください」

 お父様が謝罪の姿勢を更に深め、懇願する。

「陛下――いいえ父上! 僕はこの件で二人に何ら含むところはありません。それに……僕が妃に望むのはオリヴィアだけです。義父となるカークランド卿ともども、どうか寛大なご処置を」
「エドワード……。分かっておる。二人とも頭を上げよ」

 陛下が頭を上げたお父様とわたしを改めて見て――

「六年も騙してと、怒ったのではない。余もエドワードの今回のことで、随分と心を痛めたものだ。それを六年以上も抱えておった――苦しんでおったのか……オリヴィア嬢も卿も、と驚いたのだ。……それにエドワードの言う通り、卿とオリヴィア嬢の力添えあってこそ、救われたのだ。この国の王太子の身と王の心が」

「有難きお言葉にございます」
「ありがとう存じます」

 もう一度頭を下げるお父様の肩を、陛下が労うように叩く。

「卿が余に秘密を持っていたことは、通常ならば咎められるべきだが、この事案は我が王家も絡む特殊事案ゆえ不問に決まっておろう。エドワードの想いもあるし、婚約もそのままだ。……貸し一つと思ってくれ」

 陛下は最後の一言とともに、茶目っ気たっぷりなウィンクをお父様に向けた。

 そして、わたし達は席に戻り、我が家の小屋で話していた内容を陛下にお伝えする。

 わたしがキアオラ翁の呪術の対象者では無い可能性が高い。
 では、翁が呪術を施したのは誰?
 それを調査することが、首謀者の特定や解決に結びつくのではないか?

 それらを踏まえて協議していると、執務室の外に控えてさせた陛下の侍従の方が遠慮がちに入室してきた。

「キャナガン・バクスター宰相閣下が緊急の裁可を求めにいらしています」
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