3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

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エピソード1

アンプラグド4/5

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 すっかり腰を抜かしてしまい、情けなく地べたに座り込む俺。

「ふぅ……生まれて初めてゾンビに襲われた。
 く、くそ。俺は数あるゾンビ映画を見て学習していたのに何も出来なかった。
 ご都合的に殺されるモブキャラ達を馬鹿にしてたんだ。
 あんなゾンビ楽勝だぜって思ってた時代が俺にもありました……反省してます」

 そう、ゾンビはのろまだし銃があれば余裕だと思っていたのだ。

「イチロー、さっきから何言ってんの? もう、だから私達用心棒がいるんじゃない。餅は餅屋ってね、貴方の仕事は別でしょ?」 

「マリーの言う通りだイチロー。君の仕事は殺しじゃない、それだけの事さ。立てるか?」

 マードックさんが俺に手を差し伸べる。
 俺はその手を掴むと凄い力で引っ張り上げられる。
 やばい、俺は不覚にもこのサイバーパンクな男に惚れそうだ。
 もちろん男としてだ。

『マスター大丈夫ですか? 心拍数が上がっておりますが』

「あ、ああ。っていうか、俺ってなんだろうな。サイバーパンクの世界に21世紀の日本人を放り込まれても何もできませんのですが?」

『いいえ、マスター。貴方は福祉団体フリーボートの社員です。その肩書だけで外銀河では割と何でもできますよ、もっと自信を持ってください』

「それ……。嬉しくないし心の底から自信持てないやつだ。そんな事で自信持てる奴は馬鹿かスネ男くらいだ」

 そう、俺は庶民。これからも謙虚に生きていくのだ。

「ふう、ドレスが汚れちゃったわ。まったく、血のりはなかなか落ちないのよね」

 顔に着いた血をハンカチで拭き取るマリー、次にドレスに着いた血を拭き取る。

「あ、なるほど。それで赤いドレスなんですね。経済的でいいと思います。それに深紅のドレスはマリーさんに良く似合ってますよ」

「そう? でもたまには純白のドレスが着たいわ。マードックはケチだし」

「……そういうな、それに、どうせ直ぐに深紅に染まるのだから意味がないだろう」

「まったく、乙女心が分かっていないわね、そんなんじゃモテないわよ?」

 マリーさんはそう言うが本心からではないだろう、からかいついでに愚痴を言っているだけだ。
 二人のやりとりでその辺は察せる。いいコンビ、というかカップルみたいだ。
 

「俺って蚊帳の外だよなぁ……」

 彼女いない歴イコール年齢の俺……。

『ふふふ、マスターの仕事はこれからです。さてアンプラグドの本部に付きました。シャキッとしてください』

 俺は廃墟ビルを見上げる。その最上階のみが怪しく光っている。

 俺達が近づくとナノゾンビ対策であろう重厚なゲートが開く。
 入り口には黒服にサングラスの大男が二人。

 映画でよく見るやつだ。俺は遂にギャングのアジトにやってきたのだ。
 俺達は案内されるがままエレベーターに乗り最上階へ向かう。

 マードックはマリーを左腕で抱えたまま無言で俺の後に立つ。

 案外お喋りだと思ったアンドロイドだがビルに入ったとたん一言も喋らない。
 まるで人形の様だ。人見知りという事ではないだろうし、これが仕事の時の彼女の姿なのだ。

 エレベーターの扉が開くと、そこはフロア全てを使った広い部屋であった。
 全面ガラス張りで外が良く見える。
 それに室内には空間を贅沢につかったソファやテーブルに観葉植物、そしてビリヤード台など。

 俺は知っている、マフィアのボスの部屋だ。
 いや大富豪やハリウッドスターがよくやる意味不明なパーティーをする高級ホテルのVIPルームというやつだろうか。

「ようこそ、ミスター、イチロー・スズキ。私がアンプラグドのリーダー、マクシミリアンと申します。お見知りおきを。
 では早速積み荷の受け渡しについて打ち合わせをしましょうか。何か飲み物でもいかがですかな?」

 マクシミリアンと名乗る仕立てのよさそうなスーツを着た男が指を鳴らす。

 フロアの奥から真っ赤なイブニングドレスを着たグラマラスな金髪の女性が、人数分のシャンパングラスを乗せたトレイを持ってやってきた。

 うーむ。やはりここはマフィアの屋敷だ。いやラスベガスでもこんな感じかもしれない。
 俺は行ったことがない、あくまで全て映画のイメージだが……。

 まさかリアルでみるとは思わなかった。
 だが悔しいかな、俺はこのユニバールクロークを外すことができない。
 ブーステッドヒューマンではないからだ。

「お気遣いなく。それに俺はユニクロを外す事が出来ませんので。マードックさんはどうします?」

「俺は用心棒だ。仕事中に酒は飲まない」

 失礼だっただろうか。
 いや、まだ相手のことが分からない、ほいほいと出される飲み物を口にするのはプロ失格なのだ。

「……そうですか、では早速ですが仕事にかかりますかな」

 俺としても、この空気は緊張しっぱなしだ。
 さっさと積荷の説明と受け渡しのサインをもらって退散したいところだ。

 俺はアタッシュケースから数枚の書類をとりだす。

 3024年の現在、残念ながら完全デジタル化にはなっていなかった。
 こういった重要な公文書は未だに紙ベースである。

 俺はアマテラスに詰まれた補給物資を細かく説明する。
 のどが渇くが、これが俺の仕事なのだ、頑張らないと。
 きっと21世紀で商社に就職してたら、こういう仕事をしてたんだろうなと思いながら説明を続けた。

「――以上です。これらの物資はアマテラスのコンテナに収納されております。
 問題なければ書類にサインを……。サインいただき次第、船に戻って所定の場所に降下いたします」

 俺は説明を終えると公文書用のインクが入った万年筆をアタッシュケースから取り出す。

「ふむ、ご支援大変感謝いたします。しかし、一つ足りないものがありますな……。
 ところでそのユニバーサルクロークは初めて見ました。最新のモデルですかな?」

「え? はい、たしかフェーズ5で、防弾防刃、霊子通信搭載の最新型だって言ってました」

「それは結構ですな。フェーズ5は民間で許される最強の防御性能と生命維持装置を備えたとても高価な物です。それは結構……」

「そうですか、ありがとうございます。ところで、足りない物とは?」

「……そうですな。我々はフリーボートの支援には本当に感謝しているのです。
 ですがアンプラグドはこのままでは良くない。独立すべく次に進むべきだ……」

 マクシミリアンはそう言うと席を立ち、窓に向かってゆっくりと歩き出す。

「そう、独立の為には船が必要だ。足りないもの、それは貴方の船だ!」

『マスター! その場に伏せてください!』

 次の瞬間。フロア内にマシンガンを持った黒服の男達がなだれこみ、俺達に向けて何の警告もなくその引き金が引かれた。

 ああ、俺、今撃たれてる。乱射したマシンガンの弾は容赦なく降り注ぐ。

 でも、ちょっと痛いだけだ、BB弾があたった程度の痛み、やはり最新式のユニクロは凄い。

 さすがに連続で喰らうと結構痛いし、怖いので起き上がることができない。
 なぜ殺せないと分かってこんなことをするのか。

「そうだ、マードックさん! マリーさん!」

 ……返事が無い。

 くそ、そういうことか。
 やつら、俺だけ生かして、船の所有権を奪うつもりだ。
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