21 / 133
エピソード1
マンインザミラー1/5
しおりを挟む
福祉船アマテラスがアーススリーへ航行を開始して直ぐの出来事。
アーススリーの衛星軌道上の宇宙ステーションでその事件は起こった。
博物館として宇宙ステーションの隣に展示してある戦艦スサノオは、修学旅行中の子供達を乗せたまま突然動き出してしまったのだ。
戦艦スサノオには修学旅行中の小学生たちで貸し切りであったため、他の民間人は一人もいない。
まるでそのことを見越して行われた犯行であるかのようだった。
スサノオ船内のブリッジにて全身黒ずくめの男は子供達の前にいた。
正確にはブリッジに備えられているクリスタルディスプレイに映し出された虚像ではあるが。
スサノオのメインコンピューターの電源は入っていない。
外部の何らかの装置によって、プロジェクターの様に写し出されているようだ。
それは、合わせ鏡の様にブリッジ中に同じ姿で交互に黒ずくめの男が何人も写し出されていた。
顔まで黒いマスクで隠しているので正確には男かどうかも怪しいが、声の低さから男性であろうということは分かる。
その男は感情のない声で子供達に言う。
「戦え……戦え子供達よ……」
子供達にはその意味が分からない。
突然の出来事に絶句しその場に固まる。
引率の先生は意識を失い倒れていた。
脈はあり呼吸もしているので命に別状はないと保健委員の女子が言っていた。
両親が医者であるその女子生徒の言葉は信頼できる。
先生たちは彼女に任せておけばいい。
クラス委員長であるトシオは先生がいないこの状況において、クラスメートを守る義務がある。
震える手を握りしめ、かろうじで目の前の黒ずくめの男に対峙する。
「戦えって、どういうことですか? それに先生に何をしたんですか?」
「……人間とは戦う生き物、戦ってこそ未来があるのだ。戦え、子供達よ」
トシオの質問には答えてくれない。
そもそも目線は子供達に向いていなかった。
この男はおそらく冷静ではない、態度こそ冷静であるがその内面に隠している狂気は感じ取れる。
トシオは相手を怒らせないように、話を合わせることにした。
「戦えって、誰と戦えばいいんですか? それに怪我をしたり……もし死んじゃったらどうするんですか?」
その男はトシオの質問を受けてもなお、目線は彼に向かず明後日の方向を見ていた。
まるでどこまでも広がる宇宙に語り掛けるように両手を広げ語りだした。
その姿はオペラ歌手のように大げさな態度だった。
「傷ついた戦士はやがて英雄となりアヴァロンへ召されるだろう。
……おっと、そうだね、死んだらどうするか……安心したまえ。
君達の武勇は親御さんへ伝えることを約束しよう。君はトシオ君だね? たしか君には五歳の妹がいるね。誇り高い兄を持ってさぞ鼻が高いだろう」
その言葉でトシオは固まる。
この黒ずくめは家族を知っているのだろう。
おそらく、クラス全員の家族の情報が知られている、指示に従わないとどうなるか分からない。
言い終わるが速いか、黒ずくめの男は再び「戦え……」と、ブリッジ内にこだまのような残響を残し消えていった。
同時に船が動き出す。
子供達は、状況を理解する前に戦艦にとじこめられて宇宙に放たれたのだ。
「どうしよう……戦えって、敵だって分からないのに、どう戦えばいいんだよ!」
トシオは憤る。
せめて戦うべき敵を教えてくれなければどうしようもない。
その時、動き出した戦艦のブリッジから声が聞こえた。
「ふははは……我は戦艦スサノオ、おや快活な子供達よな、よいよい、大義である。わっはっは!」
おそらくはエンジンの始動とともにスサノオの制御コンピュータが起動したのだろう。
薄暗かったブリッジに照明が灯り、様々な計器類やメインモニターが光りだす。
モニターに映るのは、壮年の男性である。おそらく戦艦スサノオのAIであろう。
スサノオの制御コンピューターはコマンダー級の霊子コンピューターである。
トシオはスサノオに助言を乞う。
「僕ら、どうしたらいいか分からないんだ。戦わなければ生き残れないって。でも戦ったことないし。どうしたらいいの?」
