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第2章 とんでもない異変!編
37.光の魔法が上手な狼
しおりを挟むお父様とエドが執務室から出て、わたしと銀狼様が二人? きりになった途端、大あくびとともに――
「ふぁあーあ! 久し振りの“お貴族様”口調は堪えるぜー」
そのお口からもその口調が出るんだ……とても公爵夫人とは思えない口振りですけど?
「“元”だからな? それにガル坊と番になる為にわざわざ人の姿になって、お貴族様の言葉も覚えてやったんだかんな!」
なにその純愛! 健気ぇ!
「……チッ! まあいい。ところでオリヴィア、わざわざアンタとだけ先に話すってことには訳がある。なんでか分かるか?」
銀狼様はソファ中央に寝そべって、わたしにも座るようにと目で促してくる。
わたしは深くは考えずに、隣――銀狼様の頭の近く――に腰をおろしながら答える。
「銀狼様のお声が聞こえたから? でしょうか」
「それと?」
それと?
銀狼様が交差させている前脚に乗せていた頭を、少し持ち上げて上目遣いで聞いてくる。
えっと……
「あの……何か……黒いものが見えたりした、からですか?」
キアオラ翁が描いた紋様が赤黒く光ったところや、蝕の時のドス黒い圧……とか。
「まあそんなトコだ。なんでか、は後で教えてやる。それよりも大事なことがあんだろ?」
「はい。裏手の小屋から現れて立ち去ったという――」
「――蜘蛛野郎のことだろ?」
蜘蛛野郎?
やっぱり使用人達が見ていた通りの怪物なのね……
「ご存知だったのですか?」
「ああ、ここ最近気配を感じていたからな」
「――ですがっ! その姿には人間の手足が……目には人間の顔があったと聞きました!」
「みてえだな。『涜神の並び』で力を得て起きたんだろうよ……」
「起きた?」
銀狼様はなぜあの怪物の事をご存知で、現れた理由まで知っていらっしゃるの?
まさか知り合い? っていうか、仲間で何か企んでいる?
「おい、アタイはアンタの心の声まで聞こえてんだぞ? オリヴィア」
「すっ、すみません!」
「……でも、仲間だったといやあ仲間……か」
「――どっ! それは、どういう意味ですか?!」
わたしは思わず銀狼様の方に向き、勢い余って銀狼様の頭のそばに手を付いてしまった。
銀狼様は「おっと」と頭をずらし、わたしの手に自らのお手――前脚を重ねる。
「落ち着け、オリヴィアよ」
銀狼様に触れられると、不思議と落ち着く。
「そうだなぁ、どう説明してやろうか……。オリヴィア、アンタは『七体の魔法使い』のお伽噺を知っておるか?」
唐突な質問だった。
『七体の魔法使い』は、この国――いや、この大陸の人間だったら子供の頃に必ず親から聞いた事のあるお話。
わたしや多くの貴族子女は乳母から聞いたはずですけど……
わたしが「知っています」と答えるより先に、考えを読み取った銀狼様が「うむ」と頷いて話を続ける。
「アタイはそのお伽噺の『光の魔法が上手な狼』だ」
えっ! えええーっ!
「なっ、ななな、『何千年もむかし』から始まるお噺ですよ?」
「そうだが?」
「ガ、ガルフ様でさえ千年も前のお人ではないですよ?」
「そうだな」
「そ、そのずっと……ずっとずっと前から?」
「いるなぁ」
「何千年も?」
「いる」
「ほ、本当のお話だったのですか?」
「実際にいるからなぁ?」
まさか……お伽噺で聞いていたものが本当の事だなんて!
「じゃあ、『朝をもたらす大きな神様と夜をもたらす三つ子の神様』も?」
「それは違う」
「えっ?」
「後から誰かが創って足したんだろうさ。神はいるが、一柱だけだしアーカスとは別の世界にいる。太陽は神が創った恵の火だ」
す、すごい重要なことをサラッと……
「それに月も三つ子じゃねえの、知ってんだろ?」
たしかに高等教育では、双子の“双月”と、別の軌道で周る“珠月”と教わるわ……
「問題は“月”のほうで、どうも月が魔獣に力を与えてやがるみてえでな……それもその“珠月”とやらが、な」
「魔獣に、力を?」
「月は太陽に重ならなくても、三つに並ぶ時が多いだろ?」
ええ、等直列や密直列ね。
「そん時に魔獣共に力をくれてやってんだ。今日みてえに月が並んで、さらに“恵みの火”を遮って神の力を弱めると、余計ひでえことになるのは確実だ」
「でも! おとぎ話の文脈では、朝をもたらす神様――太陽――と夜をもたらす神様――月――の、二柱の神様が力を合わせて七体の魔法使いをお創りになったって……今日のような日蝕では?」
銀狼様は鼻で笑って答える。
「そりゃあ誰かが後から足したんだろうさ。アタイらがこの地に創られてから、今日みてえな完全な『涜神の並び』は無かった。実際は魔物に力を与えている月の直列のことが神秘的に見えた人間が、『これが太陽と重なったらどうなるんだ?』『きっとその時に魔法使いが創られたに違いない』って想像したんだろうさね」
「ええぇ……」
「あれが吉兆に感じられるか? アンタは見たんだろ? オリヴィア。珠月が深紅に光って、地上に黒い圧が送られたとこをよ」
「……はい。――っ! それで蜘蛛みたいな怪物も?」
銀狼様は一瞬、舌打ちで上げた片頬が片目を圧し閉じ、苦々しげな表情をした。
「そうだ」
話が怪物に戻ったわね。
「アイツは元々……『呪の魔法が上手な蜘蛛』だ」
「そん、な……」
「アイツは神から魔法を消された時、相当に怒って荒れて神を怨むようになった。何千年も大人しくしていたみてえだが、怨みは募らせていたんだろうな」
「神様を怨むなんて……」
「で、途中は端折るが、今日の『涜神の並び』の圧を浴びて魔獣に成り果てちまったのさ。いや、確信犯的に魔獣になったってとこか」
「わざと?」
わたしの言葉に、銀狼様は答えずに溜息をひとつこぼした。……肯定だろう。
「それを教えて下さる為に、わたしと二人に?」
「いや、こっからの話の為だ。ここまでの話は外で待つ二人にももちろんする。オリヴィアがなんでアタイの声が聞こえたかも含めてな」
「では、どういったお話でしょう?」
銀狼様は「うむ」と呟くと、ゆっくりと起き上がってソファの上でお座りの姿勢に。そして、同じくらいの目線になったわたしを見据えて真剣に――
「アタシとアンタでアイツ――蜘蛛野郎を止めるんだ」
「えっ!?」
「ちゃんとした理由もある。アンタの父親の前で説明するが、それでも急に言われるよりもマシだろ? 心の準備ができるだろ」
「…………」
……マ、マシじゃありませんしっ、ここっ、心の準備だってできません!
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