「うん? なぜ戦うのだ? 戦争でも始まったか? それに主はまだ子供ではないか。遊び……ではなさそうだのう。訳を話してくれぬか? なにか力になれるやもしれん」
トシオは事情を話す。戦わなければ家族が危険にさらされるのだと……。
スサノオはトシオの話を最後まで聞く。
同時に子供達を見回し状況を把握した。
子供の悪戯などではないと察したスサノオは声を落とし、優しく子供達に語り掛ける。
「……ふむ、お主等の家族が人質になっているのだな? すまんが我には犯人をどうこうすることはできぬ。
当面は黒ずくめとやらの要求通りにするのが得策というものだろう。であるならば戦艦としてやることは一つよ。
ちょうど霊子レーダーには同型艦の反応があるしな……」
こうして、子供達を乗せた戦艦スサノオは、福祉船アマテラスへ奇襲攻撃を仕掛けることになった。
…………。
急きょ、戦艦スサノオの艦長となったトシオ。
今年で十二歳、真面目で運動もでき成績もよい。クラス委員長としても人気がある。
……だが、もちろん戦闘経験は無い。
それでも彼は生き残るために一生懸命だった。
スサノオの提示した作戦プランから考えられる最善の策を選択した。
……だが、結果は散々であった。
亜光速巡航ミサイルで待ち伏せをするも失敗。
主砲の撃ち合いではこちらが一方的に撃ち負ける。
惨敗だった。
だが、トシオは安心した。
ミサイルが外れたこと、主砲がアマテラスを破壊しなかったこと。
全力で戦ったけど、負けた。これなら黒ずくめも納得するだろう……。
アヴァロンなんて知らないけど、家族やみんなが無事ならそれでいい。
「でも……僕はどうなるだろう。勝手に船を動かしてしまった、きっと警察に捕まるだろう……」
うなだれるトシオに、スサノオは豪快に笑う。
「ふははは。すまんな子供達よ、我の力不足故に負けてしまったようだ。だが安心しろ、相手は戦艦アマテラスであったわ。
あれは我が姉だ。故にこれからちょっと話をつけてくる。
なあに、悪いようにはせんだろうて。それにトシオよ、初めてにしては中々に立派であった。温情ある処置を乞う故、安心しておれ! わっはっは」
「スサノオさん……ありがとう」
アーススリーの衛星軌道上の宇宙ステーションでその事件は起こった。
博物館として宇宙ステーションの隣に展示してある戦艦スサノオは、修学旅行中の子供達を乗せたまま突然動き出してしまったのだ。
戦艦スサノオには修学旅行中の小学生たちで貸し切りであったため、他の民間人は一人もいない。
まるでそのことを見越して行われた犯行であるかのようだった。
スサノオ船内のブリッジにて全身黒ずくめの男は子供達の前にいた。
正確にはブリッジに備えられているクリスタルディスプレイに映し出された虚像ではあるが。
スサノオのメインコンピューターの電源は入っていない。
外部の何らかの装置によって、プロジェクターの様に写し出されているようだ。
それは、合わせ鏡の様にブリッジ中に同じ姿で交互に黒ずくめの男が何人も写し出されていた。
顔まで黒いマスクで隠しているので正確には男かどうかも怪しいが、声の低さから男性であろうということは分かる。
その男は感情のない声で子供達に言う。
「戦え……戦え子供達よ……」
子供達にはその意味が分からない。
突然の出来事に絶句しその場に固まる。
引率の先生は意識を失い倒れていた。
脈はあり呼吸もしているので命に別状はないと保健委員の女子が言っていた。
両親が医者であるその女子生徒の言葉は信頼できる。
先生たちは彼女に任せておけばいい。
クラス委員長であるトシオは先生がいないこの状況において、クラスメートを守る義務がある。
震える手を握りしめ、かろうじで目の前の黒ずくめの男に対峙する。
「戦えって、どういうことですか? それに先生に何をしたんですか?」
「……人間とは戦う生き物、戦ってこそ未来があるのだ。戦え、子供達よ」
トシオの質問には答えてくれない。
そもそも目線は子供達に向いていなかった。
この男はおそらく冷静ではない、態度こそ冷静であるがその内面に隠している狂気は感じ取れる。
トシオは相手を怒らせないように、話を合わせることにした。
「戦えって、誰と戦えばいいんですか? それに怪我をしたり……もし死んじゃったらどうするんですか?」
その男はトシオの質問を受けてもなお、目線は彼に向かず明後日の方向を見ていた。
まるでどこまでも広がる宇宙に語り掛けるように両手を広げ語りだした。
その姿はオペラ歌手のように大げさな態度だった。
「傷ついた戦士はやがて英雄となりアヴァロンへ召されるだろう。
……おっと、そうだね、死んだらどうするか……安心したまえ。
君達の武勇は親御さんへ伝えることを約束しよう。君はトシオ君だね? たしか君には五歳の妹がいるね。誇り高い兄を持ってさぞ鼻が高いだろう」
その言葉でトシオは固まる。
この黒ずくめは家族を知っているのだろう。
おそらく、クラス全員の家族の情報が知られている、指示に従わないとどうなるか分からない。
言い終わるが速いか、黒ずくめの男は再び「戦え……」と、ブリッジ内にこだまのような残響を残し消えていった。
同時に船が動き出す。
子供達は、状況を理解する前に戦艦にとじこめられて宇宙に放たれたのだ。
「どうしよう……戦えって、敵だって分からないのに、どう戦えばいいんだよ!」
トシオは憤る。
せめて戦うべき敵を教えてくれなければどうしようもない。
その時、動き出した戦艦のブリッジから声が聞こえた。
「ふははは……我は戦艦スサノオ、おや快活な子供達よな、よいよい、大義である。わっはっは!」
おそらくはエンジンの始動とともにスサノオの制御コンピュータが起動したのだろう。
薄暗かったブリッジに照明が灯り、様々な計器類やメインモニターが光りだす。
モニターに映るのは、壮年の男性である。おそらく戦艦スサノオのAIであろう。
スサノオの制御コンピューターはコマンダー級の霊子コンピューターである。
トシオはスサノオに助言を乞う。
「僕ら、どうしたらいいか分からないんだ。戦わなければ生き残れないって。でも戦ったことないし。どうしたらいいの?」
「うん? なぜ戦うのだ? 戦争でも始まったか? それに主はまだ子供ではないか。遊び……ではなさそうだのう。訳を話してくれぬか? なにか力になれるやもしれん」
トシオは事情を話す。戦わなければ家族が危険にさらされるのだと……。
スサノオはトシオの話を最後まで聞く。
同時に子供達を見回し状況を把握した。
子供の悪戯などではないと察したスサノオは声を落とし、優しく子供達に語り掛ける。
「……ふむ、お主等の家族が人質になっているのだな? すまんが我には犯人をどうこうすることはできぬ。
当面は黒ずくめとやらの要求通りにするのが得策というものだろう。であるならば戦艦としてやることは一つよ。
ちょうど霊子レーダーには同型艦の反応があるしな……」
こうして、子供達を乗せた戦艦スサノオは、福祉船アマテラスへ奇襲攻撃を仕掛けることになった。
…………。
急きょ、戦艦スサノオの艦長となったトシオ。
今年で十二歳、真面目で運動もでき成績もよい。クラス委員長としても人気がある。
……だが、もちろん戦闘経験は無い。
それでも彼は生き残るために一生懸命だった。
スサノオの提示した作戦プランから考えられる最善の策を選択した。
……だが、結果は散々であった。
亜光速巡航ミサイルで待ち伏せをするも失敗。
主砲の撃ち合いではこちらが一方的に撃ち負ける。
惨敗だった。
だが、トシオは安心した。
ミサイルが外れたこと、主砲がアマテラスを破壊しなかったこと。
全力で戦ったけど、負けた。これなら黒ずくめも納得するだろう……。
アヴァロンなんて知らないけど、家族やみんなが無事ならそれでいい。
「でも……僕はどうなるだろう。勝手に船を動かしてしまった、きっと警察に捕まるだろう……」
うなだれるトシオに、スサノオは豪快に笑う。
「ふははは。すまんな子供達よ、我の力不足故に負けてしまったようだ。だが安心しろ、相手は戦艦アマテラスであったわ。
あれは我が姉だ。故にこれからちょっと話をつけてくる。
なあに、悪いようにはせんだろうて。それにトシオよ、初めてにしては中々に立派であった。温情ある処置を乞う故、安心しておれ! わっはっは」
「スサノオさん……ありがとう」
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる